日本代表は僕たちの誇りです!

日本代表のワールドカップが終わりました。29日に行われた決勝トーナメント1回戦・パラグアイ戦。延長を含めて120分間に及ぶ死闘。そしてPK戦。日本代表は最後まで熱く激しく戦いました。そして敗れました。PK戦では全員が決めたパラグアイに対し、日本は1本をクロスバーに当てる無情のミス。ベスト16という素晴らしい結果と、大きなチャンスをつかみ損ねたという悔しさ、出し切ったのに届かなかったという痛みを残して、大会を去ります。

見ている側としては、今大会は非常に満足出来るものでした。ワールドカップというお祭りを、予選から本大会、そしてベスト16まで楽しむことが出来たのです。200あまりの国と地域が参加したお祭りで、日本は残り10チームにまで残りました。もしパラグアイに勝っていれば、日程の関係で「残り5チーム」に入ることが確定するところまできていました。敗れ去った多くのチームが楽しめなかったものを、味わうことが出来ました。4年間たっぷり楽しめたのですから、もうこれは大満足です。

ピッチを駆ける選手たち。最後の一歩、最後の一足を出す根性。苦しい時間をじっと凌ぐ忍耐。チャンスと見るや猛然と攻め上がる勇気。批判や逆風にも揺るがず、高い目標へと突き進んだチーム。走り続けたチーム。延長を終えたあとはピッチに多くの選手が倒れこみました。さっきまでの力走が嘘のように、動けなくなっていました。国歌斉唱・試合前・ハーフタイム・延長突入前・PK戦、ひざまずき祈りを捧げた最後の1本…ことあるごとに選手たちは肩を組み、心をひとつにしていました。外した選手を誰一人責めることはなく、痛みをわかち合っていました。誇らしく、美しいチームでした。胸を張って日本に帰ってきてほしいヒーローたちです。

それでも、届かなかった。

今大会、日本チームは万全の状態で迎えられました。コンディション調整の成功もあり、過去にないほどの絶好調で大会に入る選手が頻出。怪我やカードでメンバーを欠くこともなく、理不尽な判定に見舞われることもなく、スムーズに戦うことが出来ました。選手たちは一体となり、まさにチームの力を結集していました。なかなかこれ以上の状態はないでしょう。それほどいい戦いが出来た中でも、ベスト8には上がれなかったという現実。120分間守り抜きながら、1点を奪うことは出来なかったという現実。これこそが、現時点での日本の位置。

4年前はただただ無念さが残り、次の一歩をどう踏み出せばいいのかもわかりませんでした。しかし、今回は違います。日本人の選手と日本人の監督による「日本サッカー」でも、十分に世界と戦えるという自信を得ました。「みんなで」「賢く」「献身的に」「走る」という日本の長所・特徴を知ることが出来ました。そして、世界との距離を肌で感じることが出来ました。目の前が明るく開けたような気がします。すぐにでも次の一歩を踏み出したくなるような、大きな手応えが残っています。選手たちもそう感じているのではないでしょうか。

ワールドカップだけがサッカーではありません。日々は続いていきます。すぐにJリーグも始まります。お祭りを終えて、「本当の仕事」に選手たちは帰っていきます。ならば、それを熱く温かく見守ることがファンの「本当の楽しみ」。4年に一度のお祭りを待つだけじゃ退屈でしょう。1000円札を何枚かポケットにねじ込めば、遠藤の芸術的FKや、闘莉王の暑苦しさ、大久保がうっかり点を取る姿、川島のドヤ顔が目の前で見られるのです。もし彼らが海外で新たな冒険を始めるとしても、次代のサムライを見守る喜びがあります。最高の暇つぶしじゃありませんか。この4年がそうだったように、次の4年もきっとまたあっという間です。

お疲れ様日本代表。面白かった。ワクワクした。泣いた。

新しい歴史をありがとう!



◆負けた気はしない!ただ、勝てなかっただけだ!


ベスト8への戦い。相手はパラグアイ。難敵だが勝てない相手ではない。チャンスだ。いける。さらなる夢へと加速する人々の想い。ベスト16進出という大仕事を成し遂げたにもかかわらず、さらに大きな夢が広がっていました。大会前には疑いの目を向けられていた代表チーム。それがわずか数試合で、誰もが信じるチームに変わっていました。入場してくる彼らの姿も、心なしかいつも以上に大きく見えました。南アフリカの大地に響く4度目の君が代。この日も肩を組み、声を上げるメンバーたち。もうすっかりおなじみの光景です。

勝てばお互いに初のベスト8進出となる一戦は、堅守のチーム同士の我慢比べの様相。同じスタメンで4戦目を迎える日本代表は、わずかに疲労感を漂わせながらも、その我慢比べに真っ向から挑みます。体をぶつけ、球際で競り合い、ボールに飛び込む。労を惜しまない戦いで、日本はゴールを死守します。

前半20分には、エリア内で抜け出したバリオスがシュートを放つ危ない場面もありました。しかし、バリオスが抜け出した刹那、鋭い反応で体を寄せる闘莉王、体を投げ出し右足一本でシュートを跳ね返す川島、ボールがこぼれるスペースをケアする中澤…全員が自らの仕事にかかり失点を防ぎます。この粘り、この献身、このチームワーク。南米の個人技にも、まったくヒケを取らない日本の組織が光ります。

しかし、パラグアイも堅守のチーム。日本の攻撃陣は少ないチャンスを確実に決め、ここまで勝ち上がってきましたが、この日は最後の一線をどうしても越えられません。前半21分にはクロスバーを叩く松井のシュート、前半40分にはわずかに左に外れる本田△のシュートなどが飛び出しますが、決められず。

果てしなく続く我慢比べ。

後半に入っても、苦しい時間は続きます。この日はうまく中盤での組み立てが出来ず、不用意にボールを渡してしまうことも多く、幾度もピンチが訪れる日本。セットプレーから反撃の機会をうかがいますが、相手も体を張って阻止。両チームとも1点を奪えないまま時間が過ぎていきます。

あっという間の90分が終わり、気づけば試合は延長戦に。日本は後半20分に岡崎を、後半36分には中村憲剛を、延長後半頭には玉田を投入。いわゆる憲剛システムに変えて、1点を奪いにいきます。思えばこの形は岡田JAPANが世界に勝つために考えたひとつのスタイル。こういうときに1点を奪うための試行錯誤だったはず。しかし、延長後半11分に本田△・玉田・岡崎の3人でパラグアイDFを切り崩し、最後のチャンスを作るも遠いゴール。ついに1点を奪えないまま試合はPK戦に突入したのです。

今大会は本田△が少ないチャンスをゴールに結びつけ、いわゆる「決定力」を発揮してここまで勝ち上がることが出来ましたが、これほど上手くいくことも少ないでしょう。ブラジルやアルゼンチンのように軽々と突破するのは難しいにしても、この先のレベルに行くには、均衡を打ち崩すチカラ、1点を奪うチカラがやはり必要。無限ループのようでもありますが、守っているだけでは勝てない、勝つためには点が必要だ、じゃあどうやって点を取るんだ…その答えを探す日々はまだまだ続きそうです。


そして迎えたPK戦。

先に蹴るのはパラグアイ。日本は全員が肩を組み、声を掛け合い、この残酷な勝負に挑みます。1本目を決めたパラグアイ。日本も世界のPK職人・遠藤が華麗に決め1-1。パラグアイの2本目は川島の指先をすり抜けゴールに突き刺さりますが、日本も長谷部がしっかりと決めて譲らず。そしてパラグアイが3本目を決めたあと、この日のハイライトとなる駒野のキックが訪れます。

駒野は2007年のアジアカップ・オーストラリア戦でも3人目でPKを任されたように、隠れたPK職人。このチームの中でも名手のひとりです。しかし、PKを外すのはいつも名手。ゴール上へと叩き込む勇敢な駒野のPKは、クロスバーに阻まれます。GKが絶対取れないコースを狙ったPK。名手ゆえ、勇敢な男ゆえの外し方でした。

↓駒野のPKは無情にもクロスバーを叩く!


今大会、日本は何度もクロスバーに救われました。この日は敵に回ったクロスバーさんですが、そういう日もあります。




天を仰ぐ駒野。駒野を引き寄せ列に迎え入れる中澤。駒野の分までと闘志を燃やす川島。外せば終わりの場面でゆるやかに淡々と決めた本田△。ピッチにひざまずき最後の祈りを捧げるメンバーたち。しかし、パラグアイは5人全員が決め、試合終了。試合には負けなかったものの、PK戦に敗れ、日本はベスト16で大会を終えたのです。

選手たちは、このチームでの戦いが終わることを想い、涙を流していました。ベンチで静かに涙をこぼす闘莉王。ひとりたたずむ大久保。声を上げ、号泣する駒野。その肩を抱き、駒野よりも激しく泣きじゃくる松井。そこに寄り添うアテネの仲間・阿部。そっと頭を撫でた稲本。PKを外した駒野の痛みを分け合うように次々に仲間が集まっていきました。試合中に長友・遠藤という今大会の主軸がイエローカードをもらい、累積警告で次戦は出場出来なくなりました。もしここで勝ったとしても、その先はもうなかったかもしれません。それでも勝ちたかった。勝たせてやりたかった。そんな、いいチームでした。

↓よく戦い、美しく散った日本代表のラストシーン…。


駒野はこの試合のことを忘れられないでしょう。同じように、僕らもこの試合のこと、駒野のことを忘れないでしょう。多くのヒーローが生まれ、喝采を浴びた日本代表の中で、駒野は目立たず静かに自分の仕事をこなしてきました。中継したTBSの番組告知でも、各メンバーの名前を挙げる中で、駒野の名前はしっかりと漏れていました。そんな男が、クライマックスのスポットライトを一身に浴びたのです。僕は、これをサッカーの神様からの贈り物だと思います。

この先何十年も、僕らはこの場面を思い出すのです。同じような場面が訪れるたびに、駒野の涙がよみがえるのです。ドーハの悲劇のように、何度も何度も振り返るのです。あのドーハのピッチに崩れ落ちた中山や、最後のクロスに足を伸ばしたカズ、頭を抱えて座り込んだラモスの姿は、日本サッカー界の歴史であり、大切な記憶です。唯一ラモスが美しく見えた瞬間です。駒野はそんな素晴らしい瞬間に、自分を刻み込むことが出来たのです。多くのファンの胸に、自分を刻み込むことが出来たのです。ちょっとした駒野記念日です。

優勝でもしないかぎり、いつかどこかで負けるもの。

どこで負けるかよりも、どう負けるかが大事。

この日見せた、日本の美しい負けは、決して悲劇ではありません。

栄光という、眩しい光の中に消えていっただけのこと。

「サッカー」は終わらず、これからも続いていきます。

次にまた素晴らしい場面に出会えるよう、これからも見守っていきたいものですね。




お疲れ様日本代表!よくやった日本代表!ありがとう日本代表!

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