定位置争いで苦戦を強いられている香川と本田。自分に合ったクラブに移籍するという選択があってもいい。(C) SOCCER DIGEST

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※週刊サッカーダイジェスト8.19号(8月5日発売号)より
 
【写真】香川真司・長友佑都・本田圭佑 in U.S.A. ――2014 インターナショナル・チャンピオンズカップでの奮闘 etc.
 
 ヨーロッパの各国リーグが今月中旬から下旬にかけて続々と開幕する。それに備え、各チームはキャンプやプレシーズンマッチに取り組んでいる。本田が所属するミラン、香川のマンチェスター・ユナイテッド、長友のインテルは、いずれもアメリカで行なわれているインターナショナル・チャンピオンズカップに出場している。
 
 ここ数年の実績があり、時にキャプテンマークまで巻く長友は、チーム内での地位が確立されている。指揮官へのアピールに躍起になる必要がなく、地に足をつけた調整ができるだろうね。
 
 一方、本田と香川の置かれた立場は、そうじゃない。彼らはクラブの期待に応えられないまま昨シーズンを終え、ポジションが約束されているわけでも、チーム内での地位が確立されているわけでもない。
 
 ミランもマンチェスター・Uも新監督を迎えたけど、ポジション争いは横一線、ゼロからのスタートなんてことはなく、昨シーズンに不振を極めたふたりには、懸命のアピールが求められる。もっと言えば、戦力として見なされるか、構想外になるかの瀬戸際に立たされていると言える。
 
 プレシーズンだけで巻き返すのは、簡単なことじゃない。ふたりがレギュラーとして開幕を迎える可能性は、決して高くない。でも、欧州の移籍は、ご存知のように、市場が閉まる当日まで活発だ。そして、誰もが自分を評価してくれるクラブ――年俸の高さにせよ、出場機会の多さにせよ――に移籍していく。
 
 それはプロとして当然のことで、それによって玉突き人事のような移籍が起きるのも日常茶飯事だ。本田も香川も今のクラブでアピールを続けたほうがいいのか、移籍したほうがいいのか、早いうちに答を出さなければならない。
 
 日本では、出場機会を求めて移籍することを「逃げる」と捉えがちだし、強豪クラブから下位クラブに移籍することを「都落ち」なんて表現もする。けれど、サッカー選手の選手寿命は長くないし、選手が活躍できるかどうかは監督や戦術との相性にもよる。あるクラブで出番のなかった選手が、別のクラブで輝いたなんて例はごまんとあるんだ。
 
 香川に関してはこれまで、ドルトムントへの復帰やアトレティコ・マドリーへの移籍の可能性が報じられてきたけど、プロたるもの、必要としてくれるチームがあるうちが花。逆に、もし移籍できる機会があったのだとしたら、昨シーズンにあれほど出場機会がなかったのに、なぜ動かなかったのか不思議だよ。スポンサーや放映権、契約上の問題で移籍できなかったんだとしたら、不幸でしかないよね。
 これまで日本のマスコミは、ふたりをスーパースターのように報じてきたけど、昨シーズンの出来やブラジル・ワールドカップの結果、このプレシーズンでのクラブにおける立ち位置を見れば、いかに現実をねじ曲げた報道だったかが分かる。
 
 こうした「スターシステム」報道を続けているから、「造り物のスター」ばかりで真のスターが育たず、サッカー文化も根付かないんだ。
 
 本田に関して僕が思うのは、大会後に帰国しなかったにもかかわらず、なぜ、メディアは批判しないのかということ。あれだけ盛大に送り出され、応援されたのに、結果を出せなかったら、チームとは別行動で、日本に帰って来もしない。
 
 彼がやったのは、サッカー選手以前に、人として最低なことだ。ブラジルだったら「口先野郎」とか「逃げ足の早いやつ」とかニックネームを付けられ、メディアのみならず、国民からも徹底的に叩かれるよ。
 
 ブラジルでは負傷欠場するまでセレソンを牽引していたネイマールでさえ、「バルセロナに移籍してから、練習不足なのか、レベルアップしていない」と批判されているほど。日本でカズが真のスターになったのも、ブラジルで徹底的に叩かれ、結果を出すことでそれを封じ、逆に讃えられるようになり、強靭な精神力と本当の実力を身につけたからだよね。
 
 じゃあ、なぜ、日本のメディアは本田を叩かないのか。それは、本田でもう少し稼げると思っているからだろう。本田サイドにへそを曲げられると困るんだ。
 
 このプレシーズンの報道のあり方にしても疑問だ。本田や香川の様子は連日聞こえてくるけど、岡崎については、ほとんど報じられていない。彼こそが昨シーズン、ヨーロッパでプレーする日本人選手の中で最も活躍した選手なのに。
 
 こんな不公平で偏った報道を許していてはいけない。でも、惨敗しても「感動をありがとう」と言って成田空港に迎えにくる人が1000人もいるから、メディアもそれに合わせた報道をしているとも言える。これではいつまで経っても、日本にスポーツが文化として根付かない。
 J1リーグはいよいよ後半戦に入った。レッズが7試合連続無失点を記録し、いよいよ「強いレッズ」の復活かと思っていたら、2試合続けて引き分けて、首位の座をサガンに明け渡してしまった。
 
 フロンターレが4連勝を飾り、逞しくなってきたかなと思ったら、レイソルに1-4の大敗を喫してしまった。サガンの健闘には拍手を送りたいけど、全体を見渡せば、ワールドカップが終わって待ちに待ったJ1の再開なのに、ワクワクするような材料があまり見当たらない。
 
今回のワールドカップがきっかけで、Jリーグに足を運んだ人もいるだろう。けれど、今のJリーグに彼らの足を何度もスタジアムに運ばせるだけの魅力があるだろうか。
 
 もちろん、サポーターの応援やスタジアムの雰囲気に、最初のうちは魅了され、興奮もするだろう。サポーターの熱は、Jリーグが誇れるもののひとつだからね。でも、肝心のピッチの中はどうかな。2回目、3回目と足を運ぶうちに、彼らもあまりレベルが高くないということに気づくんじゃないかな。
 
 考えてみれば、それも当然だ。代表クラスの選手たちが次々とヨーロッパに旅立ち、この夏も柿谷、原口、田中が移籍していった。でも、その代わりとなる若手の台頭はない。南野にしても今シーズンはまだノーゴール。また、ビッグネームの獲得もなし。フォルランも不調で、セレッソは残留争いに巻き込まれている。
 
 先月にはJ1のレベル低下を証明するように、天皇杯の2回戦でヴィッセルが関西学院大、アントラーズがソニー仙台、ベガルタが奈良クラブに敗れている。今のJ1が実力伯仲の大混戦で面白いリーグというのはまやかしで、どこも勝負弱く、決め手を欠いている。
 
 こんな状況では、日本代表の新監督を唸らせることはできないだろう。逆にアギーレには歯に衣着せぬ鋭いコメントで、J1のレベルや問題点を指摘してもらいたいぐらいだ。