「劣情」に負ける人は、富裕層になれない

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■「男はどうしても性欲に勝てませんよね?」

前々回(http://president.jp/articles/-/17376)は「マシュマロ実験」に耐えて自制心を保った4歳児達の「戦略その1」についてお話しました。

マシュマロ実験とは、4歳の園児に「目の前のマシュマロ1個をすぐもらう」か、「20分間待って2個もらう」かを選ばせる、という内容。結果は、我慢できず1個だけもらった子が3分の2、我慢して2個もらった子が3分の1だった。

実験したスタンフォード大学の教授は、園児たちのその後を追跡。欲求に打ち勝った自制心の強いグループは、欲求に負けたグループより、大学進学適正試験の点数が高く、中年時の肥満指数が低く、ストレスにうまく対処する、といった共通点があったという。

驚くべきは、4歳児が考えた自制のための最大の戦略に、「マシュマロを見ない」「マシュマロを遠ざける」というものがあったこと。その戦略は、現代ビジネスマンがコンビニなどで習慣的にムダな買い物をしてしまうのを避けるときにも役立つのではないか、というのが前回記事の概要です。

今回は、そのマシュマロ実験に耐えた4歳児達の「戦略その2」についてお話します。

その前に、読者の方からの質問をいただいていますのでご紹介しましょう。

〈どうしても性欲に勝てません。少し余裕が出たらいかにいい女とセックスするかにしか頭が及びません。男は大なり小なり同じかと思いますがどうすればいいのかわかりません。金森先生はどうお考えでしょうか? 男には共通の悩みかと思います〉(36歳・男性)

「マシュマロ」の流れとしてはあまりふさわしいとはいえない「大人の事情」ですが、今回の「戦略その2」を読んでいただければ答えがおのずから出てくると思います。

マシュマロ実験では、実は担当の大学教授によりある試みがなされました。それは……。

【1】一方の子ども達には「もっちりして甘いマシュマロの味」という欲求を刺激する面に着目するよう促す。
【2】もう一方の子ども達にはマシュマロを「宙に浮かぶ丸くふっくらした雲」というイメージとしてとらえるよう促す。

すると、(2)の子ども達は(1)の子ども達の2倍の時間も「マシュマロを待つ」ことができました。ちなみに、この(2)の子ども達に(1)のように仕向けると、たちまち待ち続けることができなくなりました。

逆に、さっきはほとんど待つことができなかった(1)の子達に(2)の指示を与えると、簡単に待つことができたのです(『マシュマロ・テスト』ウォルター・ミシェル著)

この実験から何が言えるのか。

■なぜ仏教には性欲に関する戒律が多いか?

自制心が保てるかどうかは、その人に忍耐力があるかどうかという個性の問題ではなく、頭の中で「外部の報酬」をどうイメージするかという認知的な問題(認知的再評価)だということが分かったのです。

ここで、「セックスしか頭にない」質問者の悩みに対して、2500年前に認知的再評価をした人の言葉についてお話したいと思います。前もって申し上げますが、僕は無宗教です。

その言葉を発したのは、釈迦です。『スッタニパータ』という経典でこう述べています。

「われは(昔さとりを開こうとした時に)、愛執と嫌悪と貪欲(という3人の悪女)を見ても、かれらと婬欲の交わりをしたいという欲望さえも起らなかった。糞尿に満ちたこの(女が)そもそも何ものなのだろう。わたくしはそれに足でさえも触れたくないのだ」(『ブッダのことば スッタニパータ』岩波文庫・中村元翻訳)

これは、バラモン(インドの最高位の僧侶)が釈迦に自分の娘を妻として受けていただきたいと頭を下げた際、釈迦がその依頼に対して語ったものといわれています。

仏教の世界には人間を「糞袋(九穴の糞袋)」とする言葉があります。曹洞宗の鈴木正三(1579-1655、江戸時代初期の僧侶)も、肉体を「九穴の臭い皮袋」と表現しています。

釈迦は、この欲望なり「糞袋」に対する執着なりについては、非常に多くの言葉を残しています。また、仏教には性欲を刺激する可能性のある行為に関して多数の戒律があります。

釈迦が「女人」をあえて「糞袋」と認識するのは、先のマシュマロの件で登場した「頭の中での外部の報酬」をどうイメージするかという認知的な問題を上手く処理した事例ではないかと僕は思います(注:念のためですが「糞袋」はあくまで釈迦などによる比喩であり、僕自身には女性に対する蔑視の気持ちはありません)。

質問者の悩みに沿って言えば、ある夜、お酒に酔ってキャバクラ店に行きたいと思ったときの防止策を考えておいてもいいかもしれません。例えば、こうです。

入った店のキャバクラ店のソファで女性が横にぴったりくっついて接客する。このとき、先ほどの仏教の考えのように女性をあえて「糞袋」または「臭い皮袋」と考える。そのことでホットな衝動を冷却し、店に入るのを回避する――。

また、そもそもそういった強い欲求や衝動が起こらないように「マシュマロを遠ざける(上の例で言えば、キャバクラ店のある界隈に足を踏み入れない、など)」という方法もあるかもしれません。

僕の場合には、家からの外出は不適切なトラブルが起こるリスクがあるため、極力控えています(仕事は自宅内でする)。そのため、「マシュマロ(欲望を刺激するもの)」を見ないですみますし、僕に接触してくる女性が仮にいたとしても(もし〜だったらという「イフ」)、それはお金目当てのハニートラップだろうと考える(そうしたら〜しようという「ゼン」)ようにしています(*イフ・ゼンプランに関しては、前回原稿参照ください。http://president.jp/articles/-/17608)。これは、既婚者である僕なりの自制心の働かせ方です。

■「タガメ」との不適切な関係で資産はパー

また、僕自身は「女人はタガメ」という認知的再評価もしています。タガメは、鋭いクチバシを獲物(カエルやメダカなど)に挿し、身体を溶かして養分を吸い取ります。捕まったら最後、骨と皮にされるちょっと怖い存在というイメージを持つようにしています。

なぜ、僕が今回この「性欲に勝てない」読者の質問を取り上げたかというと、最近何かと世間を騒がす「不適切な関係」が露呈することは、資産形成にとって「壊滅的な打撃」を与えるだけでなく、それまで長期間かかって築いてきたキャリアを「一瞬で崩壊させるだけのパワー」があるからです。

また、富裕層になった後でも一瞬でも欲望や誘惑に負けてしまえば人生は水泡に帰すことさえあります。質素倹約、勤倹と比べても、この「不適切な関係を避ける」ということは人によっては格段に難しいテーマになるかもしれません。そうしたニュースは枚挙にいとまがありません。

以前、ある有名な大学教授が逮捕されたのは、そのいい例でしょう。

駅エスカレーターで女子高生のスカート内を手鏡で覗こうとした疑いで現行犯逮捕。その後、社会復帰したものの、電車内で痴漢行為をしたことで再び御用となり、本職の大学教授という肩書だけでなく、「テレビコメンテーター」などの副業もすべて失いました。

また、今年の3月下旬には、元聖職者(小学校教諭)で次回参院選に出馬すると目されていた人物が5人の女性との不適切な関係が発覚したことで社会的信頼を喪失し、家庭崩壊の危機に陥っています。

今年の始まりにも、極めて好感度の高い女性タレントがやはり不適切な関係によって、契約していた全CMが打ち切られ、出演していたテレビ番組は降板となりました。

世の中には書き出したらキリがないほど「自制心の欠如」が見られます。

短期的な欲望・衝動が、長期的かつ壊滅的なダメージを与えるというのは、喫煙と肺がんの関係、アルコールと肝硬変の関係と変わりません。

マシュマロ実験をしたウォルター・ミシェルは次のような結論を出しています。

「人格はどのような状況でも一貫して変わらない(通状況的一貫性)」わけではなく、「ある状況での人々の振る舞い(ビジネスなどに自制心を働かせて成果を残す、など)と、別の状況での振舞い(自制心を失って「不適切な関係」に陥る、など)は相関度合いがゼロではないにしても、非常に低い」

つまりある分野で優れた自制心を発揮するように見える人間でも、別の分野(例えば、性欲)では自制心を失いやすいかもしれず、そうなった場合には信用や肩書、資産など、それまでせっせと積み上げて構築したものが、あっという間に消えてしまう。そんなリスクが日常生活のあちこちに潜んでいるという認識が、富裕層を目指す人にも、そして富裕層になった人にも大切ということかと思います。

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(行政書士 不動産投資顧問 金森重樹=文)