新しい調達・購買部門の姿/野町 直弘
これからの日本型調達購買部門のモデルについて語ってみます。

昨年末のメルマガでも書きましたが、私は昨年あたりから日本企業における調達・購買部門(機能)に対する期待が変わってきていることを最近もよく感じます。10数年前の日本企業の調達・購買は「ブラックボックス」かつ「属人的」という言葉があてはまった前近代的な世界でした。それが近年は欧米方式の「体系化」「システム化」「合理主義」が入ってきたのです。これが最近までの調達・購買改革の流れと言えます。この10数年で日本企業の調達・購買部門は単なる「買いモノ屋」から「便利なコスト削減請負人」に位置づけられるようになりました。しかし近年調達・購買部門(機能)に対する期待はここから変わりつつあります。私が昔から使ってきた言葉ですと「ビジネスモデルへの貢献」がより求められてきているのです。米国サプライマネジメント協会の発表ではこれを「イノベーション購買モデル」と言っています。

昨年末のメルマガで、私はこれからの調達・購買は、サプライヤとの協働とサスティナビリティ−が重要になる、と書きましたが、この流れはより一層現れてきているようです。例えばある企業では5年前まではサプライヤ集約を行い大きなコスト削減を実現してきましたが、その同じ企業が今は戦略パートナー制度を採用し、優秀なサプライヤとの協働による自社製品の差別化を図ろうとしています。同様に優秀なサプライヤの囲い込みを行い関係性を強化しようという動きは様々な企業で見られるのです。

これらの流れを見ていると、以前はやや抽象的であったこれからの新しい購買・調達部門の(期待される)姿がおぼろげながら見えてくる気がします。その点について述べる前にまずは購買・調達部門(機能)に対する期待について整理してみましょう。

多くの企業で購買・調達部門(機能)に対する期待は何か、と問われると、まず最初に上げられるのはコスト削減(最適化)です。これはもちろんQCDの最適化が条件であり、安かろう悪かろうではないことが前提となります。それから2点目は業務コストの最適化です。当然のことながら成果に見合う以上の業務コストをかけていればその部門(機能)の意味はありません。その点から自部門だけでなく、社内ユーザー部門他も含む業務コスト削減(最適化)にも継続的な期待が求められます。3点目は社内統制、管理です。先ほど述べたサスティナビリティーとは安定的かつ適正な調達活動を継続するということあり、正に社内統制、管理の期待から出てきているキーポイントと言えるでしょう。
これらの3つの期待はその優先順位や度合の差はあれど、調達・購買部門(機能)に対する従来から上げられていた期待や目的です。

それに対し今後一層調達・購買部門(機能)に求められる期待、目的は何でしょうか。それは「サービス機能の強化」です。ここで言う「サービス」とは社内ユーザーや経営者だけでなくサプライヤも対象となります。またもう少し広く捉えると一般社会や地域住民のようなステイクホルダーも対象となり得るでしょう。
従来調達・購買部門(機能)は多くの企業で社内ユーザー部門からは嫌われる代表的な部門でした。しかし、これからの調達・購買部門(機能)は社内ユーザーに対してもより有益なサービス提供を行っていかなければなりません。

例えば開発部門に対してはより自社製品の競争力や魅力度につながるような技術の紹介や提案を行う。また、それだけでなくユーザー部門が欲しい情報をタイムリーに提供する、等のサービス機能を強化していくことが期待されています。

ある企業では「購買白書」なるものを作り社内ユーザー部門他に対して定期的に様々な市況情報や購買にかかる情報やデータを提供しているようです。このようにユーザー部門やその他の社内のステイクホルダーがどのような情報を欲しいか理解し、継続的に提供することで、当然関連部門からの評価は高まってきます。このような調達・購買部門(機能)の成果を測定するために社内関連部門のカスタマーサティスファクション(CS)を定期的に測定している企業もあります。

一方で有益なサービスの提供機能の対象は社内だけではありません。例えば対サプライヤに対するサービス提供も求められます。これは最近メルマガでも触れましたが正にサプライヤモチベーションを向上させていくことにつながるのです。サプライヤ個々が何を望んでいるのかを理解した上で、適正なサービスや情報、データ等を提供する。
これが良いサプライヤにやる気を出してもらい、こちらを向いてもらうための有効な方策になります。

このようなサービス部門としての機能強化という視点は実は昔から日本企業にはありました。優秀なバイヤーは社内関連部門やサプライヤに対して有益なサービス提供をしてきたからです。しかし、多くの企業ではそれを個々のバイヤーの役割として捉え、組織的な活動に落とし込めていませんでした。つまり個々のバイヤー任せになっていたのです。
そこが属人的たる所以です。昔から他部門やサプライヤからたいへん評判が良いバイヤーはいたものですが、そのようなバイヤーが必ずしも部門内で評価が高いかというと、そんなことはありませんでした。

今後、調達・購買部門(機能)にとって有効、有益なサービスの提供は益々その機能を求められていくことでしょう。それが「ビジネスモデルへの貢献」につながっていくのです。
このように従来のコスト削減、業務コスト最適化、社内統制・管理に加え有益なサービス提供がこれからの新しい調達・購買部門(機能)における期待や目的の一つであると言えます。また、今までの十数年間で培ってきたの欧米型の調達・購買モデルを超えた日本型調達・購買モデルの目指すべき方向の一つの解となるでしょう。