有田共立病院の井上文夫院長(写真右)と順天堂大学医学部の奥村康特任教授(写真左)はこのほど東京都内でセミナーを行い、1073R−1乳酸菌(通称R−1乳酸菌)を使用したヨーグルトを秋から早春までの約半年に渡って児童約2000人が摂取したところ、インフルエンザ感染が著しく低減したと発表し、その医学的メカニズムを解説した。

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 有田共立病院の井上文夫院長(写真右)と順天堂大学医学部の奥村康特任教授(写真左)はこのほど東京都内でセミナーを行い、1073R−1乳酸菌(通称R−1乳酸菌)を使用したヨーグルトを秋から早春までの約半年に渡って児童約2000人が摂取したところ、インフルエンザ感染が著しく低減したと発表し、その医学的メカニズムを解説した。

■R−1乳酸菌でインフルエンザ激減、大規模で信頼性高い実験

 井上院長によると、佐賀県有田町の保育園、幼稚園、小中学校に通う児童・生徒を対象に2010年9月7日から11年3月18日まで、R−1乳酸菌を使った飲むヨーグルト112ミリグラム1本を、登園・登校する毎日、飲み続けてもらった。うち、国立感染症研究所提供の学校欠席者追跡システムを利用できる小中学生1904人について10年10月1日から3月18日まで、インフルエンザ(A、B、新型)の感染状況を調べた。

 佐賀県は同システムを全域で採用しているため、有田町に隣接する自治体、さらに佐賀県全体の状況と比較した。井上院長によると、これほど大規模な実験はほとんどなく、学校欠席者追跡システムで感染者数を調べたので、信頼性も極めて高い。有田町と、地域として一体性がある周辺を比較したので、ヨーグルト摂取の効果が出ていることが数字としてあらわれた。

 同期間中に有田町の小学生は、隣接している主要な自治体と比べて、インフルエンザの発生が10分の1以下だった。中学生でも、ほぼ同様に結果が出た。統計的にも偶然とは考えにくい、極めて特徴的な結果だったという。

■アンケートでは「乾燥肌が軽減」の意見も

 これまでに、マウスなどを使った実験でも、腸内細菌を抗生物質で殺すと、自然な状態の場合よりもインフルエンザにかかりやすいとの結論が出ていた。そのため、乳酸菌は獲得免疫成立に大きな影響を持つと推定されていた。

 有田町で、R−1乳酸菌使用のヨーグルトを摂取した児童の保護者にアンケートを実施したところ、「風邪をひきにくくなった」、「ひいても症状が軽かった」などの意見のほかに「乾燥肌の状態がよくなった」と記入した人が多かった。井上院長によると「乾燥肌はアレルギーに関係している場合が多く、免疫を改善することで、症状が軽減された可能性がある」と述べた。

■“鍵”はNK細胞の活性化、がん細胞やウイルス感染細胞を退治

 奥村康特任教授は、乳酸菌とNK(ナチュラルキラー)細胞の関係について説明した。NK細胞にはがん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃して除去する働きがある。たとえばがん細胞の場合、ヒトの体内では毎日5000個が発生しており、NK細胞がただちに処理することで、がんの発生が防げている。NK細胞の機能が低下すると「生き残ったがん細胞が増殖して、病気としてのがんにかかることになる」という。

 NK細胞の機能は60歳を過ぎると低下を続ける。また、強いストレスに遭遇した場合や生活リズムを崩した場合にも急低下する。逆に「大笑い」をした場合には、機能が高まることが分かっている。

 食べ物では、ビタミンCやきのこ類に含まれるベータグルカンの摂取で機能が高まるが、「通常の食生活では考えられないほどの大量摂取が必要」という問題がある。乳酸菌の場合には、普通の食生活の量でNK細胞が活性化する特徴があるという。また、便秘の解消による大腸がんのリスクを低減することも考えられる。

 乳酸菌は腸内でベータグルカンなど多糖類を作る働きがある。腸管は「免疫の宝庫」と呼ばれており、詳しいメカニズムの研究が進められているという。

 有田町の実験で使われたR−1乳酸菌は、ブルガリア菌(ラクトバチルス・ブルガリカス)の1種で、多糖類の生成などで免疫力を向上させる働きが特に強い種類という。(編集担当:鈴木秀明)