各家庭の1カ月の情報経費

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電通総研が昨年12月に発表した「話題・注目商品2012」で3年連続スマートフォンが1位に、フェイスブックなど実名登録制SNSが前年の27位から3位に急上昇した。今、多くの人がスマホで動画を観たり音楽を聴いたりゲームを楽しむ。携帯メールではなくSNSでつながった友だちと、チャット感覚でメッセージをやりとりする。そこに共通するのは、自分の趣味や友だちとのコミュニケーションに時間を割いている姿だ。

一方でテレビ受像機や音楽プレーヤー、デジカメ、ゲーム専用機が売れなくなった。スマホ(タブレット)1台ですべて事足りるからだ。これは今後、スマホを通して消費される時間の奪い合いが起きることを意味する。今まではゲームも音楽もテレビも、そして新聞や書籍・雑誌も各々棲み分けてきた。しかしこれからは違う。例えば往復2時間の通勤時間のうち、スマホを手にする人たちが何に時間を割くか、それが各々の売り上げに直結することになる。

博報堂のメディア環境研究所が、昨年6月発表の「メディア定点調査」で、年代別、地域別のメディア接触時間を調べた結果、10代・20代男性と10代女性(東京地区)で「ネットメディア接触時間が4マスを超えた」という。

ネットメディアとはPCやスマホからのネット接続、4マスとは新聞・雑誌・テレビ・ラジオを指す。ネットの先につなぐコンテンツがTV番組や電子書籍であっても、ネットメディアに算入している。これは突き詰めると、ネット上のコンテンツとして受け取るか、従来の形で受け取るかの違いにすぎないが、東京に住む若年層の多くは、ネットにつないで受け取っている率が上回っている。この傾向はすぐに全国へと広まるだろう。

するとこの年代に向けては、媒体企画であっても広告宣伝・PRであっても、ネットのほうが有効ということになる。LINE(チャット主体のSNS)で展開される中小事業者向けプロモーションサービスなどは、広告を出す企業にとって魅力的なはずだ。広告収入が売り上げの多くを占める4マス業界は、こうした流れを受け止めてメディア戦略を抜本的に見直すことが必要だ。

■旧メディアにかける経費は10年で約3割減

化学メーカーのクラレが10年に「現代家庭の情報生活」と題して行った調査では、00年と10年の家庭における1カ月あたりの情報経費の変化について興味深い結果が出ている(図参照)。00年の2万9689円が、10年にはデフレ不況もあってか2万1250円と8439円も減少。内訳はご覧の通り新聞が半減、書籍・雑誌は5分の2に。放送受信は3割減。合計で約3割減った。一方で携帯電話は2割増、インターネットは3割増。微増にとどまっているのは、料金競争の激しさが主因と考えられる。

特に興味深いのは20代で、新聞購入代は3980円から925円と4分の1以下に、書籍・雑誌購入代は3543円から1076円と3分の1に激減。40代も減少傾向が顕著で、新聞代が4631円から2669円、書籍・雑誌代が3474円から1517円と半減した。

先の調査結果と合わせてみると、若者の4マス離れが顕著であり、中年世代でもほぼ半減している事実から、ネット回線料やスマホ代が4マスにかける費用に取って代わりつつあることがよくわかる。

これまで4マスは、情報や知識に接したいという人の欲求に応えてきた。しかし、それらを検索し、無料で接することが可能なネットの台頭によって、視聴する優先順位が変わってくるのは当然だ。

昨年12月、輸入住宅販売のセルコホーム(仙台市)が2000人を対象に行った「住まい方に関する意識調査」で、「メディアが住まい方、価値観にどう影響しているか」という問いへの回答が面白い。

「人生の価値観に影響を与える」メディアとして、ネットメディア(ソーシャルメディア除く)が64.8%とテレビの77.8%に次ぐ2位。新聞の60.9%をわずかに上回り、44.8%のソーシャルメディアは雑誌(47.9%、4位)に迫る5位。とりわけ20代は新聞が45.6%とさらに低く、50代の73.6%と大きな開きが出ている。

今の20代が10年後に4マスを有り難がるようになるとは思えない。ポータル経由で読む無料のニュースについて、配信元がどこかを気にする読者はそうはいまい。4マスがネットに取り込まれていく流れは、さらに加速しそうだ。

(ソーシャルメディアリスク研究所 田淵義朗 図版作成=ライヴ・アート)