【インタビュー】神木隆之介「最初は無茶苦茶…でも、最後には“心が温まっている”作品です」
宮藤官九郎監督のオリジナル作品「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」が6月25日より公開。長瀬智也さん演じる地獄専属ロックバンド「地獄図(ヘルズ)」のボーカル&ギターで、地獄農業高校の軽音楽部顧問をつとめる赤鬼・キラーKの元、現世によみがえるために奮闘する平凡な高校生・大助を演じた神木隆之介さんにインタビュー。「地獄」「死」の世界とはまるで対照的な現場での撮影エピソード、クドカンワールドをたっぷりとお聞きしました。


『最初は“無茶苦茶な映画だな”って思っていました(笑)』


――最初に台本を読んだ時の感想を聞かせてください。

神木:正直最初は台本を読んで地獄のことが書かれていてもまったく想像がつかず、「無茶苦茶な映画だな」と思っていました(笑)。でもすごく人間味のある映画だなとも思いました。「これは、どうなっていくんだろう?」と先がわからないまま読んでいたら、最後には「あれ?なんでこんなに心が温まっているんだろう?」という気持ちになるんです。

――撮影が終わって、完成された作品をご覧になっていかがでしたか?

神木:試写を観させていただきましたが「良かったし、感動した」と思える、微笑ましく、温かく見守ることのできる作品になっていると思います。それは地獄の鬼たちが人間の気持ちをすごく理解していて、変に美化しないで表現しているからだと思います。一番普通の人間に近い感情で鬼たちが動いているというのが、心を打つのではないかなと思いました。



――予想をはるかに超える強烈な地獄世界が作品の中では描かれていますが、現場ではその世界にスッと入っていけたのですか?

神木:「地獄でギター」、「農業高校で地獄米」と書いてある台本を見ても「どうなるんだ?どんな世界になるんだろう?」と全く想像できなかったので、自分は大助の性格や思考回路など演じるキャラクターを作って、あとは考えないで現場に行きました。長瀬(智也)さんや地獄側のみなさんがどう攻めてくるのかもまったく予想もつかなかったので。

――実際、どうでしたか?

神木:それが全然違和感がありませんでした(笑)。今思えば、「なんでこんな緑色の顔をした地獄の人と普通に接していたんだろう?」と思います。とにかく現場に普通の人がいなくて(ガールズバンド「デビルハラスメント」のメンバーじゅんこを演じた)皆川(猿時)さんもとんでもない顔になっていますし(笑)、特に健兄(桐谷健太)なんて顔全部が緑色なのに普通にその顔で「おはようございます!」って挨拶しているんです(笑)。

――想像するだけですごい現場ですよね(笑)。

神木:僕が地獄の現場に違和感なく入れて、周りが異常だということにあまり気づいていなかったということと、大助も地獄に落ちたことを自覚していない、ということが共通していたのがキャラクターとしてはよかったのかなと思いました。大助は地獄をナメている人間なので、目の前の人が鬼だろうが「ここドコっすか〜?」という軽いノリの人物なんです(笑)。


『僕も17歳の頃は、“モテたい”って思ってました(笑)』




――地獄での大助も現世の大助もそのチャラさが最高だなと思いましたが、チャラさを出すための工夫なんかはあったんですか?

神木:「自分は、イケているかもしれない」と思っていればいいのかなとは思いました。大助は根本はチャラい人間ではなくて小心者なんです。イケてるグループに入りたいと思いながら、気張っているのでイケていないんです。僕は、ヘナヘナして、少しイラッとくるような動きをすれば大助の思う“イケている風”が出るかなと思って純粋に調子に乗っていました(笑)。

――神木さんご自身の17歳の頃の思い出ってありますか?どんな高校生でしたか?

神木:騒いでいました(笑)。教室にいるみんなを楽しませたい一心ですごくバカなことをいっぱいやっていました。ギャグをいっぱいやったり。大助みたいな気持ちも持っていました。モテたい、とかカッコつけたい、という気持ちを公言していました。学校での立ち位置では目立つ方の人間だったと思います。僕から動いていることが多かったです。僕がアクションを起こしてみんなを巻き込んでくというタイプだったので高校時代はすごく楽しかったです。


長瀬智也さんとの再共演…『鬼のメイクがすごかった(笑)』




――長瀬さんとの共演は「ムコ殿」(‘01年)以来ですが、再共演が真っ赤な赤鬼ということで、長瀬さんの姿を見てどうでしたか?

神木:さすがに初めて見た時は「すごい!赤い!鬼だ、鬼!」、「長瀬さん、鬼だ!すごく大きい!」と思いました(笑)。角を含めると2メートル以上あるので(笑)。お芝居に関しては、長瀬さんのことなので思いっ切り、何か仕掛けてくるだろうと思って覚悟はしていました。

――そんな長瀬さんとの演技はやってみてどうでしたか?

神木:鬼のメイクをしていればそのパワーは倍増されました(笑)。それを受けるか流すか、無反応でいるかというのは、台本に答えが書いてありますが意外と考えなくてもいいのかもしれないなと思いました。取材で長瀬さんの話を聞いていると、「信頼関係があったから現場でいろんなことを試した。神木が本番やテストでやってきたことに対してちゃんと返してくれた」と言ってくださっていたので、それを聞いてすごく嬉しかったです。

――監督は「神木君にだけはサディスティックになっちゃうんですよね」とおっしゃっていたそうですが。

神木:僕自身にサディスティックになっているのではなくて、大助にもっと苦しんでもらいたいという意味で監督は言っていました。だから僕はサディスティックにされた覚えはないのですが、大助がどんどん苦しんでいく姿を見るのが楽しかったらしいです(笑)。僕も僕で「大丈夫です!」「行けます、まだ行けます!」というような感じで言うので、監督も「どんどん追い込みたくなった」と言っていました。僕はすごく楽しかったです。



――宮藤(官九郎)監督の作品は過去にも出演されていますよね。

神木:「11人もいる!」の時に脚本を書いていただいたのですが絶妙なところからボケが飛んでくるし、言葉のチョイスとか言い方とかも、監督にしか出来ないような台本の書き方なんです。例えで言うと、「コンビニ」と言うセリフを、宮藤さんの作品だと「ファミマ」ってなるんです(笑)。「コンビニで唐揚げ買って来て」を「ファミマでファミチキ買って来て」って言うんですよね。そういう違いがある。でも僕達は「コンビニ行ってきて」と言うより「ファミマあるからファミマ行ってきてくれない?」って実際、固有名詞や個人名を普段は言いますよね。それが台本にそのまま書かれてあるので。それが一気に自分たちに親近感を与えて人間味が深くなるんです。だからすごく楽しく台本を読ませていただいていますし、監督を信じて思いっ切り演じられるというのはあります。自分も監督の台本を読んで笑えているということは、ある程度同じ方向なんだろうなと思えるので。そこは安心して演じていました。


『“死”を描いてはいますが、深刻になりすぎずに観てほしいです』




――今回の作品は「死」というテーマに対しても、監督ならではの視点で描かれていますが、神木さんご自身は「死」について考えたことってありますか?

神木:本屋で哲学書とか読んでみたりしたことはあります。地獄もあれば天国もあるし、宗教によっても違いますが、天も地もなく、死も生もない「無だ」、みたいなところもありますし。

――“怖さ”や“死にたくない”とか、そういう意識はありますか?

神木:死ぬのはもちろん怖いですが、なんで怖いのかと言ったら、わからないから怖いんですよね。でも映画の中のこんな地獄だったら別にいいかなとも思います(笑)。まだ死にたくないですが、でも何か少し、こんな地獄だったら落ちてみたいと思えたりしました(笑)。「死」を描いているとは思うのですが、それが変に重くないというか。死んで地獄に墜ちた人が、「生き死に」のことをあんな容姿で言っているから深刻になりすぎずに観ていただけたらいいなと思います。


『音楽を聴きながら、公園でコーヒーを飲む時間がハッピーです!』



――Peachyはゴキゲンとかハッピーという意味なのですが、今、神木さんにとってハッピーなこと、癒されるものなどありますか?

神木:今ハッピーなのは、音楽を聴きながら公園でコーヒーを飲むことです。音楽は、その時々で違うのですが、今はONE OK ROCKをすごく聴いています。曲の題材に合わせて動くのが好きです。コーヒーを飲んだり、ただただ歩いたり。歩いている時は星野源さんの「SUN」を聴いて、その曲の感情に合わせて歩くのが今すごく楽しいです。マイブームです。


『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』は2016年6月25日(土)ロードショー。
映画公式サイト:http://tooyoungtodie.jp/

撮影:椿孝
取材・文:木村友美
制作・編集:iD inc.