米労働省が先週末(7日)に発表した9月の雇用統計は、8月29日に米南東部のメキシコ湾岸一帯を襲った大型ハリケーン「カトリーナ」の影響で、失業者数が被災地のルイジアナ州とミシシッピ州を中心に急増すると予想された割には、就業者(非農業部門で軍人除く、季節調整済み)数は、前月比わずか3万5000人の純減にとどまった。

  新規雇用者数が前月比で純減したのは、2003年5月以来、2年4カ月ぶりだが、市場では、15万−17万5000人の純減と予想、実際には、その5分の1というわずかな減少にとどまったことに驚きを隠せない。むしろ、米経済の健全性や強靭性が確認された明るいニュースと受け止めている。

  ただ、米経済の強さが再確認されたことから、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げキャンペーンが引き続き、実施されるという見方が市場では大勢となっている。FRBは9月20日に、金融政策を決定するFOMC(米連邦公開市場委員会)の会合を開き、昨年6月以来、11回連続となる0.25%ポイントの利上げを実施、このときも市場の一部には、8月末のハリケーン「カトリーナ」と9月24日のハリケーン「リタ」による災害の米経済への影響で、第3四半期(7−9月)と第4四半期(10−12月)の経済成長率が0.5-1%ポイントも減速する見通しから、利上げキャンペーンは一時休止するという見方もくすぶっていた。しかし、今回の雇用統計では、そうした見方も吹っ飛んでしまった感がある。市場では、今後、数回のFOMC会合では利上げは休止なしに実施され、政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標は現在の3.75%から4.5%まで引き上げられると見ている。

  今後、連邦政府は1500億ドル(約17兆円)のハリケーン復興予算を組んで、事実上の財政出動を行うことや原油先物価格であるニューヨークマーカンタイル取引所(NYMEX)の標準油種であるWTI(ウエスト・テキサス・インターメディエート)11月ものも一時の1バレル=70.85ドル(8月30日)の水準から先週末(7日)時点では、前日比7%安の61.84ドルにまで低下してきていることから、エコノミストの間では、懸念されている第3四半期と第4四半期の成長率予想を上方修正する動きも見られる。しかし、一方で、ハリケーンの原油や天然ガス、ガソリンや暖房油など石油製品への影響が完全に現れてきたとは言えず、GDPの3分の2を占める個人消費が来年第1四半期まで0.5-1%ポイント減速する可能性もあるとして、慎重な見方もあるようだ。

9月雇用統計、ハリケーン関連の失業者は23万人

  ハリケーン・カトリーナによる失業者数については、米CBO(連邦議会予算事務局)は、当初、年末までに40万人と推計していたが、先々週、これを20万人に訂正していた。9月の雇用統計では、23万人がハリケーン関連の失業者数となり、ほぼCBOの予想数値と一致した。一方、ハリケーン被災地以外の地域では、就業者数は前月比19万4000人増加しており、これは、8月までの1年間の月間新規就業者の増加数(19万4000人)と同じペースで、もし、ハリケーン被害が起きていなければ、9月の雇用統計はこの平均ペースで伸びていたと言われる。ともあれ、ハリケーン地域の23万人減とそれ以外の地域の19万4000人増の差が、今回の米国全体での3万5000人減となっている。

  今回の統計では、ハリケーン・リタの影響が反映されていないので、次の10月以降の雇用統計や9月分改定値が注目されるところだ。ただ、エコノミストの中には、過去の災害時の例を挙げ、災害復興が軌道に乗れば、雇用者数は反発に転じると見ている向きがある。実際、1992年にフロリダ州を襲ったハリケーン「アンドリュー」のケースでは、同年8月の就業者数は前月比で13万7000人減少し、翌9月も同3万7000人減と2カ月連続で影響が出たが、同年10月には、同17万3000人増と大幅に反発している。このため、今回も同様なパターンになるのではないかという見方だ。

  また、今回の雇用統計がそれほど悪くならなかったのは、米経済の強さに加え、ハリケーン被災地での復興関連の雇用が増加したことがある。ハリケーンの影響がもっとも強く出たのは小売業で、災害地のスーパーや商店が閉じた影響で前月比8万8000人減となり、ルイジアナ州のスーパーのウィン・デキシー・ストアーズは倒産の憂き目にあっている。このほか、ニューオーリンズなどのホテルやカジノなどを中心にレジャー・接待業も、同8万人減となった。他方、ハリケーン復興需要と住宅建設ブームもあり、建設関連は同2万3000人増、復興工事関連の臨時雇用サービスも同3万1700人増となっている。ハリケーン以外では、ボーイングが機械工労組ストで1万8000人の失業を出した関係で、製造業は同2万7000人減となったのが特徴だ。

  失業率は、ハリケーン被害の影響で、8月の4年ぶりの低水準だった4.9%から9月は5.1%へと7カ月ぶりに上昇した。ハリケーン被災のルイジアナ州の失業率では8月の1.3%から10%、ミシシッピ州でも8月の1.4%から5.1%に急上昇している。

◎9月失業率は5.1%=8月は4.9%
◎9月サービス産業就業者、前月比−3万6000人
 うち、小売業就業者は同−8万8000人
 専門・ビジネスサービス業は同+5万2000人
 健康関連サービス業は同+4万9000人
 レジャー・接待業は同−8万人
 政府部門就業者数は同+3万1000人
◎9月建設業就業者数、同+2万3000人
◎9月製造業就業者数、同−2万7000人
うち、自動車産業就業者数、同+5200人
◎9月平均時給、16.18ドル=8月は16.15ドル
◎9月週平均賃金、545.27ドル=8月は544.26ドル
◎9月週平均労働時間、前月と変わらずの33.7時間
 うち、製造業の週平均労働時間は前月と変わらずの40.5時間
◎9月週平均労働時間指数、102.8=8月は103.0 (2002年=100)
◎7月就業者数、前月比+27万7000人に上方改定=前回発表時は+24万2000人
◎8月就業者数、前月比+21万1000人に上方改定=前回発表時は+16万9000人 【了】

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