2010年問題――という言葉をご存じだろうか? ファイザー、メルク、武田薬品・・・、これら巨大製薬会社の売上げは、実は少数の有力製品(ブロックバスター薬)によって支えられている。その特許が2010年を挟んだ数年間で一斉に切れ、薬の値段が下がることにより、製薬会社の経営に大きな影響を与えるのではないかと危惧されているのだ。でも、こんな意見もある。

「薬が安くなるなら、わたしたち消費者にとっては良いのでは・・・?」

 確かに「薬の値段が下がる」という面だけ見れば、その通り。でも問題はそんなに単純ではない。アルツハイマー病、がん、うつ病・・・、私たちの暮らしを脅かす病。その画期的な新薬が生まれなくなるのではないかと危惧されているのだ。

 今回の「追跡!A to Z」は、製薬業界の現状を追った。

 そもそもいま、なぜ製薬会社が「一斉に」特許切れに悩んでいるのだろうか? その最大の原因は「この20年間、莫大な売り上げにつながる画期的な新薬がほとんど開発されていない」ことにある。年間10億ドル以上を売り上げる「ブロックバスター」と言われる薬の多くは、80〜90年代に開発され、それ以降、ほとんど生まれていないのだ。

 なぜ、新薬が生まれないのか? 私たちは世界最大の製薬会社・ファイザー社を直撃した。研究開発部門のトップ、マーティン・マッカイ博士の話。

「8〜90年代にかけて、われわれが薬を開発していたのは、科学的にメカニズムがはっきりしている病気だった。しかし、いま取り組んでいるのは、もっと難しい病なのです」

 新薬が生まれない第一の要因。それはがんやアルツハイマー病など、発症のメカニズムがはっきりしていない病気を対象にしていることにある。

 90年代に開発されたブロックバスター薬には、高コレステロールや高血圧など、いわゆる生活習慣病の薬が多い。これらは、例えば高血圧であれば「血圧を上昇させるホルモン」など、ターゲットが明確になっているため、薬が作りやすいのだ。

 一方、アルツハイマー病に関しては、「アミロイドベータ」という異常なたんぱく質が原因だと考えられているのだが、結論は出ていない。いま世界中の製薬会社が巨額の開発費を投じてアミロイドベータを減らす薬を開発しているのだが、そもそも原因かどうかもわかっていない状態ということもあり、効果的な薬がなかなかできないのだ。

 いま「効果的な薬が少ない」と言われる“アルツハイマー”“がん”“自己免疫疾患(アレルギー・関節リウマチなど)”はどれも、メカニズムが複雑で十分に解明されていないという共通点を持つ。

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