■オフィシャル誌編集長のミラン便り2016〜2017(1)


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 この日曜日、セリエAの2016〜2017シーズンがついに始まった。だが、試合の話をする前にまず、この夏ミランで起きたなかなか大変な出来事を、ざっとおさらいしておきたいと思う。

 6月までミランを率いていたクリスティアン・ブロッキ監督はチームを去り(現在はセリエBのブレシアの監督を務める)、今、ミランのベンチには、ヴィンチェンツォ・モンテッラが座っている。選手時代にはローマで中田英寿と共にプレーしたこともあり、監督となってからは、主にフィオレンティーナの、そして昨シーズン半ばからサンプドリアを率いていた監督だ。

 モンテッラは子どもの頃からのミラニスタで、彼の憧れの選手がマルコ・ファンバステンだったことは有名な話である。彼のミランとの契約は2年。実はベルルスコーニ会長は、モンテッラがまだ現役の頃、何度もミランに連れてこようと試みていた。今、やっとその夢が叶ったというところだろうか。

 もう一つの大きなニュースは、30年の歳月と栄光の後、ベルルスコーニが"彼の"ミランを中国人投資家グループに譲渡したことである。ミランの株の売却は2年前くらいからさまざまな交渉がされていたが、この8月の頭にやっと話が決まったのだ。正式な譲渡は11月になるが、新オーナー側からの希望で、ベルルスコーニはその後も名誉会長として残ることとなっている。ミランを世界で一番タイトルの多いチームに変貌させた、その功績を称えて、だ。

 このように大きな変革の渦中にあったため、この夏ミランがメルカートに投入できる金額は限られており、ここまでで新たに獲得した選手は数少ない。モンテッラ新監督も彼の構想に基づいてチーム作りを始めたばかりだ。

 選手時代アタッカーだったモンテッラは、指揮するそのサッカーもオフェンシブで、フォーメーションの基本は4−3−3。開幕戦では、プレシーズンマッチで垣間見せた彼の理念を再確認する形となった。プレーのスタイルもはっきりとし、伸びしろも十分にある。明確な方向性を与えられた選手たちは、新たなプロジェクトに熱心に取り組んでいる。

 それにしてもこの開幕戦にはなにか運命的なものを感じた。

 場所はサン・シーロ、迎え撃つは今シーズンからシニシャ・ミハイロビッチが率いるトリノ。そう、ほんの数カ月前までミランのベンチに座っていたミハイロビッチのチームだ。ミランの選手の顔ぶれは彼が監督だった頃とほとんど変わってはいない。そんなミランをミハイロビッチがどう攻めるのか、ミランの選手がどう対処するのか、この興味深い対決に、スタンドには3万人の観衆が集まった。

 試合は3−2でミランが勝利を収めた。この日の主役はカルロス・バッカとGKのジャンルイジ・ドンナルンマだった。昨シーズン、リーグ、カップ戦合わせて20ゴールを決めたバッカは、この夏ずっと移籍が噂されていたが、その彼がハットトリックを決め、ミランに勝利をもたらした。

 一方若きGKドンナルンマは、まさにミハイロビッチがその才能を見出し、昨シーズントップチームに引き上げた選手だ。彼は試合終了近くにトリノのアンドレア・ベロッティのPKを止め、ミランの勝利を守り、試合後の会見ではミハイロビッチが「こうなることが分かっていたら、デビューさせなかったのに」と冗談めかして言っていた。

 さて我らが本田圭佑だが、この試合で出番が回ってくることはなかった。

 プレシーズンマッチの様子を見ても、本田はこれまでの2シーズンと同様、今季もまた監督の構想の中では二軍のメンバーとしてのスタートのようだ。しかし本田は焦っていない。ミラネッロではこれまた今まで同様にプロ精神を持って黙々と練習に打ち込んでいる。そうすれば必ず監督の信頼を勝ち取ることができることを、出番が回ってくることを、彼はその経験から知っているからだ。

ステーファノ・メレガリ(『Forza Milan!』編集長)●文 text by Stefano Melegari
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko