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かねてより話題の“二刀流”ルーキー大谷翔平が初めて一つの試合で“二刀流”に挑んだ。
21日、東京ドームで行われたファイターズ対ゴールデンイーグルス戦で予告通り栗山英樹監督はまず八回表に登板させて1イニングを投げさせ、その裏に打席に入り、九回表にはライトの守備に付かせた。

ドラフト指名後の入団交渉過程で二刀流に挑戦との話が出てから、具体的にどうやるのかと想像を巡らしていたが、今日同一試合での二刀流がとりあえず実現した。


(写真:投手として登板した直後の八回裏に打席に向かう大谷翔平)


今朝の日刊スポーツによると、栗山英樹監督の今日の大谷の“二刀流”は八回表に登板して、八回裏に打席に立たせ、九回表にライトの守備に付かせるというものだった。DH制のルールでは登板中の投手はDHの選手の打席で代打として打席に立つことは出来るが、他の打順に代打で出ることは出来ない。それゆえに大谷を登板したその裏に打席に確実に立たせるには、DHの選手に打順が回るとは限らない場合には大谷登板時にDHを解除し、なおかつ他の野手も引っ込めて大谷を打席が回る打順に入れなければならない。

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大谷登板の直前の七回裏は一番の陽岱鋼で終わった。今日のDHは五番を打つマイカ・ホフパワー。そのままDHを解除して「五番投手大谷」でも九回裏には打席が回るが、栗山監督は三番を打っていた小谷野栄一を退けて投手大谷を三番に入れた。


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投手大谷は先頭打者のマギーを三振に仕留める。ストレートは次打者森山周の初球にマークした
MAX157kmを含めて軽く150km台を連発。さすがと唸らせた。だが二人目の打者、森山に三遊間を破られると、一塁牽制球が大悪送球となったり、二死から捕手の頭の上を越える大暴投で三塁に進まれたりと、荒れ気味だった。何とか力任せに1イニングを無失点に抑えた形だったが、これが開幕から一軍で投げられる力かというと個人的には疑問がわく感じだ。

その裏、2対5と3点を追うファイターズは先頭の杉谷拳士が左中間を破る二塁打で出塁し、大谷の打席(冒頭の写真)。大谷にとってだけでなく、この試合の勝敗という観点からも重要な打席となった。ゴールデンイーグルスは七回から投げている小山伸一郎。
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大谷は初球を狙い打ち、一、二塁間をゴロで抜けるかという当たりだったが途中から一塁に入っている小斉に好捕され、安打にはならなかった。しかし杉谷が三塁に進み、この後、前の打席で本塁打を放ったミケル・アブレイユの三塁ゴロの間にファイターズは1点を返した。

この後大谷は九回表にライトの守備に入った。ライトを守っていた二安打を放った杉谷が退いて二番に投手の増井浩俊が入った。

九回表に大谷の守備機会はなく、増井が無失点に抑えた。九回裏に二死満塁になれば大谷に二度目の打席が回るところだったが、陽岱鋼に二死からタイムリー三塁打が出て1点差に迫ったものの大谷の前の増井の代打二岡智宏が倒れ、ファイターズは4対5で惜敗した。
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今日はあくまで“二刀流”のテストなのだろうが、同一試合で“二刀流”をこなすことはリスクが大きいことが垣間見られた。


まず大谷の登板時にDHを解除するために、DHのホフパワーが退いた。大谷に確実にその裏に打席が回るように三塁手の小谷野が退いてその打順に大谷が入った。そしてライトの守備に付くことでライトを守っていた杉谷が退いた。オープン戦では選手の交代は頻繁だが、公式戦でこういう起用が出来るのだろうか?小谷野の交代は打席を回すための措置だから省けるにしても、投手交代以外に二人の選手を退かせなければならないのは無駄が多いと思う。

なお今日は試合前のシートノックでは大谷の姿は無かった。投手としてブルペンで準備していたのではないか。


パ・リーグではDH制を採用しているため、試合中に投手が野手になるのは選手起用法としては容易なものでは無い。タイガース時代には遠山奬志と葛西稔を相手打者に応じて投手として投げさせたり一塁守備に付かせたりする継投を特異にしていた野村克也監督ですら、ゴールデンイーグルスでこの戦法をとろうとして失敗したほどである。

もっとわかりやすい二刀流は、大谷が先発ローテーションで投げて、登板と登板の間に野手として出るというパターンが考えられる。実際敗戦処理。もそれをイメージしていた。これまではイースタン教育リーグと一軍オープン戦で、今日はDHの日、今日は登板日、今日はライトを守って打つ日と分けていたが、今日は試合中での“二刀流”を敢行した。

仮に先発ローテーションで投げてその間に野手として出場するにしろ、別に先発ローテーション投手は登板日と登板日の間をリラックスして過ごしているわけではない。登板間隔や個々人の調整法の相違などあろうが、だいたいルーチンワークが決まっているそうだ。その間に野手としてノックを受けたり、打撃練習をしてもちろん試合でも野手として出場する。これが簡単に、いや難しくてもできるのだろうか?

ましてや登板後に外野の守備に付くというのは先に述べたように他の野手の入れ替えなども含めるとメリットよりデメリットの方が大きいのではないかとする思える。例えば今日は守備練習を受けていない。大谷は外野手としての練習が質量共にまだ充分ではないと思う。本当ならこの時期、試合に帯同せずに特守デー、投げ込みデー、特打デーなどと練習に邁進した方が良いと思う。

今日の試合後、栗山英樹監督は故障の回復が思わしくない金子誠の鎌ヶ谷残留と、大塚豊、飯山裕志、根本朋久、谷口雄也をオープン戦最後の札幌二連戦に帯同させないことを決めたそうだ。大谷は帯同する。まだ最終的な一軍絞り込みではないそうだが、ここまで健闘していた外野手の谷口の二軍落ちは大谷のための枠と邪推できるがどうなるか…?

試合を振り返ろう。

ファイターズでは侍ジャパンのメンバーとして戦っていた稲葉篤紀中田翔がチームに合流したそうだが、姿が見られず。試合前に場内アナウンスで両選手とライオンズの田中将大、松井稼頭央両選手、さらには日本以外の代表選手に選ばれた陽岱鋼、ダスティン・モルケン、アンドリュー・ジョーンズの三選手の健闘を讃える拍手を促された。
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だがこの試合に出場したのは第2ラウンドで敗退して既に復帰している陽岱鋼の他には松井だけであった。


ファイターズの先発は既に開幕投手と公言されている武田勝
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16日にイースタン・リーグ開幕戦に登板して2失点。というより2イニングで降板したので何かあったのかと危惧したが、この日の最終登板のための調整だったようだ。

武田勝らしい、コーナーを丹念に付く投球で五回まではゴールデンイーグルス打線を翻弄していたが、六回表、松井に代わり途中出場の西田哲朗にレフトスタンドに3ランを運ばれた。
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その後銀次ケーシー・マギーの二塁打でさらに1点を追加されてこの回だけで4失点。6イニングで4失点という内容だった。
誤解を恐れずにいいえば、武田勝にとって最初で最後の“開幕投手”かもしれない。3月29日の西武ドームで武田勝らしい投球を見せて欲しいものだが…。

一方のゴールデンイーグルスの先発は調整遅れが不安視されていた美馬学
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武田勝を上回る好投で5イニングを杉谷の安打1本に抑え無失点で投げきった。

オープン戦では投手を代えた途端に試合が動き出すケースが良くあるが、この日もゴールデンイーグルスが好投の美馬を降ろすと試合が動き出した。

六回裏にマウンドに上がった高堀和也はアブレイユに高めの投球を力でセンター右のスタンドまで運ばれる。
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これで2対4とファイターズはようやく反撃。だがゴールデンイーグルスも七回表に根本朋久、大塚豊の継投の間を縫って牧田和久のタイムリーで1点を加える。

根本は左打者三人と対戦して、聖沢諒に二塁打を打たれて二死二塁で右の西田、牧田と続くところで降板。「ファイターズのピッチャー、根本に代わりまして大」と、一瞬大谷投入を思わせたが“大谷”ではなく“大塚”だった。早とちりしたスタンドから失笑が漏れた。

そして2対5で迎えた八回に大谷がマウンドに上がり、先頭のマギーを三振、森山に三遊間を破られ、牽制が悪送球になって二塁へ。今日の大谷は最速が157kmだったが、ひょっとしたらこの牽制悪送球が最速だったのではないか<>?一塁コーチの米村理が慌てて避けていた。

大谷は嶋基宏も三振。鉄平の打席で大暴投で森山に三塁まで進まれるが、鉄平を捕邪飛に打ち取って何とか1イニングを無失点に抑えた。

セットポジションになっても球速が落ちない当たりに素質を感じたが、今日見ただけの印象ではスピードガンコンテストといったら言い過ぎかもしれないが、打者を見て抑えているという感じでは無かった。勢いに任せたというか…。

そしてその裏にはいい当たりの一塁ゴロ。九回表の右翼守備では守備機会はなかった。


21日・東京ドーム】
モ 000 004 100 =5
F 000 002 011 =4
モ)○美馬、高堀、ハウザー、小山伸、S青山−嶋
F)●武田勝、根本、大塚、大谷、増井−鶴岡、大野
本塁打)西田1号3ラン(武田勝・6回)、アブレイユ3号2ラン(高堀・6回)


大谷が投手としても打者としても高い資質の持ち主であることは素人目ながらわかる。あとはどこまで“二刀流”にこだわるかだ。栗山監督直々の入団交渉で大谷の心を開いたという“二刀流”の誘い文句がひょっとしたら大谷の活躍の足枷になるかもしれない。どうしても“二刀流”にこだわるのならば、“張本勲以来の高校卒ルーキー野手開幕一軍入り”になろうとそんなことはお構いなくファームで鍛えた方が良いと思う。

昨年12月に開かれたある野球のイベントで、カープでスカウト歴三十年超の苑田聡彦スカウト部長が「打者で日本で続ければ3,000本安打打てる素材」と高評価していると聞いて、打者として期待していた。だが、鉄平の談話のように「投手としてはダルビッシュ並み、打者としては糸井さん」と言われると、どちらか一方を犠牲にするのはもったいない気がする。

「本気で考えている」と試合後にあらためて栗山監督は語った。だが、DH制というルールの壁、練習の質と量という物理的な問題。現実味は乏しいと考えざるを得ない。少なくとも他の選手との兼ね合いを考えると、慌てて開幕一軍入りをさせることはないと思う。

一流の“二刀流”にするためには単純に考えても倍の時間が必要だ。大谷の将来のポスティング移籍を容認するのであれば、ファイターズとして元を取るのに直案が少ないという見方もあるが、ここはまずはじっくり鍛える方が“二刀流”をやるにしてもどちらか一本に絞るにしても得策のように思えるが…