終盤、驚異的な粘りを見せた北島寿典選手(画像は、北島選手が所属する安川電機陸上部のウェブサイトのスクリーンショット)

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「37キロくらいで脇腹が痛み始めた。でも、これさえ何とかなればと思って、無理矢理にでも走ってやろうと。痛みより気持ちが勝った」

「びわ湖毎日マラソン」で日本人最高の2位となった北島寿典選手(31、安川電機)は、笑顔とガッツポーズを見せながらそう口にした。脇腹が痛み出したにもかかわらず、そこからの驚異的な粘り。ネットでは「脇腹ブースト」「横っ腹押さえていたのは、ターボボタンだったのか」と驚嘆の声が上がった。

どの選手にも「リオ」の可能性があった

マラソンはリオデジャネイロ五輪男子マラソン日本代表選考を兼ねた最後のレース。2016年3月6日に滋賀県大津市の皇子山陸上競技場発着で行われた。これまでの2つの選考レース(福岡国際マラソン、東京マラソン)で本命候補が現れなかったこともあり、「びわ湖」でアピールすれば五輪出場を勝ち取るチャンスはどの選手にもあるとされていた。

その中でも激走を見せ、一躍代表候補に名乗り出たのが北島選手だった。25キロ地点までは先行するアフリカ勢から少し遅れ、日本人7選手が日本人のトップ集団を形成していた。30キロすぎに丸山文裕選手(25、旭化成)が突然スパートをかけ、様相が一変した。残された北島選手らは15秒ほどの差をつけられる。12年ロンドン五輪で6位入賞の中本健太郎選手(33、安川電機)が「このスパートについていけなかった」とレース後に語ったことからも、試合を大きく左右した場面であったことが伺える。

日本人選手が、それ以上の差を広げられないように必死に丸山選手を追う。ところが37キロ付近で北島選手はまさかの事態に陥る。腹痛だ。苦悶の顔で脇腹を押さえながら走る姿が、テレビカメラにありありと映し出される。

競技場に入ってスピードアップ

しかし、北島選手は冷静だった。丸山選手のスパートと脇腹痛の場面をこう振り返る。

「(丸山選手のスパート時期が早すぎるので)消耗すると予測して、前を追う意識を持って、少しずつ詰めようと思った。37キロくらいで脇腹が痛み始めたが、これさえ何とかなればと思った。残りが5キロ、4キロと減ってきて、無理矢理にでも走ってやろうと。痛みより気持ちが勝った」

レース展開は言葉通り。39キロすぎで丸山選手のペースが落ち始めると、追う3人の中からまず石川末広選手(36、Honda)が抜け出し丸山選手に追い付いて抜き去る。このまま石川選手の勝利かと思いきや、そのあと北島選手が驚異の粘りをみせる。時折脇腹を押さえながらもじりじりと差を詰め始めた。そして41キロ付近で石川選手に追いついて抜き去ったのだ。さらに競技場に入るとラストスパート。外国人選手を1人抜き去り、全体の2位まで順位を伸ばしてゴールした。記録は2時間9分16秒(速報値)。日本陸上競技連盟の設定タイム(2時間6分30秒)には届かなかったものの、3つの選考レースを合わせて、福岡国際マラソンで佐々木悟選手が記録した2時間8分56秒に次ぐ日本人2位の記録。3枠ある代表入りも十分狙える。

順位やタイムとともにネットで注目を集めたのは、脇腹を押さえながらも終盤に驚異的な粘りで次々と抜き去っていった姿だ。

「お腹痛い人すげーな なんか抜きそう」
「横っ腹押さえていたのは、ターボボタンだったのか」
「腹痛なのに追いつく」
「脇腹がやる気スイッチ」
「脇腹ブースト」

といった声が乱れ飛んだ。

陸連の尾縣貢専務理事もレース後、「タイム自体は物足りない」としながら「30キロ以降はスピードのぶつかり合いで、素晴らしいデッドヒートだった。このスピードアップには驚いた」とコメント。北島選手を「ベテランらしい素晴らしいレースをした」と評価した。

リオ五輪代表選手は3月17日に発表される。北島選手は「勝負でしっかり勝てたので嬉しい。ガッツポーズも出た。リオに行きたい。選んでほしい」と手応え十分だ。