直感でわかる仮説思考1/後悔したことがあれば仮説は絶対にわかる/伊藤 達夫

仮説思考に関する本は山ほど出ています。それらの本で一番易しいレベルのものには、「仮説は当てずっぽうでいいから仮の結論を考えればいいんだ」といったことが書いてあります。また「結論から考えることが大事だ」という主張を強くしている本もあります。多少難しい本には、論理性を重視して、「なんでも当てずっぽうに結論を出せばいいわけではない。論理的なつながりがなくてはならない」といったことが書いてあることもあります。

ただ、これを読んだだけで、「じゃあ、仮説出して!」と言われても固まってしまうでしょう。どうやって仮説を出せばいいかはあまり説明してくれていません。

いわゆる仮説解説本の中でのおそらく一番のベストセラー「仮説思考」にはコンサルタントは「ディスカッションを通じて思いつく、インタビューの時に思いつく、突然ひらめく、じっくり考えている時に思いつく」と書いてあります。

その上で丁寧に「分析結果から仮説を立てる方法」「インタビューから仮説を立てる方法」「ヒラメキ」について解説してはいます。ただ、目の前にある事実とそこから出しうる仮説について書いてあるだけなので、どう出るか?は「人それぞれ」で済ませてしまって全くと言っていいほど書いていないわけですが。

こういった解説の仕方だと、仮説というのはよくわからないけれど「思いつく」ものであって、仮説を思いつける特別な能力がある人でなければできないのではないか?と不安になることでしょう。

また、「思いつきじゃダメなんだ!」とおっしゃる方も多数いらっしゃって、状況は更に混乱します。「思いつく」と書いてあるものもあるのに、「単なる思いつきではダメだ」というものもある。どうすればいいんだろう?と。

特に「答えのパターンをとにかく覚えればいい、それが勉強だ。」という教育を受けた人はこれではとても困るでしょう。

とあるツワモノの学生は、何も考えずに「知っていること、聞いたことがあること」をそのまま問いの答えにもってきたりして、それでいいと思っていることがありました。

彼は就職の面接で、「働く上で大事なことは何ですか?」というテーマのグループディスカッションがあった時、バイト先の行動原則「徹する、察する、交わる」をそのまま話して、それが働く上で大事なのだと主張したそうです。結果的に落とされたのですが、「何が悪かったんだろう?」と言っていて、先生としては唖然とするわけです。が、なぜ唖然とされるかわからないようで彼はキョトンとするので、先生は更に唖然とします。

当たり前のことを言えば、グループディスカッションでは、みんなで答えを出していくプロセスでどう協力して一緒に考え、結論を出していくか?が問われているわけです。バイト先の行動原則を自分が思いついたように提示して、そのままそれがいいんだと主張することは、ほぼ「考える行為」を放棄していますよね。そのスタンスはグループディスカッション中の言動の端々からにじみ出てしまうことでしょう。

「でも、仮説を考えるなんてできないよ、当てずっぽうの答えを出すことなんてできないよ」というのが私の授業に出ている学生の普通の反応です。おそらく、最近では一般的にもそういう人が多いことでしょう。

でも大丈夫です。できます。

仮説を考えることは絶対に誰にでもできます。

なぜそんなに自信を持って言えるのでしょうか?

私の授業を受けている人は、少し直感的にわかる説明をするだけで仮説が一応は作れるようになったからですね。

私が学生にいつも言うのは2つです。「後悔したことがあれば、仮説は立てられるよ」ということと、「何かを期待したことがあれば仮説は立てられるよ」ということです。ここからうまくきっかけをつかめる人が多いので、この2つを使って仮説を立てるというやり方のイメージを捉えてもらいます。

まず、1つ目から行きます。

後悔したことはありますか?

10人に聞くと、たいていは10人とも「後悔したことはある」と答えます。中には顔をしかめて、後悔した出来事を思い出してしまう人もいます。

「あの時ワインの飲みすぎで、酔っぱらって失敗していなければ!」と私も思ったりします。

この「あの時こうしていなければ」は、どういうことなのでしょうか?少し詳しく見てみましょう。

あの時、ワインの飲み過ぎで酔っぱらって、ひどいことをしてしまった。それをしていなければ・・・、というのは、「あの時変なことをしていなければ」なのでしょう。あるいは、「あの時美味しいワインを飲み過ぎていなければ」です。

ただ、「していなければ」というのは、「何かをした結果、どうなった」ということが、自分にとって悪いことだったということですよね?

すると、あの行為をしなければ、結果が自分にとって悪いものにならなくて済んだ、ということです。「自分が何かすることで状況が悪くなった」と言っているのですね。

もしくは、暗に「もう少しこうしていれば」ということを言っています。歌謡曲の歌詞では「もう少し優しくしてあげられていたら・・・」でしょうか。

この場合は「もう少し優しくしてあげられていたらうまくいっていた」ということですね・・・。本当かどうかは置いておきましょう。

ただ、分かって欲しいのは、これがビジネスや学問で言う仮説を捉えるヒントになるということです。

何かをする。結果が出る。

ひどいことをして、悪い結果が出る。いいことをしていれば、いい結果が出ていたはずなのに・・・。

結局、人はこれを自然に思いついているわけです。後悔したことがあれば絶対にこれがわかります。

ビジネスで言う企画は、「何かをする、自分の会社によい結果が出る」です。ビジネスで言う自分の会社によい結果は「収益が上がる」であることが多いです。

また、学問でいう仮説も、教育などで言えば「何かをしたら、学生の能力が向上した」がわかると非常にいいわけですね。

もう少し深く掘ってしてみましょう。

何かをしたらこうなるんじゃないか?ということは状況が明確になればなるほど、イメージしやすくなります。これは「後悔」ということ少しを見つめてみるとわかります。

恋愛で言えば「どうすればいいのだろう?」というのは好きであればあるほど悩んだりします。いろいろ考えて誘い出す方法やプレゼント、遊びに行く先を考えたりするわけです。が、結果が出ないうちはこれでいいのかは確信が持てない。でも、その後悔の瞬間に近付くにつれ、いろいろとはっきり見えてくる面がある。そして、悪い結果が鮮明に出ると、「あの時あんなことをしていなければ」という後悔に至る行動、発言に行きつくわけですね・・・。切ない。

過ぎ去って結果が出たことには「あの時ああしていれば!」がすごく言いやすい。これが後悔だったりするわけです。仮説を立てるというのはこれとすごく似ています。いや、ほとんど同じではないでしょうか。

ここまでを理解することが「仮説思考」がわかるようになるファーストステップです。直感的にイメージできたでしょうか?

【ポイント】後悔を思い出して、見つめてみる

次回はセカンドステップについて、「期待がわかれば仮説はもっとわかる」をお送りする予定です。それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。