サービスの本質とは(1) 【連載サービスサイエンス:第1回】/松井 拓己
「サービス」はいまや、すべての産業において競争優位そのものと言える時代になった
日本のGDPの約70%はサービス業が生み出しています。また、製造業においても顧客ニーズの中心がサービスに移行しており、サービスでの差別化が大きなテーマになっています。更には農業や水産業でも、地産池消のレストランや直販サービスの乗り出すことで収益改善に取り組んでいます。
しかし実状は、いざサービスの価値を高めて競争優位を築こうと思っても、いったい何から手を付けたら良いのか分からなくて困ってしまう。取り組んではいるが、なかなか成果が出ない。経験やセンスに頼って取り組んでいるので納得感に欠ける。と苦戦していることが多いものです。
そこで、一流のサービス企業に変革するための方法として、サービスの本質の理論を明らかにした「サービスサイエンス」が注目されています。このサービスサイエンスは今では、サービス業に限らず、製造業などあらゆる産業で活用されて成果を挙げています。目に見えないサービスをロジカルに捉えることで、本質的で効果的な取り組みを組織一丸となって進めることができる、ワンランク上のサービスを実現することができるのです。そこでこの『連載サービスサイエンス』では、サービスを様々な視点でロジカルに捉えることで、サービスの課題や盲点を炙り出して、サービスの本質や努力のポイントを明らかにしていきたいと思います。
そもそも、どうしてサービスでお客様に喜んでいただくのは難しいのか?
手始めに、3つの視点で製造業とサービス業を比較して、その違いを明らかにしてみたいと思います。
製造業の場合
・「材料」である原料や部品を仕入れます。
・工場で製品を「生産」します。
・製品は、お客様が見たり、触ったり、説明を聞いて「評価」して、納得して購入します。
この「材料」「生産」「評価」の3つの視点で、サービス業について見てみましょう。
サービスの「材料」っていったい何でしょうか?
いざこう聞かれると、ドキッとしますよね。考えたこともなかったという方も多いのではないでしょうか。このように、製造業では当たり前なことが、サービス業では実に曖昧になってしまっていることに気づきます。サービスをロジカルに理解するためには、こういった点をハッキリさせていくことも大切です。
サービスの「材料」は、お客様の課題です。お客様が課題を持ってサービスを受けに来て頂かないと、サービスを提供することができないのです。
続いて「生産」です。製造業では「生産」にお客様は直接的には絡んでいませんでした。しかしサービスは「お客様と一緒に作るもの」。ここに、製造業とサービス業の極めて重要な違いがあります。
そして「評価」です。製造業では、製品を見たり、触ったりして、納得して購入します。一方でサービスは見えないので客観的な評価が難しい。なので、サービスを受けてみないと分からなかったり、他人の意見に流されやすいという特徴も見えてきます。
このように、「材料」、「生産」、「評価」のたった3つの視点で製造業とサービス業を比較しただけでも、お客様に喜んでいただくためには、製造業とは全く違った価値観でサービスを提供しないとお客様には喜んでいただけないことが分かります。
しかし実は日本のサービスのほとんどが、製造業的価値観で提供されているのです。
製造業的価値観で提供されている日本のサービス
つまり、「良いサービスは喜ばれるに決まっている」と思い込んで、勝手に作ったサービスをお客様に一方的に押し付けていることが非常に多いのです。「勝手に作ったサービス」には、「余計なお世話」や「無意味行為」「迷惑行為」などが含まれてしまいます。これでは、お客様に喜んでいただくことはできません。サービスの本質を理解して、サービスでお客様に喜んでいただくための価値観や考え方を持たなければならないのです。
そこで次回は、サービスの定義を理解することで、サービスの本質とは何かを明らかにしてみたいと思います。