竹林 篤実 / コミュニケーション研究所

写真拡大

道交法改正がもたらしたピンチとチャンス

2007年9月に道路交通法が改正され、飲酒運転に対する取り締まりと罰則が一気に強化された。そのキッカケとなったのは、飲酒運転により引き起こされた悲惨な交通事故である。警察の威信を賭けた法改正だけに、改正直後の取り締まりは極めて厳しいものとなった。

ロードサイドの飲食店やゴルフ場などが軒並み取り締まりの重点対象となり、ゴルフ場の出口などで飲酒運転の検問が行われることもあった。ある意味、見せしめ的な取り締まりであり、仮にドライバーが飲酒運転と判断されれば、同乗者にも高額の罰金が科せられた。

その結果、ロードサイドの飲食店ではアルコール関連の売上が急落する。ゴルフコンペでも終了後の乾杯はご法度となる。食事の質よりもアルコール類を安価で提供することで成り立っていた、ロードサイドの飲食店などは、店をたたむケースもあった。

一方で、法改正は新たなビジネスチャンスをもたらした。運転代行サービスである。車以外の交通手段に恵まれない地方では、ちょっと食事に行くにも車が欠かせない。晩ごはんともなれば、飲みたくなるのが心情。とはいえ飲むと何十万円もの罰金が恐ろしい。

そこで「安心してお飲みください。乗って来られた車は、ご自宅まで代わりに運転して送り届けます」サービスが広まる。運転代行サービスは以前からあったものの、わざわざお金を払って頼む人は少数派だった。ところが罰金が高額化したおかげで、このサービスのコスト・パフォーマンスが俄然高まったのだ。


PESTのPはPoliticsのP

こうした一連の現象は、法律が改正されて初めて起ったことではある。けれども、法改正は何も、ある日突然行われるわけではない。そもそも法律ができる前に、何らかの問題提起がある。これを受けて、改正の動きが起こるのだ。

一連の動きは、決して秘密裡に進められるわけではない。特定の課題に関する検討委員会や審議会が立ち上げられ、そこに有識者が集められて議論が交わされる。議事録が作られ、関係省庁のホームページで公開される。

マスコミがすべてを取り上げることはないけれども、自分の業種・業態に係る省庁のサイトを定期的に見ていれば、その動きを掴むことはそれほど難しいことではない。これは、大企業のマーケティング部門の基本業務である。

法に絡む変化は、ビジネス環境にダイレクトに影響を及ぼす。だから、しっかり分析することが必要だ。とはいえ「分析」といっても難解なことをするわけではない。「分析」とは「ものごとを一つ一つの要素に分け、それぞれの性質を明らかにすること(角川必携国語辞典)」である。

大切なのは、普段から情報を集めて分類しておくこと。分類基準は、とりあえず「この情報は、我社にとって得なのか/損なのか」ぐらいで考えておけばいい。


Economy、Society、Tschnology

PEST分析の中でもPoliticsは、最もわかりやすい。法改正のほかに政策変更も、ビジネス環境にダイレクトに影響する。アベノミクスによって、どのような変化が起ったかを振り返ってみれば、その影響の大きさを理解できるだろう。

もちろん、国内だけに限ることではない。つい最近なら、ギリシア問題があり、中国でも政府が株式市場に介入した。ギリシアがデフォルトすればどうなるか、中国の株式市場バブルが崩壊すればどうなるか。考えておいて損なことは決してない。

PEST分析の残りは、Economy、Society、Technologyである。経済的要因、例えば景気動向や消費動向、経済成長率、為替と株の動き、金利の変化などは、少し注意して新聞を読めばわかること。分析などと身構えることなく、気になった記事を破って「得するボックス」と「損するボックス」に入れておけばいい。そして10日おきごとにチェックすれば、おおまかな流れをつかめるようになるだろう。

Societyは社会的要因である。ここには確定した未来も含まれている。例えば、20年後の60歳人口は、既にほぼ確定している。自社のビジネスが対象としている顧客層の、今後の推移を見ておくことは戦略のベースとなる。

Technology、技術的要因が世の中を変えることは、今の30代以上の方なら実感として理解できるはずだ。例えば、スマホの普及によりライフ(ワーク)スタイルは、どう変わったか。スマホ以前の暮らし方や仕事の進め方を振り返れば、パラダイムシフトが起ったことを素直に理解できるだろう。今後、スマホのような変化を引き起こす技術は何があるのか。新しい技術が出た時に、これも「得するボックス」と「損するボックス」に分けるクセを付けておけばいい。


誰でもできる「PEST分析」

まとめると「PEST分析」は、決して難しいことではない。自分なりの情報源を決めて、そこで得た情報を分けることだ。情報が溜まった時点で、それぞれが自社のビジネスに与える影響を考えてみる。ただ一つだけ注意して欲しいのは、情報源の偏りをなくすこと。例えば日本の新聞だけを読んでいると、同じ出来事について世界がどう見ているかがわからない。英語を読めるなら、英字紙を読めばいいし、英語が苦手なら日本語版の記事もある。次回からは、実際にPEST分析を行い、近未来を予測してみよう。