豊田陽平「ハリルさんほどの細かい指摘は初体験」
■豊田陽平が語るJリーグ第1ステージとハリルジャパン(後編)
「細かくて熱い人」
それが豊田陽平(30歳、サガン鳥栖)のヴァヒド・ハリルホジッチ監督に対する印象だ。
今年5月に行なわれた代表合宿に、豊田は招集されている。Jリーグの日程を縫う中での招集で、慌ただしく、予定されていた練習メニューもすべてこなせたわけではない。あっという間に過ぎていったが、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレに続いて、彼は3人目の代表監督の指導を経験した。
「アギーレさんはとにかく熱い人。大会のメンバーに選んでくれたので、一番自分のプレイを理解してくれた気もするし、感謝もしています。ザックさんは理論的で緻密で、どこか一歩退いた冷静さを感じました。ハリルさんは細かな指摘がとても多い方。あそこまでの細かさは経験したことがありません。ポストからのシュートを一つとっても、少しでもパスをバウンドさせると、『やり直し』。FW出身の監督なので、そこは自分を重ねて厳しくしているのかもしれません」
国内組での合宿は、単純な代表強化というよりも、今後の代表の方向性を広く伝える作用を狙っていたのかもしれない。体脂肪率なども含め、指揮官が志向するサッカースタイルに必要な要素が伝えられた。代表候補選手を経由し、各クラブの選手にも情報が入ることを想定しているのだろう。
「(合宿では)攻守の切り替えの部分も含め、どこで圧力をかけてボールを取るのか、という指示が一番印象に残っています。バルサ対バイエルンのチャンピオンズリーグの試合ビデオを見ながら、『Jリーグでもこの強度の圧力が必要なんだ。まだまだ君たちは足りない。もっと前から激しく行くべきだ!』と力説していました。裏を返せば、その強度が出せる選手が必要だ、ということだと思います」
すでにメディアで報道されている体脂肪率の厳命も、プレッシングをやり遂げるために不可欠な条件なのだろう。
「例えばザックさんは、ボールをどうやって前に運ぶか、を第一に考える監督でした。センターバックがボールを守って上がるとき、サイドバックが一つ前のポジションを取り、サイドアタッカーは半円を右回り、左回りに描いて中央にポジションを動かし、二つ以上のパスコースを作る、とか。そういう決めごとの攻撃練習は緻密でしたね。ザックさんに比べるとハリルさんは、一つ一つのプレイのディテールと前から圧をかけるゾーンプレスという印象が残っています」
シンガポール戦でW杯予選引き分けスタートになった結果に関しては、メンバーから漏れた彼は言葉を控えた。
「監督やチームの評価は結局、最終的な結果次第なので、今の段階で判断するのは難しいです」
そう前置きした上で、外から見たイメージも付け加えた。
「イラク戦は"前半の戦いが後半も続けられたら魅力的だろうな"とは思いました。でもあのイラクは、アジアカップで国家の名誉をかけて死に物狂いだったイラクとは様子が違いました。技術的に拙いだけではなく、気迫も感じられなかった。シンガポール戦は、アジアカップのUAE戦を思い出したというか。横から入るボールが少なく、つないで攻めても点が取れない。割り切って柔軟に攻めていたら、という意見はわかる気がします」
三浦知良が「豊田待望論」を口にしたように、高さは選択肢になり得る。もっとも、豊田本人は代表に対してのアピールを続けるだけだ。
「自分ができる範囲でアピールはしていくつもりです。まずは守備。オカちゃん(岡崎慎司)もハードワークしますけど、それに準じた仕事をする自信はあります。ゾーンプレスはチーム全体での作業なんで、全員が連動できるかですけど。それにゴールにつながるフィニッシュのところ。横からのクロスボールはどの選手にも負けない自信があります。その形を代表で作れたら、とは、ザックさんのときからずっと思っているんですけど・・・。
その意味では、次にハリルさんに呼ばれたら、ぜひ一度個別に話してみたいです。先日の候補合宿でも、練習後のストレッチで『なにか(自分のプレイを見て)アドバイスがあればください』と声をかけさせてもらったのですが、限られた時間の合宿だったので......。コミュニケーションの中、自分がどうやったら一番生きるのか、を伝えきりたいです。過去の代表監督の下でプレイしたとき、そのもどかしさをずっと抱えてきたので」
豊田は率直な思いを打ち明けた。
「代表に関しては自分自身を見つめたとき、これまでのところ、"いい流れに乗っている"とは思っていません。でも、だからこそ反骨心を持って鳥栖でのプレイを続けられている、とポジティブに捉えています。自分としては、流れに乗れていようといまいと戦い続けるしかない。(8月に中国で開催される)東アジア選手権は国内組中心らしいので、チャンスと捉えていますよ。前回(2013年)の東アジアは気の置けない選手同士、犠牲心も競争もあって、いいチームだったので......」
過去4シーズンの得点合計は国内トップで、誰よりもゴールという結果を残してきた。Jリーグ最高のストライカーとして君臨する自負はある。ファーストステージ2位の12得点は、チームが11位に低迷する中、ひときわ光彩を放つ。
「でも、チームが負けたらゴールはなんの意味もないんですよ」
豊田は真剣な表情で言うが、その見解が彼らしい。
「ストライカーっぽくはないかもしれませんが、"絶対に自分がゴールする"という意識が僕にはありません。自分の目標、目的は、"勝利して勝ち点3を取ること"。そのために自分はゴールに近い場所にポジションを取って、最後の仕事をやり遂げるだけ。SNSで『ハットトリックしてください!』というメッセージを受けることがあります。応援はとても嬉しいんですが、ハットトリックしても4点取られて負けたらダメ。自分は勝つためにプレイします」
勝ち点3という目的があった上での手段。彼はストライカーとしてその認識を深め、技量や判断を研ぎ澄ませてきた。この思考の序列が豊田という選手の基礎を形成している。
「チームのためにプレイするか、自分がゴールするか。そのパワー配分はどちらのパーセンテージが多すぎても、FWは駄目なんですよ」
豊田は独自のストライカー論を語る。
「献身性や犠牲的精神で周りを生かすというのはチームの勝利には必要なことで、それをするとFWの価値は高まります。チームの潤滑油になることで周りから褒められ、ときに崇められる。でも気づくと、"あいつはゴールがない"という反応になっているんです。そして上手いけれど、怖い選手ではなくなっている。それは怖いですよ。いつの間にか、ゴールという仕事ができないFWになっているんです。
自分は一人でやれるほどうまい選手じゃない。周りに支えられ、補ってもらい、だから自分自身もお返しをして、とやってきました。だからFWとして、チームのために働くことをまず意識しています。
でも、同時に力の配分を考えてプレイしてもいますね。
なぜなら、ゴールに近いポジションにいるストライカーは、最後のところで40%以上の力を集中させる必要があります。点を取れる場所は限られ、周りのためばかりに動いているとそこにいられない。周りへの気遣いが80%になってしまったら、ゴールという仕事で極端にパワーダウンしてしまう。そして"人がいい"FWほど、チームのためにという傾向に走りやすい。だから言い方は難しいですが、周りのための仕事でどう力を抜くか、そのパワー配分は大切なんです」
彼はゴールの方法論をじっくりと練り上げてきた。30歳になって、その熟練味は増している。実は、彼には一つの持論がある。
<33歳でもう一度、ピークが来る>
根拠はない。しかし親しい知人や関係者に言われることが意外なほど多く、何となくそんな気もしている。33歳という時期に誤差はあるかもしれないが、自信と経験と肉体のグラフがそのあたりで交わる感覚があるのだ。
豊田はその訪れを希望し、予感し、自らの仕事に向き合う。代表はその先にしかない。闘争そのものが、彼の矜持(きょうじ)なのである。
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

