繊細かつリアルな絵柄で知られ、ファッションやコスメなどさまざまなブランドとのコラボも好評な画家・ヒグチユウコさん
2015年に入って立ち上げた自身のオリジナルブランド「Gustave(ギュスターヴ)」では、インテリアや食器などカラフルなアイテムを次々に展開し話題を呼んでいる。

そんなヒグチさんによる雑誌『MOE』での連載『せかいいちのねこ』が絵本化され、11月20日に発売されることに(税抜1400円、白泉社)。
物語の主人公は以前にコネタで紹介した絵本『ふたりのねこ』にも登場した、ぬいぐるみのニャンコだ。



ぬいぐるみのニャンコの夢は、持ち主の男の子とずっと一緒にいること。“猫のヒゲをたくさん集めて体に入れれば本物の猫になれる”と聞いたニャンコは、猫たちのヒゲをもらう旅に出る。旅先で知り合った本物の猫たちの温かな心にふれ、トラブルにもめげずに成長していくニャンコ。飼い主の男の子にとっての「せかいいちのねこ」になりたいと強く願う彼を待ち受けていた結末とは……?



絵本にはニャンコのほか、ヒグチさん自身の飼い猫のボリスくんや、妖怪絵師・石黒亜矢子さんの飼い猫のてんまるくん、とんいちくんといった、ヒグチさんの作品にこれまでに描かれてきた実在の猫たちをモデルにした個性豊かなキャラクターも登場。猫たちの表情やカラフルなファッションなども含め、とても愛らしい仕上がりになっている。今回の絵本化について、ヒグチさんに話をうかがった。



絵本の中で主人公として活躍するニャンコは、ヒグチさんの息子さんが小さい頃から大事にしている実在のぬいぐるみをモチーフにしたキャラクター。ニャンコをめぐるストーリーは、どのようなテーマをもとに書かれたものなのだろうか?

「今回のストーリーは、息子の精神的成長によってぬいぐるみとの距離が徐々に離れていくのかもしれない…と思ったことをきっかけに書いたものです。息子とぬいぐるみのニャンコをモデルに描きましたが、私自身は恋人同士や夫婦、家族であっても、絶対に永遠に続く関係というものはないと思っています。しかし独りで生きていくのはとても難しいこと。“他者を受け入れること”が自分を理解する上で必要不可欠なのではないかと思ったので、狭い世界で生きているニャンコが他者(憧れの存在である本物の猫たち)と触れ合うことで、自己肯定していくというのがテーマになっています」



この絵本では現実を目の前にしたニャンコの感じる不安や悲しみといった感情も非常にリアルに描かれているのが特徴的で、かわいらしい世界の中にも胸をしめつけられるような要素が随所に含まれている。前作の「ふたりのねこ」もハッピーエンドなのに泣ける絵本として話題を集めたが、ヒグチさんにとって“現実の残酷さ”というキーワードは欠かせないものなのだろうか?

「すべての人が幸福な世界というのはありえません。例えば美しい色だけを並べても、美しさは引き立ちません。濁色と並べることでクリアな色の発色がより映え、かつ濁色も美しいのだと知ることができるのではないでしょうか。実は自分としては悲しい話を描いたという風には思わずに描いていたので、わずかな考え方や見方の違いで自分にとっての作品の世界もまた変わってくるのだと思います。そこまでのお話を描けるよう精進していきたいです」



絵本化にあたり「連載用に描いた絵に全体的に手を加えました。少し劇画調に……(笑)。あと本屋の店主というキャラクターが出てくるのですが、全身のページは全て描き直しています」とのことで、連載を読んでいた人もニュアンスの違いを楽しめる仕上がりになっているのだそう。人気ブックデザイナーの名久井直子さんによる装丁も愛らしく、クリスマスプレゼントなどにもぴったりな一冊だ。

現在、全国の一部書店では数量限定のサイン本や初回限定特典のポストカードを取り扱い中。また絵本の発売を記念したパネル展も、東京のジュンク堂書店 池袋本店(11月20日〜2016年1月31日)、京都のFUTABA+ 京都マルイ店(11月24日〜約1カ月間)で開催中なので、詳しくは白泉社の「せかいいちのねこ」オフィシャルサイトでチェックしてみて欲しい。
(古知屋ジュン)