肉屋が牛耳る町をニセ保安官がボコる。犯罪ドラマ「バンシー」一気見余裕

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一気見してしまった。
海外ドラマ『バンシー』
製作総指揮を務めるのは、『アメリカン・ビューティー』(1999年)でアカデミー脚本賞を受賞したアラン・ポール。


2016年9月2日現在、Huluで第3話まで配信(毎週月曜日配信)され、徐々に物語の全体像が見え始めた。

過去が追いかけてくる


『バンシー』は、古くはロバート・ミッチャムが元探偵のガソリンスタンド店主を演じたフィルム・ノワールの傑作 『過去を逃れて』、最近ならヴィゴ・モーテンセンがじつは元●●(一応ネタバレ回避)のダイナー店主を演じた『ヒストリー・オブ・バイオレンス』など、「過去が追いかけてくる」系サスペンスの系譜に連なる作品である。

物語の出だしはこうだ。

刑務所を出所したばかりの男(アントニー・スター)は、かつての恋人を捜して、ペンシルヴァニア州の田舎町"バンシー”を訪れる。アーミッシュが多く暮らすこの町は、カイ・プロクター(ウルリク・トムセン)というアンタッチャブルな権力者に支配された犯罪帝国と化していた。

男は恋人を見つけるが、彼女はキャリー・ホープウェル(イワナ・ミルセヴィッチ)という偽名で地区検事長と結婚、新たな生活を手にしていた。

男とキャリーは、恋人同士であったのみならず、共に宝石強盗を実行した仲間でもあった。15年前、男は自らを犠牲にして彼女を逃がし、長い刑期を務め上げたのだった。しかし、久々の再会を喜ぶことなく、過去を捨てたキャリーは男を激しく拒絶。

時を前後して、たまたま立ち寄ったバーで、男はバンシーに着いたばかりの新任保安官と出会う。ところが、突然現れた強盗が保安官を射殺。行きがかり上、強盗を始末した男の頭に妙案が浮かぶ。

自分もこの保安官も、まだ町民に顔が割れていない。それならば……

かくして、バンシーに偽保安官ルーカス・フッドが誕生する。しかし同地には、かつて裏切ったニューヨークのマフィア、ミスター・ラビット(ベン・クロス)の手も迫りつつあった。降って湧いたような男の新生活や如何にーー?

偽保安官はアンチヒーロー?


悪徳保安官といえば、西部劇やサスペンス映画ではおなじみの存在である。地元の有力者から賄賂をもらって犯罪を見逃したり、あるいは"法の番人”という立場を利用し自ら町を牛耳ったりする。

しかし、『バンシー』におけるルーカスは、それら悪徳保安官の黄金パターンとは趣が異なる。彼は犯罪者だし、そもそもなりすまし自体が犯罪行為だ。しかしルーカスは、意外なほどに骨のある仕事っぷりを見せるのだ。ただし、一般的な保安官像からはかなり逸脱した、ムチャクチャなやり方ではあるのだがーー。

例えば第2話では、悪質なドラッグの温床となっている非合法なレイブ・パーティーにガサ入れを敢行する。同僚たちが建物への侵入方法に迷うなか、ルーカスは周りの制止を無視して制服を脱ぎ捨て、一般人を装って潜入してしまう。

あるいは第3話では、地元の顔役カイ・プロクターが、カジノ絡みのホテルの建設許可を取り付けるべくボクシング興行を仕掛ける。しかし、目玉となるボクサーが、町でレイプ事件を起こしてしまう。マネージャーの「金で何とかできるでしょ」発言にキレたルーカスは、「逮捕は試合後に」というカイの圧力を無視して逮捕を宣言……するも怒りは収まらず、ボクサーとの無謀なタイマン勝負へとなだれ込んでいく。

その手段こそ暴力的かつ型破りなルーカスだが、結果的にレイブ・パーティーのガサ入れではキャシーの娘を救い、ボクサーの起こしたレイプ事件でも同僚からある種の信頼を得ることに成功する(最終的にはドン引きされるのだが)。

「毒をもって毒を制す」とはよく言ったものだが、かつての恋人のそばに居座るべく偽保安官となったルーカスは、本人の意思とは別に、犯罪に染まりきった閉鎖的な町「バンシー」に風穴を開けるアンチヒーローの役割を担うことになるのだ(と思われる)。

肉は肉屋(いろんな意味で)


いろいろ気になる登場人物の多い『バンシー』だが、ダントツはやはりカイ・プロクターであろう。

裏で勝手にドラッグを流していた部下の指を詰めて犬に食べさせ、「こいつはお前の味を覚えた。60秒やるから走って逃げろ」と言い放つ残酷さよ(しかもステーキを食べながら)。本業は精肉業者なので、死体の処理だってお手のもの。またボスがボスなら手下も手下で、脇に控える一見大人しそうなメガネ男も、第3話目にしてその本性を剥き出しにする。

一方で、アーミッシュの家系ゆえに、厳しい戒律にのっとった生活を送る家族とカイとの複雑な関係も見え隠れする。これからパーソナルな部分が明らかになるにつれて、ドラマのなかでの立ち位置もより面白くなっていくに違いない。また、今後ルーカスたちを追ってバンシーに乗り込んでくるであろうミスター・ラビット一味と結託するのか、あるいは対立するのかも見所だ。

アメリカでは現在シーズン4まで進んでいるということを考えると、まだまだどんな展開が待ち受けているのか予想がつかない。これからも折を見て取り上げたい。

予告編。

なお余談だが、ルーカス役のアントニー・スターを見ていて、ずっと「誰かに似ている……」と思っていたのだが、 『リーサル・ウェポン』の時のメル・ギブソンだった。不敵な笑みの感じとか、相手をじっと見据える目つきとか、表情がいちいち似ているような気がするのだが、いかがだろう。
(辻本力)