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米アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod」についている、「クリックホイール」と呼ばれるスイッチ。東京地裁は9月26日、このスイッチが都内の技術者男性が持つ特許権を侵害しているとして、アップル日本法人に対して、約3億3000万円の損害賠償金を支払うよう命じる判決を下した。アップルはすぐに控訴し、男性も賠償額を不服として10月9日に控訴した。

ところで、この判決には、判決確定前でも強制執行ができる「仮執行宣言」が付けられていた。「仮執行宣言」とは具体的にはどんな内容で、どんな場合に使われるのだろうか。小松雅彦弁護士に聞いた。

●判決が確定する前に「強制執行」できる

「仮執行宣言とは、金銭的価値がある物や権利を対象とする『未確定の判決』に、強制執行ができる『執行力』を持たせる宣言のことです」

つまり、判決がまだ確定していないのに、「仮に」強制執行できるようにする宣言というわけだ。ちなみに「強制執行」とは、相手が借金を払わない場合などに、裁判所が差し押さえなどによって、強制的に支払わせることだ。

本来は判決が確定して初めて、強制執行ができるようになる。したがって、「仮執行宣言が付かない判決は、確定するまで執行力がない」ということだ。

では、「仮執行宣言」制度の目的とは、どんなものなのだろうか。

「制度の目的は、支払いの引き延ばしなど、不当な目的による上訴(控訴や上告など上級裁判所に訴えること)を防止することです。また、勝訴した人の権利を早く実現できるようにする一方で、敗訴した人が上訴する権利も確保し、両者のバランスをとるため、などと説明されています」

●「仮執行」をした後に判決が変更される場合もある

仮執行宣言をつけるかどうかの判断は、誰がどのように行うのだろうか。

「仮執行宣言を付けるかどうかは、裁判所が自らの裁量で判断します。その際には、すぐに権利を実現すべき必要性がどれだけ高いか、上訴で判決が取消される可能性はどれだけあるか、判決が覆った場合に損害が回復できるか……などが考慮されます。

なお、金銭の支払いを命じる判決には、ほとんど仮執行宣言がつきますが、家屋明渡し等の判決には仮執行宣言が付かないことも多いです。

また、離婚の財産分与を命じる判決や、登記を命じる判決には、仮執行宣言は付けません」

それではもし、仮執行の後に控訴審や上告審で判決内容が変更された場合は?

「その場合は、仮執行宣言付き判決によって行われた執行行為で得られたものを、変更の限度で相手方に返還しなければなりません」

つまり、判決の内容が変更された場合は、もらいすぎになったお金や物は返さなければならない、ということだ。仮執行で一息つけたとしても、本当に安心するためには、やはり確定判決を待たなければならないようだ。

(弁護士ドットコム トピックス)

【取材協力弁護士】
小松 雅彦(こまつ・まさひこ)弁護士
後見・相続・遺言を多数取り扱う。「気軽に相談できる、親しみやすい法律家」をモットーに身の回りの相談にも対応している。薬害エイズ事件やハンセン病国賠事件、薬害肝炎事件なども担当した。
事務所名:オアシス法律事務所