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ここ数日、軍事オタクたちの間でもっぱらの話題となっているのが、イスラエルの対砲・対迫防衛システム『アイアンドーム』だ。

イスラエルとパレスチナ・ガザ地区の間で続く紛争では、ガザ地区からイスラエル領内に向けて断続的にロケット弾が撃ち込まれている。このロケット弾を9割もの高確率で撃墜することに成功しているのが、イスラエルのラファエル社が開発した『アイアンドーム』だ。日本語に訳すと「鋼鉄の天蓋」とでもなろうか。厨二っぽい響きも軍事オタクの興味をひきつけてやまない。

イスラエル軍が14日に発表した情報によると、今回の交戦が始まって以来、ガザ地区から発射されたロケット弾の数は737発。このうち492発がイスラエル領内に落下し、245発は『アイアンドーム』が撃墜。迎撃成功率は90%に達したと主張している。『アイアンドーム』が270発あまりのミサイルを発射し、うち245発が命中したという意味と捉えてよかろう。飛んでくる砲弾を撃ち落とすという、まるでSFのような防衛システムが、実戦で9割もの高確度で機能することを実証した。まさに驚くべき数字である。

●イスラエルの先進防空システム
『アイアンドーム』は、近年、各国が特に力を入れているカウンターRAMと呼ばれる近接防空兵器の一種。迎撃用弾頭には小型ミサイル、大口径の弾道修正弾、高出力レーザーなどさまざまな方式が研究されているが、『アイアンドーム』の場合は全長3mほどの短距離地対空ミサイルを使用する。対砲・対迫レーダーとミサイル発射ユニット、そしてレーダーからの情報を分析してミサイルを発射・誘導する射撃管制ユニットで構成され、レーダーがロケット弾の影を捉えると射撃管制ユニットが即座に発射地点と着弾予想地点を割り出し、住宅密集地に落下するものだけを自動的に判定してミサイルによる迎撃が行われる。また、発射地点情報は空軍にも送られ、すぐさま航空機による反撃が行われる。

榴弾砲・迫撃砲などによる攻撃からの防御と敵砲台陣地への反撃を目的とした対砲・対迫レーダー自体は1960年代後半のベトナム戦争当時から実戦投入されているもので、実はそれほど目新しいものではない。しかし、その“枯れた技術”と誘導ミサイルを組み合わせた『アイアンドーム』は素晴らしく先進的な兵器だと評価できる。

イスラエルのミサイル関連技術はアメリカをもしのぐと言われるほど優れており、これまでもスパイク対戦車ミサイルやパイソン空対空ミサイルなど、世代を塗り替える高性能なミサイルを数多く開発してきた。身近なところでは、最近のサッカーの試合で、ボール支配率や選手が走った距離などを事細かに記録している高度な技術も、イスラエルの軍事企業が開発したミサイル追跡用の画像解析技術が元になっている。今回の『アイアンドーム』の活躍は、イスラエルのミサイル関連技術の高さを改めて証明したと言える。そして何よりも、実戦証明(コンバットプルーフ)したことが大きなアドバンテージだ。

●日本のミサイル防衛システムとの違い
ところで、防空システムといえば、我が日本が進めているミサイル防衛システム計画の進捗も気になるところ。イージス艦搭載型のSM3と地上配備型のパトリオットPAC3がこれまで数回の迎撃実験には成功しているものの、実戦でもうまくいくかどうかはまったくの未知数(日本の場合は法整備の問題のほうが大きい気も……)。ならば「もう『アイアンドーム』を買っちゃえよ」と言いたくなるところだが、『アイアンドーム』と日本のミサイル防衛システムは役割がまったく異なる。

『アイアンドーム』の迎撃対象は、誘導装置を持たず素直な放物線を描いて落下してくるロケット弾や榴弾砲の弾頭。これらは視力の良い人ならば目で追えるほどの速度しかない。それに対して日本のミサイル防衛では、最高で音速の20倍にもなる超高速で大気圏外から落下してくる弾道ミサイル弾頭の迎撃を想定しており、迎撃難度が段違いに高いのだ。一世代前の技術になるが、湾岸戦争でイラク軍が放った改良型スカッドミサイルに対するパトリオットPAC2の迎撃成功率はわずか9%しかなかったことからも、その難しさがわかるだろう。もっとも、一番難しいのは、こんなミサイルが活躍することがないように平和な状態を保ち続けることなのだけれど。

画像:アイアンドームのミサイルがロケット弾撃墜に成功した瞬間(YouTubeより)

『Iron Dome System Ashdod Israel』(YouTube)
http://youtu.be/38pzx2SGORI