ハビエル・アギーレ監督

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日本代表のハビエル・アギーレ新監督が来日した。記者会見では「たくさん走り、いいプレーをし、勝利を収めることが哲学だ」と語り、「システムは4-3-3」を基本に考えているとチーム作りの一端にも触れた。

アギーレ自身が「シンプル」と話したように、監督としての哲学はごく一般的なものだ。監督が代われば選ばれる選手は変わり、それによってシステムも変わる。これまでの4-2-3-1から4-3-3へ基本布陣が変わっても、何ら驚きではないだろう。

チームの立ち上げ段階では、変化があって当然である。日韓W杯の3-5-2を受けて、ジーコは4-4-2からスタートした。最終的に4-4-2と3-5-2を併用したジーコのチームを、オシムは4-3-3とも4-1-3-2とも言えるシステムに修正して再起動させた。初陣となったトリニダード・トバコ戦では、闘莉王や鈴木啓太ら5人の選手をスタメンで代表デビューさせている。国際Aマッチ出場が2ケタをこえるのは、川口と三都主だけだった。

アギーレがどんな選手を選び、どんなシステムを使いこなしていくのか、9月5日のウルグアイ戦からじっくり検証していきたい。

所信表明とも言える就任会見では、ふたつのフレーズが印象深い。

ひとつは「すべての選手に対してドアは開いている」というものだ。新監督なら当たり前の発言でも、所信表明に含める意味は小さくない。

過去の実績、年齢、プレースタイルなどを問わずに、「自分にも選ばれる可能性がある」と感じさせるのは、代表監督の大切な仕事のひとつだ。その言葉どおりに予想外の抜擢や復帰があれば、代表入りのモチベーションは日本人選手の心に広く深く根を張っていく。

「実際に選手を見ることが重要」とも話すように、アギーレが可能な限り多くの会場へ足を運び、可能な限り多くのチームをチェックすることは、Jリーグの活性化にもつながる。代表監督から視線を送られて、頑張らない選手はいないからだ。

ジーコやザックは比較的決まった会場で視察するタイプだったが、アギーレには神出鬼没に飛び回ってほしい。在京以外のチームはアウェイゲームが視察対象になりがちだが、選手は「ホームゲームを観てほしい」と願うものだ。少なくともJ1の18チームのホームには、早いうちに足を運んでもらいたいものだ。

ふたつ目は「competitivo」である。スペイン語で「競争力のある」という意味の形容詞を、アギーレは記者会見で何度か使った。

彼が言う競争力には、ふたつの意味があるだろう。ひとつは代表入りや先発を巡る激しい競争であり、もうひとつは対戦相手との競争に勝つことだ。

選手の顔ぶれや所属クラブの比較から、日本では「史上最強のチーム」と言った表現がしばしば使われる。だが、W杯を含めた国際大会は、歴代の代表チームと戦うわけではない。ピッチ上で対峙する相手に勝たなければ、何ひとつ得ることはできない。

そこで重要なのが競争力だ。具体的には「競り合いの強さ」であり、「勝負強さ」であり、粘り強さ」と言うこともできる。

ブラジルW杯の日本代表は、チームとしても個人としても競争力を欠いた。チームは試合の流れに抗えず、個人は球際の激しさを欠いた。それらにしても、競争力の欠如の一部分でしかない。「competitivo」という単語に、アギーレは「チームと個人をたくましくしていく」という決意を込めている、と思うのである。

選手だけではない。チームを見つめるメディアやサポーターも、「competitivo」でなければならない。アギーレの所信表明は、「親善試合の結果やクラブでの活躍を過大評価し、現実を見誤るな」という我々へのメッセージでもある。