祭典競馬から洋式競馬の導入を経て発展し、昭和20−30年代に現在の形が築かれた日本の競馬事業。農水省が設置した「我が国の競馬のあり方に係る有識者懇談会」(座長・根来泰周日本プロフェッショナル野球組織コミッショナー)は昨年3月、報告書をまとめ、「収入の一部を国の畜産振興、社会福祉などの予算に充て、公的な財政に寄与し、公益的な役割を果たした。経済的にも文化的にも重要な機能を有している」と、その功績を評価した。



昨年年末に閉鎖された高崎競馬場。地方競馬を取り巻く状況は厳しい。
(資料写真提供:森山英雄さん)
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 しかし現状については、「景気の低迷、デフレによる経済情勢の変化や生活、趣味の多様化による社会情勢の変化の影響を受け、他の公営競技と同じく、売上げの減少が続いている」とレポート。「早急に改革を進める必要がある」と“非常事態”を宣言した。

 同報告書の指摘を待つまでもなく、地方競馬を取り巻く状況は非常に厳しい。農水省生産局競馬監督課によると、平成3年度には25主催者全体で1兆円近くあった売上げは、同13年度に5500億円、同14年度に4900億円と急下降し、同15年度には4450億円と半減。同12年度には全主催者の単年度収支が赤字となり、この数年間で中津競馬組合、新潟県競馬組合、群馬県競馬組合など8主催者が競馬事業から撤退した。

 凋落の理由について、同課は「景気の悪化とレジャーの多様化のあおりを受けて売上げが下がっている。地方競馬は地域に根差している分、馬も騎手も少なく、魅力が乏しい点は否めない」と話し、さらに「競馬場ごとに人員と施設をまかなっており、コスト高も他の公営ギャンブルの比ではない」と指摘する。

 地方競馬の場合、売上げの75%がファンへの払い戻しに当てられ、残りの25%で賞金、施設費、人件費などの開催経費をやり繰りしている。売上げが急下降し、コストを削減したくとも、ファンをつなぎとめるために払い戻し率を下げるわけにはいかない。多くの競馬場が賞金や人件費などを削ってコスト低下に努めている。

 しかし賞金カットは、馬主にとって競走馬を持つメリットがなくなるため、結果として馬の入厩数は激減。賞金や預託料などが収入源である調教師、騎手ら競馬関係者も、ぎりぎりの線での生活を強いられる悪循環に陥ってしまっている。

 また、主催者である地方自治体の運営がずさんだったと非難する競馬関係者も多い。昨年末に閉鎖された高崎競馬場(群馬県高崎市)の関係者は「賞金は下げても、競馬場に来ている県職員や市職員の給与、退職金は高いままだった。職員らは集客のアイデアを出すわけでもなく、切迫感がまったくなかった」といらだちを隠さない。ある調教師は「どこの競馬場でも同じだが、自治体の職員は2、3年で他の部署へ移ってしまうので、必死さが足りない上に経営センスもない。民間の血を入れるしか、地方競馬が生き残る道はない」といい、民営化に望みを託す。【了】

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