原発事故“放射能のだだ漏れ”と向きあうために

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●福島原発は、ほんとうに「だいじょうぶ」なのか?

東京電力福島第1原発の事故については、すでにさまざまなメディアで報じられている。とくに、枝野幸男官房長官による記者会見は、一度ならず見聞きした人は多いのではないか。テレビや新聞の報道にしろ、枝野さんの記者会見での発表にしろ、筆者には疑問に思うことがある。それは、今後の展開に関するシナリオの提示がなさすぎる、という点だ。

政府や東京電力が「だいじょうぶだと、思われる」といって、事態が悪化する。そして、「まだ、だいじょうぶだと、思われる」といって、さらに事態が悪化。原発事故に関する情報の発表がこの“楽観的な見通し”の繰り返しであることは、多くの読者が気づいていることであろう。

そんな状況のなかで、3月25日にネットで放映された『あえて最悪のシナリオとその対処法を考える』(ビデオニュース・ドットコム)を観た。だからといって、筆者には、ここで最悪のシナリオを示すつもりはない。あくまでも、筆者が認識している範囲で、読者が原発事故の「現状」を理解するための情報を記すだけである。まず、同番組でインタビューに答えていた小出裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)の発言を参照しつつ、福島原発の現状を確認してみよう。

●原発事故の現状

はじめに、原発事故がどれだけの規模のものなのか、という尺度になる国際原子力事象評価尺度 (INES)について、小出さんは「レベル6は当たり前です。レベル7といわなければいけない状態だと私は考えています」 という。つまり、すくなくとも福島原発の事故は、レベル7だったチェルノブイリ原発事故に次ぐ、世界第2位の規模だということだ。

つづいて、事故の対処としていま必要なことについては、原子炉の加熱した部分を「冷却すること」だと小出さんはいう。現在、消防用のポンプで海水を送っていることは、多くの読者が報道などで見聞きしていると思う。だが、ほんとうに必要なことは、できるだけ早く電源を復旧し、正常なポンプを使用すること、すなわち正常なかたちで冷却回路を確保することだと小出さんは指摘する。

くわえて、加熱した炉心を冷却するために原子炉へ水を注入すると、その水は必ず放射能を含んだ水蒸気(または水)や熱を発生させる。現状では、その水蒸気や熱は、蒸発させるか漏洩させるしかない。ようは、放射能の“だだ漏れ”である。その影響は、3号機で作業員が被爆した事故で表面化する。“だだ漏れ”のなかで正常な冷却回路を確保することが、いかに困難なことであるのかを、私たちは目の当たりにした。

以上のような情報は、すでに把握している読者もいるだろうし、うすうす勘づいていた読者も多いのではないか。

●放射能の「だだ漏れ」とどう向きあうのか

ここで押さえておくべきなのは、1号機から4号機まで放射能を含む水蒸気や水が「だだ漏れ」している、という点である。そして、その“だだ漏れ”は、原子炉が完全に冷却した(はやくて1か月後といわれている)あともつづく。漏れを防止するためには、外部から完全に閉鎖された仕組みを作らなければならないからだ。その仕組みを作るのには、最低でも数か月以上かかるという。

以上のような放射能の“だだ漏れ”を前提にした場合、私たちにはどんな情報が必要なのか。それは、いつ、どこで、どれくらいの濃度の放射性物質が拡散しているのか、をリアルタイムで把握するということである。放射性物質は、風にのるし、雨に混じったり、海水や地下水に混じったりする。だから、けっして同心円状に拡散するとはかぎらない。すでに多くの専門家が指摘しているが、原発の地点から同心円状に住民を避難させていることが、妥当な対処だとはいえないのである。

政府は、『SPEEDI(スピーディ)』という被曝量を予測するシステムの存在を、原発事故のなんと2週間後にあきらかにした。おそらく、国民のパニックを恐れたがゆえの対応だと思われるが、いまは政府を批判している時間がない。この『スピーディ』を利用するのと同時に、東日本のできるだけ多くの地点に被曝量の観測計を設置し、放射性物質の拡散についての情報を各測定地の住民が得られるようにすべきであろう。

●正確な情報にもとづく行動を!

同番組に出演した社会学者の宮台真司さんは、「政府は複数のシナリオを提示せよ。楽観的なもの、中くらいのもの、悲観的なもの。できれば、発生の確率も。そうすれば、行動の計画をたてられる」という。悲観的な情報を提供すると、人びとがパニックになる、と決めつけている人がいるが、ほんとうにそうなのであろうか。

筆者には、先に述べたような、多くの人が知っている“放射能のだだ漏れ”情報は、悲観的な情報の一種であるように思える。だが、人びとはいま、さほどパニックにはなっていない。同番組で司会を担当した神保哲生さんが、「正しいパニック」という言葉を使っていたのが印象に残る。

つまり、悲観的なものであれ、ある程度の正確な情報を得ることは重要なことである。なぜかといえば、人びとが多少のパニックにおちいったとしても、その情報によって、できるだけ被害を回避できるような方法を探ることができるからだ。神保さんは、そういっていた。なお、得られた情報が“正確”なのかどうか。その判断は、情報を得た側にしてもらうしかない。

最後に繰りかえすが、福島原発の“放射能のだだ漏れ”が今後もしばらく続くのは確実である。よって、東日本で暮らす人びとにとって、いま、もっとも重要な原発関連の情報は、「いま、どこで、どれくらいの濃度の放射性物質が拡散しているのか」であることを確認しておく。政府が早急に、東日本一帯における被曝量の情報を収集・開示することを望むとともに、読者の方々には、いそがず、あせらず、正確な情報にもとづいて行動していただくことをおすすめする。

(谷川 茂)


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