純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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 人は自分より大きいものを見ることができない。あんなむちゃくちゃな計画を立てるなんてバカだ、と言いたくなるのはわかるが、バカと罵倒して済ますには、あまりに話がおかしい。あの変な元首相一人が言っていることなら、それもありうるだろうが、日本の各省のトップクラスの官僚が雁首揃えて、そこまでほんとうにバカだろうか。


 いくらキール構造がうんぬん、資材高騰がうんぬんでも、他の大型建設工事と比較して、2520億円という予算規模は異様だ。オリンピックのため、というより、国家最期の命運を賭けた戦艦大和のよう。(ちなみに、最新鋭イージス艦あたご型でも1475億円。)


 もともと神宮外苑は青山練兵場と陸軍大学。東京都庁舎や代々木公園(旧代々木練兵場)・明治神宮(旧南豊嶋御料地)から、代々木の谷を挟んで新宿御苑、慶応大学病院(旧陸軍輜重兵営、地下施設あり)、問題の神宮外苑、そして、赤坂御用地(東宮御所)、再び赤坂見見附の谷を挟んで、ニューオータニ・ガーデンコート、16年完成予定の東京ガーデンテラス、国会と首相官邸、内閣府、霞ヶ関官庁街、そして皇居が連なっている。また、東の晴海では、東京オリンピック選手村が数千億円規模のプロジェクトとして予定されている。じつは、NHKも、オリンピック後に建て替えを予定しており、その予算規模は、新国立競技場を上回る3400億円。それも、神宮前(明治神宮と神宮外苑の間)への移転を東京都と交渉中。さらに、オリンピックも終わった後に、皇居の東の銀座から、選手村跡地を抜け、有明(東京ビックサイト・東京臨海防災公園)まで、2000億円でわずか5キロ弱の地下鉄新線が予定。


 東京23区の昼間人口は一千万人を越える。箱根や富士山が噴火したら、まして直下型地震、福一大爆発、無慈悲ミサイル直撃があったら、パニックは必至。東京中央環状線内側の都心は、完全麻痺。大火災、火山灰や放射能では、ヘリすら飛べない。この極限状態でなお国家を維持し、組織対応を統制するために、主要人物たちを結集し、都心から脱出させる危機管理が無い方がおかしい。つまり、もともとオリンピックなど、表向きの口実で、むしろ新宿や代々木から有明まで、皇居や国会、首相官邸を通って、東京の地下を東西に横断する奇妙な大プロジェクトが以前から先にあり、そのために、その線上に、オリンピック関連を中心に、ばらばらの超大型建設工事を並べた、というのが真相じゃないのだろうか。


 新宿・代々木から有明まで、わずか15キロ。青函トンネルが25年がかりで54キロ、5384億円。いやいや、当時とは物価が違う、と言うなかれ。むしろその後の技術革新で、その気になりさえすれば、第二青函トンネルも、同じく5000億程度で出来そうだとのこと。つまり、あちこちの予算を少しずつつまみ食いして予算を捻出したら、意外に簡単。ただし、そんなもので世界最大規模の大都市の大量の都民一般まで救えるわけでもなく、国民の理解を得ることは無理。となると、こうして別の名目で大型建設工事をゴリ押しして、とにかく作ってしまえ、ということにもなるのかも。


 新国立競技場が、ほんとうにバカどもが考えた、ただの金喰い虫のボンクラ競技場にすぎないのかどうか、その真相は、それこそ秘密保護法の領域。ドン・キホーテ並みのスパイ映画かぶれの妄想陰謀論。しかし、いずれにせよ、災害だの、戦争だの、万が一の状況において、危機管理として、国家を存続させるために、主要人物たちのみを結集脱出させる施設が必要かどうか。もし必要だとすれば、リスクに対する保険として、どれくらいの予算で、どれくらいの施設までなら許容できるのか、そのことについては、もっとオープンに広く議論しておいてもいいのではないか。


(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)