現地8月31日、アトランタ・ブレーブス戦に「2番・ライト」で出場したマイアミ・マーリンズイチロー選手が、8回にフォアボールを選んで出塁した後にホームへと生還し、日米通算2000得点を達成しました。イチロー選手はオリックス時代に658得点、メジャーで1342得点をマークし、日米通算をメジャー記録に相当すれば歴代8位となります。

 日本では「打率」や「本塁打」「打点」といった記録ばかりが目立ち、あまり「得点」というものは注目されていません。しかし、アメリカでは得点の歴史は古く、その評価は決して低くないのです。

 1845年、ニューヨークに住むアレキサンダー・カートライトという青年がニッカーボッカーズという野球チームを結成した際、現在のゲームの原型となる野球規則を作りました。そして翌年の1846年、ニュージャージー州のホーボーケンという町で最初の試合が行なわれ、そのときの野球規則、通称「ニッカーボッカー・ルール」に、「得点」という記録は記載されていたのです。

 それ以来、ベースボールの歴史に得点という記録はずっと受け継がれています。実際、日米ともに野球のボックススコアを見ても、「打数」の次に「得点」があり、そのあとに「安打」「打点」と続きます。つまり、「得点」の地位はベースボールの記録において高いものなのです。

 通算最多得点でメジャーリーグ歴代1位の選手は、メジャー生活25年間で計2295得点をマークしたリッキー・ヘンダーソン(1979年〜2003年/オークランド・アスレチックスほか)です。彼は「世界の盗塁王」として有名で、1991年に当時ルー・ブロック(1961年〜1979年/セントルイス・カージナルスほか)の持っていた通算938盗塁のメジャー記録を塗り替え、最終的に通算1406盗塁という大記録を打ち立てました。

【メジャーリーグ通算得点記録】
第1位 リッキー・ヘンダーソン 2295得点
第2位 タイ・カッブ 2246得点
第3位 バリー・ボンズ 2227得点
第4位 ハンク・アーロン 2174得点
第4位 ベーブ・ルース 2174得点
第6位 ピート・ローズ 2165得点
第7位 ウィリー・メイズ 2062得点
イチロー 日米通算2000得点)
第8位 スタン・ミュージアル 1949得点

 しかしながら、ヘンダーソンの最終目標は「世界の盗塁王」ではなく、「世界の得点王」になることだったのです。ヘンダーソンは現役時代、このような言葉を残しています。「自分が出塁して盗塁するのは、すべて得点のためにある。自分にとって最大の目標は、タイ・カッブが持つ通算2246得点のメジャー記録を更新することだ」。

 ヘンダーソンは「世界の得点王」になるべく、全盛期の勢いから衰えつつもメジャーリーグでプレーし続けました。そして1991年に盗塁のメジャー記録を塗り替えたあと、2001年には当時ベーブ・ルースの持っていた通算2062四球のメジャー記録を更新し、さらに同年、タイ・カッブの歴代最多得点数を越したのです。結果、ヘンダーソンは2003年の44歳までプレーし、さまざまなメジャー記録を更新し続けました。

 そのなかでも一番誇りにしていたのが、「得点」の記録です。それこそまさに、「史上最高の1番バッター」と呼ばれる所以(ゆえん)ではないでしょうか。1番バッターの役割とは、まずは塁に出て、最後はホームに帰る=得点することが常に求められています。いかに多くの得点を積み重ねてきたかどうかが、1番バッターとしての評価の基準とも言えるでしょう。

 得点を記録することについて、「出塁しても後続のバッターが打たないと得点にならない」と言われもします。しかし、まずはいかなる手段でも塁に出なければ、得点することはできません。そして、ひとつでも先の塁を狙うことが、最終的にチームの得点につながります。その積極的なプレーが、ひいてはチームの勝利に貢献できることを、ヘンダーソンは誰よりも熟知していたのでしょう。だからこそ、ヘンダーソンはヒットだけでなく、盗塁や四球を地道に積み重ねることで、数々のメジャー記録を打ち立てることができたのだと思います。

 他のジャンルのスポーツでは、「得点王」という表現はメジャーなものです。しかし、野球の世界ではあまり使われません。ちなみにヘンダーソンは、メジャー25年間でリーグ1位の「シーズン得点王」に輝いたことが計5回あります。

 一方、イチロー選手はメジャー14年間で一度もリーグ1位になったことはありませんが、デビュー以来8年連続100得点以上をマークしました。これは不動の1番バッターとして、その役割を担った証(あかし)と言えるでしょう。9月4日現在、メジャー通算1343得点は現役選手のなかで6位の記録になります。

 イチロー選手が2013年に日米通算4000安打を達成した際、大きな話題となりました。しかし、今回の日米通算2000得点も、同じぐらい高く評価されてよい大記録だと思います。これを機に、「得点」という記録を日本でも再評価してもいいのではないでしょうか。野球の原点を振り返る意味でも、塁に出て、そしてホームに帰ることで生まれる「得点」という記録に、みなさんもぜひ注目してみてください。

福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu