【福田正博 フォーメーション進化論】

 日本代表は来年1月のアジアカップに向けた年内最後の親善試合で、ホンジュラスに6対0、オーストラリアに2対0で連勝した。アギーレ体制が始動した最初の4試合は、初招集の若手選手のテストを積極的にしていたのに対し、この2試合はアジアカップを見据えてベテランも呼び、現時点でのベストメンバーで臨んだのだから、妥当な結果であり、驚きはあまりなかった。

 アギーレ監督が就任してからの6試合を振り返ると、新戦力発掘の意味合いが強い若手が起用されたケースと、勝利を求めてベストメンバーで臨んだ試合のどちらかで、選手起用が極端な部分がある。

 ただ、代表チーム内に競争原理を働かせるには、主軸が揃っている試合で若手や新戦力を起用すべきで、遠藤保仁や長谷部誠など、ブラジルW杯組が出場した試合でこそ、中盤のポジションで柴崎岳ら若手のテストもしてもらいたかったところだ。

 よく言われる意見のひとつに、4年後に向けて若手を中心に起用し、経験を積ませて育てながら世代交代を推し進める方がいいという考え方があるが、日本代表は「育成の場」ではない。実績を積み上げた選手たちの集合体である日本代表を、常に勝利が求められるステージであると考えれば、年齢に関係なく一番いいパフォーマンスをしている選手が選ばれるべきだ。

 しかも、代表として活動できる時間は4年間で300日程度しかないのだから、育成は非常に難しい。育成は、世代別のユース代表や、各クラブが担うべきものと私は考えている。

 そうした点をふまえて、現時点でのベストメンバーと、育成年代で実績を積んできた若手を競わせ、そこで競争に勝った選手たちが生き残る。たとえば、遠藤や長谷部ら実績のあるベテランと交代した若手が、同じ試合の中で"違い"を発揮してアピールする。そうでなければ、真の意味での競争原理も世代交代も進まない。目の前の試合に常に全力でぶつかり、ベストメンバーに残った選手こそが、4年後のW杯メンバーにつながるのだと私は思っている。

 11月の親善試合を振り返ると、やはりベストメンバーの日本代表は、アジアの中では力があると実感することができた。チームとして見事に機能していた。ただし、これはアギーレ監督の手腕だけではなく、ザッケローニ前監督のもとで4年間作り上げたものを発揮した部分も大きい。試合中「4-3-3」から「4-2-3-1」へのスムーズなシステム変更がハマったことも、それを証明している。

 11月の2試合に限れば、アギーレ監督が就任時に掲げた「4-3-3」も、「縦に速いサッカー」もあまり見られず、アギーレ色は薄かったと言わざるをえない。

 ただ、これはネガティブなことではない。メンバーとシステムを、ザックジャパン時代に戻したとなると、時代に逆行しているような印象を受ける人もいるかもしれないが、そうではない。これまで築いてきたサッカーが日本代表に浸透していて、戦い方の選択肢のひとつになっているということであり、積み上げと継続性があるということは強みだ。

 また、11月の2試合でアギーレ監督にとって最優先すべきものがシステムやスタイルではなく、何よりも勝利だということもわかった。これは、理想のスタイルを追い求めて、結果を手にできなかったザッケローニ前監督とは違う点だろう。

 もうひとつ、アギーレ監督とザッケローニ監督の違いを挙げれば、本田圭祐を中央ではなく右サイドに置いていることだ。これによって、4−2−3−1のときに香川真司がトップ下、岡崎慎二が1トップと、それぞれが所属するクラブでのポジションとほぼ同じ位置でプレーできるようになり、攻撃はザックジャパン時代よりもスムーズになっている印象だ。

 プレッシャーが高くチャンスを作るのが難しいピッチ中央から、右サイドに本田が移ったことで攻撃のバリエーションが増え、本田からチャンスが生まれるシーンが多くなっている。

 また、本田が右サイドでボールをキープすることで相手守備陣が本田のいるサイドに集まり、その結果逆サイドの守備が薄くなるため、ピッチをより幅広く使えるようになった。さらに、相手に押し込まれたときの苦しい局面を打開するために、本田のキープ力を生かしてサイドから立て直すこともできている。

 さらに、武藤嘉紀や乾貴士、原口元気や齋藤学ら、若いアタッカーたちが、左サイドのポジションを狙って、高いレベルで競争するようになった。

 このように、本田を右サイドで起用することでもたらされたプラス面は大きく、それがザックジャパン時代との違いであり、アギーレジャパンの戦術のポイントといえる。

 ただ、このアイデアはアギーレ監督から発信されたものではなく、所属するミランで本田が4−3−3の右サイドでプレーしていなければ、実現していなかった可能性が高い。そういった意味では、アギーレ監督は勝負師としての運を持っているのかもしれない。 

 一方で、18日のオーストラリア戦を見る限り、アンカーを置く4-3-3が機能するには、もう少し時間がかかりそうだ。また、このシステムは日本代表には向かないとアギーレ監督が判断して、最終的に採用しない可能性もある。なぜなら、アンカーをつとめる選手には、豊富な運動量と高い守備力、パスの展開力など、多くのことが高い水準で求められるが、日本にはそれらがすべて揃った選手はそう多くはいないからだ。

 来年1月のアジアカップでも、オーストラリア戦のように4-3-3が機能しない可能性はある。ただ、勝つことへのこだわりが強いアギーレ監督ならば、4−3−3にこだわらず、対戦相手や戦況に応じてシステムを使いわけるだろう。どういった采配で日本代表をアジアカップ連覇に導くのか、興味深く見守りたい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro