【殺人替え歌】を園児に歌わせてしまった、幼稚園バス運転手の罪に思うこと。
「幼いころの替え歌を思い出した」 先日、愛知県犬山市の名古屋経済大付属市邨幼稚園のスクールバスの男性運転手（５２）が運転中、「ドは毒殺のド」「レは霊柩車のレ」「ミは皆殺しのミ」…「さあみんなで殺しましょう」などと「ドレミの歌」の替え歌を歌っていたことが発覚し、大騒ぎになった。この運転手は、「近くに座っていた園児がドレミの歌を歌っているのを聞き、幼いころの替え歌を思い出した」と釈明、「今後は歌わない」と約束し、園児にも歌わないよう求めたという。なお、この運転手は翌日から業務を外された。
『替え歌』に潜む、残虐性とインモラルな性質。 古今東西、替え歌というのはどこにでもある。それは幼稚園児や小学生が歌うたわいもないものから、嘉門達夫に代表される「芸」としての替え歌までさまざま。そのほとんどは「笑うため」に作られ、歌われる。
だが、時として替え歌は、非常に残虐であったり、卑猥であったり、差別的であったりすることもある。いや、むしろ、そういう発想から生まれるものの方が多いと認識した方がいいとも言える。別な言い方をすれば、替え歌における「笑う」は、「嗤う」という、嘲りや軽薄さを伴う質のものである場合が多いということである。そして替え歌は、それを作る者の精神性が低ければ低いほど、えげつなく、残酷で、モラルに反したものになるのであろう。
しかしそれは同時に、悪気はほとんど無いことが多い。年端もいかない子どもが、ちょっとお下劣な替え歌をわけもわからず歌っている場合など、止めはしても、必要以上に目くじらを立てるのは逆にナンセンスだ。そういうものを真っ向から完全否定し排除することは、むしろ子どもたちが養うべき「自発的・客観的な善悪の判断力」というものを鈍らせてしまうことにつながりかねない。ある程度の容赦も必要だ。
ただし、その替え歌に、特定の「標的」となる人物がいたりして、その人物に向かって歌われたとなれば、当然それは決して許してはいけないのであって、良識ある大人や目上の者は、それを厳しく制止し、「それはコトバによる暴力なんだ」ということを毅然とした態度で指導しなければならない。
「時代が違う」ことに気付けなかった幼稚な精神性 さて今回の騒動であるが、件の運転手の軽率さを責めるしかない、一言で言ってしまえば「実にけしからん」ハナシである。ただ、この運転手が、このような不謹慎で残虐極まりない替え歌を「創作」していたならば極めて言語道断なのだが、「幼いころの替え歌を思い出した」と釈明しているところに、なんとも言えない「気まずさ」が漂ってしまう。
もしかすると、この運転手も幼少期、誰か品のないオトナから、その歌を教わったのかもしれない。いや、５２歳の運転手の幼少期だったら、そんなことは当たり前のようにあったかもしれない。今から４〜５０年前、１９６０年代頃の日本には、そういう猥雑な風情は、まだどこにでも転がっていた。
だからといって、今は時代があまりに違う。この運転手は、そこをまったくわかっていないという点で、精神的な未成熟さを露呈してしまったと言わざるを得ないだろう。
加えて、２１世紀の、悪質で理不尽な犯罪が多発するこの時代においては、絶対に歌ってはいけなかった替え歌を園児たちに歌わせてしまった罪は、決して軽くはない。子供たちは、一度幼心に刷り込まれてしまったこの歌を、いくら「忘れなさい」と言っても、二度と忘れることはないだろう。そして否が応でも、歌い継がれてしまうのだ。誠に遺憾ながら、これはもはやどうすることもできない、インモラルな口承の常である。
【文／NANIO】
【イラスト／フリーイラスト 子供や赤ちゃんのイラストわんパグ】
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