発表以来、賛否両論となっている大阪維新の会の「維新八策」。首相公選制や参院廃止など憲法改正を必要とする項目ばかりに注目が集まっているが、実は国会による法律改正だけで済む項目を見ると、若者世代にとって歓迎すべきものが多いことに気づく。

 例えば、「ベーシックインカムの導入」。これは無条件で国民すべてに一定額の現金を給付するという制度で、既存の生活保護に変わるものとして近年検討されている。シンプルな制度のため、社会保険庁など保険料を徴収する組織が不要になり、行政コストも安くなる。そのため、実現すれば今後の世代の負担を減らすことが可能だ。

 そして、「年金の積み立て方式と掛け捨て方式の併用」。維新の会支持を打ち出している、みんなの党の桜内文城参議院議員は、積み立て方式についてこう説明する。

「65歳の人と20歳未満の人の『税金や保険料の負担額』と『年金の受給額』を比べると、1億円近くも差額が生じるんです。この世代間格差を解消するには、年金制度を今の賦課方式(現役世代が払った年金保険料を受給者の支払いに当てる)から、積立方式(自分が積み立てた年金保険料を老後に本人が受給する)に変えるしかない。同時に5歳とか10歳区切りの世代別勘定を設け、その世代の積み立てはその世代に支給するというようにすれば、世代ごとの受益と負担も一致できます」

 このように年金の積み立て方式導入には積極的な桜内氏だが、一方で掛け捨て方式の併用には再考を促す。桜内氏が続ける。

「これは一定以上の収入がある高齢者には年金を支給しないというアイデアですが、長年保険料を払っても年金をもらえないとわかれば、富裕層の多くは民間の年金に流れるはずです。海外に資産を移す人も続出しかねません。そうなれば、日本の国富はどんどん減るばかりです。掛け捨てのデメリットを考えれば、累進税率を上げて富裕層から掛け捨て額とほぼ同じ額の所得税を徴収したほうがリーズナブルでしょう」

 前出のベーシックインカムの導入に関しても、慎重論はある。作家の雨宮処凛氏が語る。

「ベーシックインカムそのものは貧困対策として歓迎です。ただ、競争や自己責任を強調する橋下市長はかねがね、大阪府の生活保護受給率が高すぎると批判してきました。ベーシックインカム導入が、生活保護やほかの社会保障をなくさないか不安です。生活保護受給者の4割は傷病者や障害者で、ベーシックインカムの支給額だけでは暮らせません。制度導入を逆手に取って、『あとは知らない。自分で努力してね。死なない程度に生きてね』と、弱者を放り出すようなことになれば、ベーシックインカム導入の意義は薄れる。それだけにベーシックインカムと引き換えに、どんな社会保障がなくなり、誰にしわ寄せがいくのか、よくよく見極めなければいけません」

 今、20代の若者にとって、「維新八策」には魅力的な政策が含まれているのも事実。だが、同時に失うものは何か、全体像を理解したうえでの議論が必要だ。

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