売りつけたくない君へ(2)/アポが全然取れないんです。/伊藤 達夫
カラオケで絶叫してから1か月後。ミュージカルを見てから1ヶ月半後。土曜日の昼。新宿。
またしても、待ち合わせに彼女は遅れてきた。
紀伊國屋書店の前で待ち合わせたのだが、時間になっても彼女は現れない。アイフォンを見ると、LINEのメッセージ通知が表示されていた。見ると、「ちょっと遅れます。」とある。そして、クマが謝っているスタンプが送られてきた。普段も遅刻しているのだろうか?いや、さすがにそれはないよな・・・。ないと思いつつも、少し不安になってきた。時間を守れない営業マンはやっぱり厳しいかもしれない・・・。
「こーんにーちわー。ごめんなさい。ちょっと道が混んでて。」
私の不安をよそに、彼女は相変わらず陽気だ。マイペース過ぎて怖い・・・。少しは相手に合わせることを学んでいるかと期待したが、そんなに都合よくはいかないか・・・。
「いいよ。別に。飯でも食う?」
「あ、わたし、タイ料理が食べたいんです。サブナードに行きましょう。美味しいタイ料理があるんです。」
サブナードに来たのは学生の時以来だろうか・・・。西武線方面につながる妙に明るい地下街。女子向けの服屋さんや靴屋さんに下着屋さん、カフェなどが並んでいる。
少し怪しげな表情の仏像が店頭にあるタイ料理店に到着。彼女は店内に入ると、あっさりと上座に座り、「ここ、美味しいんですよ。」と微笑んだ。
彼女がトムヤンクン2,3人前とサラダ2人前を頼んだ。
「シェアしましょう。美味しいんです。これ」
俺のメニューまで自動的に決められている。なんという強引さだ。しかも支払いはどう考えても俺だ・・・。俺が新入社員の頃は目上の人よりも先に注文してはいけなかったもんだが、今時は違うんだろうか?営業で、そういう指導は受けたりしないのかな・・・。リードしていると言えばしているんだけど・・・。
「で、どうなの?」
「え、何がですか?」
「君の営業成績。」
単刀直入に聞いたからか、彼女の顔から笑顔が普通に消えた。というか、この大げさな反応は何なのだろう。いつもそのための打ち合わせをしているのだろうに・・・。言いたくないことは忘れたふりというやつだろうか・・・。
「アポが・・・、あんまり取れないです。」
「アポが取れないんだ。」
「はい。この前、先生とお話してから、会社に行くことや、商談をすることは、すごく気が楽になったんですが、アポがあんまり取れなくて、困ってます。」
「そう。気が楽になったのは良かったじゃない。営業は必要とされるものを売っている限りは悪いことをしているわけじゃない。お客さんの役に立とうとする素晴らしい仕事だ。そこに気づいたってことだね。」
言いながら、ひとまずほっとした。売れないことが自分のダメさの証明で、自分の能力の無さを認めてしまうことが怖いという反応もあり得る。悪いことをしようとしているわけではないという方向で気が楽になってくれてよかった。
「ですよね。そうですよね。私もそう思って、やる気がすごく出てきたんですが、なかなかアポが取れなくて困っているんです。これも、心構えの問題ですかね?」
「うーん。場合によるかな。で、取れないってどれぐらい取れないの?」
「1日1件取れればいいほうなんですよね。他の人は何件か取れているんですけど。私だけ商談が少なくて、ちょっとお荷物な感じなんですよね。」
「そう・・・。それは、何件のリストに電話して1件取れているの?そこの数字によって、全然違うんだけど。」
「えーっと。10件ぐらいだと思います。それで1件です。」
「へ?10件に1件のアポが取れるの?」
「はい。正確には10件から30件に1件ぐらいだと思いますけど。」
「あのね、普通の営業会社の数字知ってる?」
「いえ、知らないです。」
「例えばね、強烈な営業で知られる人材系の会社とか、通信回線の会社とかあるじゃない?ああいう会社はテレアポをするなら1日100件から150件かけるんだよ。」
「えー。そんなにかけられるんですか?」
「うん。そういうシステムを組んでいるからね。コンピュータが自動発信してくれるんだ。それで、1日に1件フラグが立てばいいほう。」
「ふらぐ?ですか?」
「そう、フラグ。フラグというのは、興味がありそう、会ってくれそうという感じがするコールだよ。『携帯ソリューションですか・・・。興味あるけど、いくらぐらいなんですか?』 とか言ったりする人いるでしょ?」
「あ、います。そういう人は確かにアポが取れます。」
「そうだよね。そういう興味がありそうな場合はアポを取りに行くトークをするんだ。取れないうちは、アポ数をどう稼ぐか?にフォーカスして、無駄アポでも取れればいいと思ったほうがいいよ。」
「無駄アポ?」
「ああ、買う気があんまりなさそうなコールのことだよ。相手が暇だから電話の相手をしてくれている場合もある。もし、クロージングで忙しければ、会わなくてもいいんだ。時間があれば会うぐらいのスタンスでいい。でも、全然取れていないなら話は別だ。コールの感触と会った時の感触の違いに関して、経験を積めばコールで取れそうかそうでないかがわかるようになるから。」
「先生はテレアポとかいつからやっているんですか?今でもやってます?」
「ああ、学生の頃、マイラインブームでやったのが初めてかな。あの頃は3時間に5件ぐらいアポが取れていたかな。今でもたまにやる。」
「すごいじゃないですか。」
「ブームだったからね。」
「いいですね。私は1日かけて1件なんです・・・。」
「うん。でもさ、あなたは1日中かけて10件しかかけられないんだよね?」
「あ、はい。」
「何を見てしゃべっているの?」
「え、いや、営業資料とか。新商品のご案内なんで、資料にサービス名とか詳細が書いてあるんですよ。すごくサービスがいっぱいあるんで、なかなか紹介できないんです。だから、お時間あればお会いできませんか?と言うんですけど。」
「なるほど・・・。」
ここまで原始的だと、アドバイスが当たり前でよくて助かる。そういえば、『ロープレって何ですか?』と言っていたな・・・。
「やっぱり、私、向いてないんですかね・・・。」
「いや、君は多分、向いている。」
「え?」
「アポが取れない理由がわかったよ。」
「えー。本当ですか。」
「多分だけど、アポが取れるようにすることができると思う。きっと大丈夫。大丈夫だよ。」
彼女はすごくうれしそうな顔をした。すごいやる気だ。素晴らしい、と思ったのだが、彼女の目線の先を追うと、店員が土色のお鍋に入ったトムヤンクンとサラダを運んできていた。
・・・。そういうことか・・・。
「美味しそうです!」
喜ぶのはそこじゃないだろう・・・。でも、この程度の値段の料理で喜んでくれるのはありがたい・・・。有名企業だけど給料が安いというのは本当なんだろうな・・・。
「は!私のほっぺたを掴むのはやめてくださいよ。」
彼女は突然身構えて言った。いや、本当に唐突だな・・・。頭が良すぎるのか悪すぎるのか・・・。
「つかまないよ・・・。掴まないから、なぜアポが取れないのか?を考えてごらん。トムヤンクンを食べ終わったら、答えを聞くから、食べながら考えて。」
「はい!わかりました!」
彼女は敬礼をしながらも、熱い視線はトムヤンクンに注がれていた。失礼だとか思ったりしないのかな。自分の意図が相手に見え見えなのが、営業としてよろしくないことも、わかっていない。
営業マンの意図は仕事を第一義にすべきだ。それなら相手に意図が伝わっても、納得してくれる。しかし、違うことに意図がそれていることが、相手に伝わるのは失礼極まりない・・・。
ただ、若くてかわいいうちは、多少は許してもらえる。許してもらえるうちに営業マンとして売れるようにならなければ、その後の人生がきつくなる。年齢が行ってしまって、容姿でいろいろと許してもらえなくなった時、彼女はどういうふうになっているんだろう・・・。
トムヤンクンがこんなに美味しいとは思わなかった。独特の酸味と辛みがあるが、うまい。野菜とエビが柔らかくてまた美味しい。
彼女はあっさりと平らげて満足そうにタピオカを食べていた。これだけ素直でかわいいと、憎めないか・・・。そういったアドバンテージの無い人であれば、もっと厳しくやらないと無理だろう。その前に異動かクビになってしまう。世の中は不公平だよな・・・。
「さて、答えは何?」
「はい?」
「だから、答えはなんだろう?と聞いているのよ。」
「何の答えですか?」
「またブルドックみたいになるぐらい、頬を引っ張ったほうがいい?」
「ひー。それはご勘弁を!わかりました。えーっと。アポが取れないのは、食い下がれないからですかね?断られそうになった時にいかに食い下がるかが大事と聞きます。そういうのを『応酬』というというのが、本に書いてありました。」
また、筋の悪いノウハウを。そんな上級者しかできないことをやろうとするなよ・・・。先物取引などの強烈な営業で使われるような技術だ・・・。
「違う。そんな高度なことじゃない。もっと簡単なことだ。」
「うーん。じゃあ、相手の事前調査が足りないんですかね。もっとホームページで情報を調べてから電話口で提案をしちゃうとか。」
また、上級者しかできないことを・・・。
「そういうのを『即クローズ』と言ったりするけど、そんなことができたら既にスーパー営業マンだよ。そんなことができなくてもアポは取れるんだよ。」
「うーん。じゃあ、声色がもっとセクシーな感じのほうが取れるんですかね?少し期待させちゃう的な!」
彼女は少しだけ『うっふーん』という感じで首を傾けた。いや、セクシーさのかけらもない・・・。
「・・・。そんなわけねーよ。相手はビジネスなの。そんな下心満載で仕事してないの。真面目なビジネスマンだと思って考えろよ。」
「うーん。わかりません。降参です。」
彼女は敬礼をしながら言った。なぜ敬礼?なぜ自分で考えようとしない。困ったな・・・。
「降参か。じゃあ、全部は教えないけど教えるね。コール数を増やせばいいんだよ。」
彼女はまじまじと俺を見た。
「でも、それが増やせないから困っているんじゃないですか。確率を上げていかないといけないんですよ。今だって、一生懸命やっているのに、10件しかかけられないんです。これ以上増やせません。今回は先生が違いますよ。きっと違います。」
彼女は腕を組みながら言った。腕組むなよ・・・。
「違わない。」
「どこが違わないんですか!これ以上コールできないですよ。」
「いや、できる。」
「どうやるんですか?」
「どうやると思う?」
「無理です。お客さんのことを調べないとコールなんてできないじゃないですか。リストにあるお客さんをひたすらホームページを見て調べて、商品と照らし合わせて、提案っぽくしゃべるなんて無理ですよ。」
「うん。無理だね。」
「じゃあ、コール数増やせないじゃないですか。」
「いや、増やせる。」
「どうするって言うんですか?」
「どうすると思う?」
堂々巡りだが、ここで気づいてくれないと困る。自分で答えにたどり着くほうが絶対にやる。俺に言われたことをやっても、半信半疑になって、効果が出るかはわからない。とにかく、自分で思いついて欲しい。
「もういいです。先生が真面目にやってくれないなら帰ります。」
「俺は真面目だよ。」
言いながら可笑しかった。いつの間に真面目になっているんだ、こいつは・・・。まあいい。これぐらいの迫力が欲しかった。
「真面目じゃないです!先生は意地悪です!」
真剣な目で俺を睨み付けている・・・。迫力がありすぎるかもしれない・・・。
「うーん。しょうがないからヒントをあげよう。今の君のやり方では無理だ。じゃあ、やり方を変えればいい。もしも、コールするだけが目的だとして、コール数を競うとしたら、どうやる?」
「そんなん、ひたすらかけるだけじゃないですか。」
「そう。その通り。」
「へ?」
「その通りだよ。」
彼女は怪訝そうに俺の顔を見ていた。じーっと見ていた。いや、見すぎだから。ちょっとキモいぞ。
「先生・・・、ほっぺにトムヤンクンの汁がついてます。」
「あら、失礼。」
おしぼりで頬をふいた。こいつのこういう感じはどうにかならないかな。つい脱力してしまう。
「で、わかった?」
「うーん。適当にコールするってことですか?」
「適当じゃないけど、今みたいなコールの下準備はいらない。とにかくコール数を増やすことに注力してくれ。」
「でも、それじゃあ、話を聞いてくれないじゃないですか。」
「いや、聞いてくれる。聞いてくれるようにしゃべるんだよ。」
「どうやるんですか?」
「じゃあ、聞こう。なぜ、君の会社はテレビで宣伝をバンバン流していると思う?」
「へ?社長の趣味じゃないんですか?」
おいおい。社長が聞いたら泣くぞ・・・。
「・・・。違うよ。趣味じゃない。意味がある。」
「でも、携帯電話を売るのに、あんな意味不明な家族ドラマやってもしょうがないじゃないですか。」
「じゃあ、質問を変えよう。いわゆる強烈な通信回線営業の会社で、何が悩ましいと思う?アポを取る電話をすると、お客さんはたいていどんな反応をすると思う?」
「担当者につないでもらって、提案するんじゃないですか?それで興味ないとか言われるんですよ。」
「いや、違う。大半のコールはそこまで行かない。」
「へ?」
「答えを言うと、ガチャ切りされたり、担当者につないでもらえずに終わる。『興味ないですから』って。」
「あ、私も一回ガチャ切りされたことがあります。」
「でも、少ないだろう?」
「そんなこと滅多にないものですよ。」
「いや、あるんだ。通信回線や人材派遣の営業ではガチャ切りはよくある。」
「なんでですか?うちも通信回線をやっていますよ。」
「なんでだと思う?」
「教えてくださいよー。意地悪しないで下さい。」
「そうか。ちゃんと自分で考えるのが理想なんだけどな・・・。今日は答えを言おう。それはね、怪しいと思われるからだよ。」
「へ?」
「例えばね、道を歩いていて、見ず知らずの人に声をかけられてついていく?」
「行くわけないじゃないですか!見損なわないで下さい!」
彼女はむっすりしている。なぜそこでむっすりする・・・。
「じゃあ、超イケメンな芸能人とかだったら、どう?」
「うーん。ちょっと心は揺れますが・・・。いや、揺れないです!行きません!」
「だよな。じゃあ、その違いはなんだと思う?」
「・・・。うーん。そうすると、テレビで宣伝をやっているのは、そういうふうに興味を持ってもらうためなんですか?」
理解が早いじゃないか。というか、初めから分かっていてわざとやっているような気もするのだが・・・。さすがにそこまでではないか・・・。
「うん、まあ、そうかもしれない。本当は、怪しく思われないためなんだ。人は知らない人や知らない会社と付き合うリスクを普通は知っている。」
「リスクですか?」
「その会社がとんでもない詐欺会社だったら困るだろう?」
「詐欺会社ですか?もしそんな詐欺会社があったら許せません!」
彼女は本当に怒り心頭といった様子で言った。
「・・・。まあ、そうだよね。でも、テレビで宣伝しているような会社なら、お金を振り込んでも逃げたりしなさそうじゃない?」
「逃げる?」
「そう。世の中には詐欺会社もたまにある。たとえ詐欺をする気がなくても、会社が立ち行かなくなって、サービスが継続できないことだってある。そんな会社から商品を買いたいかな?」
「買いたくないです。」
「そう、アフターサービスが受けられないかもしれないし、また他の会社と契約し直すのも面倒だ。だから、できるだけつぶれない、商品、サービスの継続可能性の高い、信用のある会社としか付き合いたくないんだ。」
「なるほど。」
「だから、テレビで宣伝しているような有名な会社は、アポの電話でも社名をしっかりお伝えすれば、担当につないでくれる可能性は高くなる。だから、君の会社は湯水のように広告宣伝費を使っているんじゃないかな?営業マンがダメダメでもアポぐらいは取れるように。つまり、援護射撃だよね。」
「なるほどー。そうだったんですね。ちょっと社長を見直しました。」
「そう・・・。俺はあんまり好きじゃないけど、偉大な人であることは間違いないと思うよ。」
「あ、じゃあ、社名をしっかりお伝えするのが、アポの時には大事なんですね。」
「そう。まずはそこ。」
「私、今の会社で良かったです。好きなんです。うちの会社が。」
彼女はうっとりした目で言った。そうなんだ・・・。好きなんだ・・・。いろいろと噂のある会社ではあるが、彼女の前で言うのはやめることにしよう。
「そう。自分の会社が好きなんだ。良かったじゃん。そういう信用がない会社は返金保証をつけたり、あの手この手で信用を埋め合わせようとするんだ。大変だけど、そうしないとアポが取れない。場合によってはぎりぎり嘘はつかないように、大きな会社の名前を使ったりもするんだ。販売代理店がテレアポを取る時は、自分たちの社名は言わずに、『NTTの商品のご案内です!』って言ってみたりね。」
「大変なんですねー。」
「そう。その点、君は恵まれている。信じられないほどに恵まれているんだ。だから、それを活かさないと。」
「でも、社名を言うだけじゃアポが取れませんよね?」
「そうだね。だから、30秒から1分ぐらいでご案内する商品の特徴を言えるトークを作るんだ。それなら数をかけられるだろう?」
「え、でも、ご案内したい商品が多すぎて無理です。」
「絞るんだよ。その時、一番売れている商品に絞る。逆に言えばその商品を簡潔に言い表せる言葉以外いらない。できたら、担当者につないでもらって、マシーンのように文章を読み続ける。興味がなければ、丁重にお時間を頂いたお礼を言って電話を切る。興味があるなら、アポを取る。それだけだ。君はアポ取り専用マシーンになる。そうすれば、取れる。今の何倍も取れる。」
「でも、日程を詰めるのって、難しいですよね?」
「慣れだよ。選択肢を提示して、お客さんに選んで頂くんだ。今週と来週でご都合のよいのはどちらですか?って聞いて、今週だって言ったら、前半と後半だと、で絞る。まともな法人の担当者ならその時点で時間を指定してくるよ。こんなのは営業の常識だ。1分ぐらいの文章の後にこのトーク例も書いておけばいい。」
「あ、聞いたことあります。相手を思うがままに操る『予定詰め話法』です!」
「違う!絶対に違う!相手が考えるのが面倒なのを手伝ってあげるだけだ。これはコントロールでもなんでもない。相手がそもそも考えるはずのことを先回りして提示して差し上げるというスタンスだ。断じてコントロールじゃない。そこは間違えてはいけない。」
根本がまだ浸透してないな。相手が欲しいものを買う。必要なら買う。このスタンスに立って全てのアクションを組み上げる。ここへの転換を目指していることがまだ腑に落ちていないんだろう・・・。
「なるほど。そうですか。わかりました・・・。やってみます。文章を作って、それをひたすら読む感じでアポを取ればいいんですね。」
「そうだ。君は今日からスーパーアポ取りマシーンだ。そう思って、ひたすらコールする。相手が選ぶんだから、興味があるかないかを聞いて、あれば予定を詰めてアポ完了、なければ丁寧に切る。これを繰りかえすだけだ。なんのコントロールも要らない。」
「はい!スーパーアポ取りマシーンになります!なんかかっこいいです!」
そうかな・・・。あんまりかっこよくないけど・・・。
まあ、前向きに捉えてくれたのはいいことだ。しかし、これでどれぐらいコールできて、どれぐらいアポが取れるようになるのかな・・・。まぐれでも1つ取れれば、あとは勢いづいて行けるんだが・・・。まあ、そこは自分であがくしかない。
「先生!」
「何?」
「タピオカ、食べないなら頂きます!」
彼女はそういうと、俺のほうにあったタピオカを食べ始めた。いや、それは食べたかったけど、残していただけなのに・・・。まあ、いい。ダイエットだ。
心から美味しそうにタピオカを食べる彼女が少しうらやましかった。でも、俺もこんなふうに懇切丁寧にいろいろと教えて欲しかったな・・・。教えて欲しかったけど、そういう巡りあわせはなかった。だから、ほとんどのことを自分で習得せざるを得なかった。
タピオカを食べる彼女を見て、そういう自分の若い頃を少しだけ思い出した・・・。
解説:
さて、いかがでしたでしょうか?この章では、アポを取る際の考え方を中心に解説しました。多くの会社では『怪しさをどう払拭するか?』がアポ取りの鍵となります。
しかし、テレビで宣伝をバンバンやっているようなうらやましい会社では、そのステップはほぼ必要ありません。社名を言うだけで、相手はそれなりに話を聞いてくれます。
小さな会社が返金を保証するのも、自社の実績をホームページやチラシに掲載するのも、全ては怪しさを払拭するためです。が、そういったことを大手はそれほどする必要がないのです。
『商売は信用が第一』という古い言葉がありますが、まさにお客さんに怪しくないと信用して頂くことができなければ、アポすら取れません。会社の名前を公的な聞こえ方にしたりするのも、怪しさを払拭する工夫とも言えるでしょう。やたらと、日本○○センター、東洋○○、亜細亜○○といった会社名が多い気がするのは気のせいではなく、信用を埋め合わせる工夫なのです。
精神論に直すのならば、前の章では、「お客さんが必要だから買う。」という考え方を提示しました。この章では、「お客さんは怪しいやつとは話したくない。」と「お客さんは電話口で面倒なことを考えたくない。」という2つの考え方を提示しています。その2つを乗り越えるための話し方について、もう少し詳しく考えてみましょう。
・お客さんは必要なものを買う。
・お客さんは怪しいやつと取引をしない。
・お客さんは面倒なことをしたくない。
この3つのことから、営業マンの最適な行動は、『お客さんに社会的な信用を提示した上で、商品・サービスに興味があるかをご判断頂き、お客さんの都合のいい時間を負担なく提示し、お会い頂く』ということになります。
ここまでのことが本当にできているでしょうか?自分から怪しいと思われる言動、つまりコントロール臭がプンプンすることをしてしまったり、無理やりアポを取ったり、煩雑な手続きをお客様に強いたりしていないでしょうか?興味のないお客さんから成果を上げるのは至難の業です。そこにフォーカスするより、普通に売れる先を探しましょう。
自分から穴を掘って埋まっている、自分からアポの権利を放棄している。営業指導をしていて、そう思えるような営業マンを山ほど見てきました。そして、コントロール技法に憧れる営業マンも多数見てきました。もし仮に、『騙し』で一度アポが取れたとしても、後が続くのでしょうか?後が続くようにまた『騙し』の技術を入れるのでしょうか?そして、そういった活動をあなた自身が続けたいのでしょうか?
違いますよね。
だからこそ、この本を手に取って、ここまで読んでいるはずです。
社会的信用なんてうちにはないよ・・・、と思われるでしょうか?でも、だからこそ、会社としての信用を持つための工夫をしていませんでしょうか?そのなんらかの工夫をそのためのものだと意識できるだけで、アポ取りの行動がだいぶ変わってきます。
確かに大きな会社はそれだけで有利です。信用のない会社は不利です。でも、だからこそ、大手がやらない工夫をするし、大手が参入しにくいマーケットを選ぶ、もしくは大手にコバンザメのようにくっついて威光を利用する工夫があるのです。
もう一度、この基本の元で、アポ取りの行動がとれているかを自分で確認してみて下さい。自分の行動の1つ1つが、この原則に沿っているか確認してください。
次の章から少しずつ高度な内容に入って行きますが、この基本スタンスは全く変わりません。変える必要がありません。一人のビジネスパーソンとして、お客様の行動原則を踏まえた営業を探求して頂ければと思います。それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。