以前、脱力系の笑える古本を紹介する書籍、「アホアホ本エクスポ」でご紹介した中嶋大介さんが、
ここ何年かは古本ではなく古着にはまっているそうで、このたび「ワンコイン古着」(本の雑誌社)なる本をリリースした。

かつては古本を年に約1000冊ペースで買っていた中嶋さんだが、現在は年間約1000着もの古着を買っているという。いちばんのお気に入りは「たんぽぽハウス」なる都内近郊に17店舗を展開する古着屋だそうで、なんと100円〜500円というワンコイン価格でヴィトンやグッチ、バーバリーといったいわゆるハイブランドのアイテムを手に入れることもあるのだとか。

所有している古着は約3000着だそうで、家のなかが本と洋服ですごいことになってそうだなあ……と思いつつ、久々にお話をうかがってみた。



11月21日にリリースされた、「ワンコイン古着」(本の雑誌社)。


巻頭の、コーディネート例ページ。
左ページの自転車に乗った業界人っぽい紳士は、トータルコーデなんと1900円!
(内訳……ミリタリージャケット100円、シャツ500円、タイ500円、タイピン200 円、パンツ100円、革靴500円)

右のカフェ店主風の男性はトータルコーデ1500円。
(内訳……ハット100円、スカーフ500円、Tシャツ100円、パンツ500円、スニー カー300円)。

まず、全身合わせても、ファストファッションのシャツ1枚買うより安いというのがすごいですね。以前から、「良質な服」というテーマに興味があったのでしょうか?

中嶋「服に対して興味を持ちはじめたのは3年前からです。それまでは、清潔感があれば何でもかまわないと思っていました。
古着にはまったきっかけは、パリのシャツメーカー『シャルベ』のシャツです。100年を超える長い間、多くの人を魅了し続け、現在でもトップであり続けているブランドって、それだけでスゴいですよね。伝統のあるハイブランドの服は、実際に身につけると良さを理解できる場合がほとんどです。なかなか身につける機会が少なかったので、これまで興味がわかなかったんだと思います。良さを理解できたとしても、その服に数十万円の価値があるかどうかというのは、また別問題ですけど……。でも少なくとも僕は、シャルベのシャツに出合わなければ、これほど古着を買うことはなかったはずです」


左ページ掲載が、中嶋さんが古着にはまるきっかけになったというシャルベのシャツ。500円!というまさにワンコインで購入。

シャルベのシャツについては、「着ていることさえ忘れてしまう着心地の良さ」「服を着るというあたりまえの行為で感動できたことが、何より嬉しかった」と書かれていたのが印象的でした。
古着ならではの魅力って他の人とかぶることが少ないとか、ユーズドならではのこなれ感とか、いろいろあると思うんですけど、中嶋さんにとってはどんなところなのでしょう?


右はアメリカ製ヘインズのスウェットシャツ。襟元や袖の部分がスレてすでにボロボロだったが、そこに魅力を感じ購入、そして「自分でもっとボロボロにしたいと思った」そう。古着好きならこの感覚、わかるはず!?

中嶋「古今東西ありとあらゆるモノがあり、しかも安く買えるということですね。
1着数万円すると『失敗できない!』と思うので、着回ししやすいとか、長く着れそうという理由で選びがちですけど、ワンコイン程度で買えるのであれば、 試してみることも可能だということ。その結果、気に入ったアイテムやブランドの新品を買うのも良いと思います。
あらゆるハイブランドも着たけど結局ファストファッションでいいという人と、 ファストファッションしか知らずにファストファッションを着ている人では、本質的に大きな違いがあります。ファストファッションのアイテムでも『これ意外と良いなー』と思うモノもありますから」

なるほど、「どうかなー?」と思うアイテムであっても古着であれば冒険というか、チャレンジができるということですね。


左は、古着屋の定番的アイテムともいえるバンドTシャツ(メタリカのもの)。 中嶋さんは「コーディネイトのハズし」として活用。右はTシャツのなかではいちばんのお気に入りという、ビームスのTシャツ。

中嶋「僕は着れるサイズであれば、自分に似合うか似合わないかは、まったく考えずに買います。持ってないブランド、素材がおもしろい、見たことな いデザ イン、よくわからないけど何かスゴそうとか、そういった理由で買うことも多いです。
『自分に似合う、似合わない』という考えはクセモノで、自分でそう思っているだけの場合が多い。実際に身につけ、それを身につけたことによる周りの反応を観察することも大切だと思います」

自分がこれまで思い込んでいた、セルフイメージを超えられるということですね。あと、これほどまでに古着を愛好しつつも、「全身ヴィンテージ古着の コーディネイトは、ダサいと思っている」と書かれていたのが意外でした……。

中嶋「人類史上、こんなに服があり余っている時代はありません。ノームコア、 ノージェンダーなど、新たなトレンドも生まれています。それなのに、50年前の世界からタイムスリップしてきたような格好をすることが、かっこいいとかお洒落だとは思いません。
ワンコインで買った古着を取り入れて、いかに今っぽいコーディネイトをするかということが重要。『服を着る』ことはちょっと視点を変えれば、とても楽しくクリエイティブな行為です。無難にまとめるのが正解といった現代の風潮は本当につまらないと思っています。うまくコーディネイトできず失敗することも多いですが、試行錯誤すること自体を楽しめたらいいですね」


「アホアホ本」の流れを汲む、脱力系おもしろ古着を紹介するオマケ的ページ、「アホアホCLOTHING」も! 左は個人的にツボだった、ファミマの制服。右は、公式にしてはチープすぎる!?氷川きよしのTシャツ。他のアホアホ古着もおもしろすぎるので必見。

と、そんなわけで意外とディープで奥深い「ワンコイン古着」の世界。ファストファッション一辺倒だったり、忙しい、あるいはセンスに自信がないなどの理由で、決まったブランドの服、あるいはお気に入りのセレクトショップでしか服を買わないという人も多いかと思うが、本書を参考にあなたも「ワンコイン古着」を選択肢のひとつに加えてみては?
「今シーズンのトレンド」として差し出される新品を選ぶのとは違い、過去の服という膨大で無秩序なデータベースから何を選びとるのか……そこで、 新たな自分を発見できるかもしれない。
(野崎 泉)

*ワンコインで買った古着を展示販売するイベント「ワンコイン・ロワイヤル」を目黒の金柑画廊で12月19日から開催。
*出版記念イベントを浅草橋天才算数塾で12月20日に開催。
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