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映画『HERO』には、一度観ただけでは味わいつくせない豊潤さがある。

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たとえば、ストーリーや台詞を追いかけているだけでは、キャッチしきれない細部に満ちているのだ。ここでは、撮影現場を見学していて印象に残ったエピソードを中心に、本作を「もっと愉しむ」ためのアイデアを提言したい。

ネウストリア公国という架空の国の大使館をめぐって展開する、今回の物語。

「治外法権」という国際社会上のルールが、大きな壁となって城西支部の前に立ちはだかる。久利生公平(木村拓哉)と麻木千佳(北川景子)は、ネウストリア料理店に赴き、ネウストリア人大好物の特大ソーセージを食べ、さらに彼らが愛する球技ペタンクで「国際交流」を試みる。

地道にコツコツが身上の『HERO』シリーズらしい観点だが、序盤のペタンクに宇野大介(濱田岳)を巻き込む「口説き」の場面には鮮やかなひらめきがあった。

このシーンは、昨年12月、映画『HERO』クランクインの日に撮影された。ペタンクは南仏生まれの実在のスポーツで、ヨーロッパでは子供からお年寄りまで広く愛好されている。

このペタンクに宇野っちを誘い込むくだり、脚本では、久利生が検事室のデスクの上にブール(金属製のボール)を置くという設定になっていた。

しかし、木村はテストでいきなり、ブールをひょいと濱田に向かって放り投げた。濱田は慌てて受け取りそこなったが、そこで木村は「ダメだよ〜ちゃんと取らないと〜」と発言。まるで、久利生の台詞のようだった。

このアドリブで、さまざまなものが一気に結びついた。

シーズン2からのレギュラーメンバーとはいえ、ブランク後の撮影初日。その緊張感は間違いなくあった。

だが、木村、というよりは「久利生らしい機転」が、この場を溶け合わせ、氷解させた。

画面を見るかぎり、久利生として、あくまでも自然な振る舞いに映るが、あのアクションは本番撮影の直前に生み出されたものである。

アクティヴであると同時に柔軟。

フレキシブルな木村の発案があったからこそ、久利生と麻木が宇野っちを挟み撃ちにする、その後のコミカルな成り行きも躍動することになった。

奇しくも、クランクアップ日もブールを片手に、今度はネウストリア大使館の面々をペタンクに誘う久利生のお茶目な表情が撮影された。映画『HERO』は、撮影スケジュール上、ペタンクで始まり、ペタンクで終わったのである。