不慣れなWBでの起用にも柔軟に対応。永井は本職のDFさながらの守備で相手に粘り強く喰らい付いた。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 開幕から2分2敗と苦しんでいた名古屋に、ようやく“春”が訪れた。ホームの豊田スタジアムで迎えた広島戦は、攻守が噛み合い2-0で今季リーグ戦初勝利。ナビスコカップを含め、今季初の無失点に抑えられたのも好材料だろう。

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「対広島という点では、狙いどおり」(西野監督)という戦いのなかで目を奪われたのが、永井の守備面での働きぶりだ。
 
 これまでは主に、4-2-3-1の左サイドハーフを務めてきた永井だが、「(マッチアップした)ミキッチを抑えて欲しいと監督から言われた」ため、広島対策として採用した3-4-2-1の左WBとして出場。ミキッチをケアしながら、自慢のスピードを活かした背後への飛び出しが勝利へのポイントになると予想された。
 
 しかし、いざ試合が始まってみると予想は大きく裏切られた。広島のWB(ミキッチ)の攻撃を抑制すべく最終ラインに吸収される場面が多く、大半の時間をディフェンシブな役回りに奔走したのだ。
 
 もともと、豊富な運動量を活かしたチェイシングもこなす永井は、守備もある程度は計算できる。とはいえ、本職ではないWBとなれば話は別だ。要求どおりにミッションをこなしていたが、「いつまで堪えきれるか」との疑念も抱いていた。
 
 ところが、そんな不安を余所にミキッチとのマッチアップに対応。90分間を通して綻びは見られず、相手ボールになればしっかりと低い位置へポジションを取って守りに徹した。その姿は本職のDFさながらで、粘り強く相手に喰らい付きながら「周りとの距離感は良かったし、やることもはっきりしていた」と上手くこなしていった。
 守備だけでなく、FWならではの“勘”も光った。
 
 前半アディショナルタイム、自陣でのパスカットからカウンターへと移った際、「ボールを前へ運ぼうとした時、ちょうど真ん中が上手く空いた。そこにパスを出せば行けるんじゃないか」と、ハーフウェーライン手前から縦パスを供給。このパスに走り込んだ川又堅碁が左足で先制点を奪った。
 
「自分ならあのタイミングで出してもらったらゴールを決められそうだなと思って。そうしたら、(川又)堅碁が上手く決めてくれましたね」(永井)
 
 攻撃面では縦への突破も随所に見せたとはいえ、普段に比べればゴール付近でのプレーは限られた。しかし、それは守備にも奔走したためで、むしろ、無尽蔵のスタミナをはじめ、スピードを活かしたアップダウンやチェイシングなどで、「永井の特長が出せた」(楢粼)のも確かだ。
 
 西野監督も、攻守に奮闘した永井への賛辞を惜しまない。
 
「永井でなければ今日のような対策は上手く機能しなかったと思う。彼はディフェンスに追われるだけでなく、ミキッチを抑えながら、攻撃の推進力も出してくれた。アップダウンを繰り返して、チームに全体的なバランスをもたらした」
 
「作戦勝ちですね」。試合後、安堵感を漂わせながらこう話した永井が、リーグ戦初勝利という“春”の到来を後押ししたのは間違いない。
 
取材・文:橋本 啓(サッカーダイジェスト編集部)