先日、『Sportiva』(集英社)の企画で、江本孟紀さんと対談させていただく機会があった。間違っていることを間違っているとはっきり言える、スポーツ界において数少ない人物だ。自腹を切って野球タイ代表の総監督になり、アジアにおける野球の普及発展に努めた人でもある。

これだけ何か行動を起こしてきた人の言うことは、やはり説得力が違うと思ったね。自分のやってきたこと、見てきたこと、それを経て思うことについて話すときは、声が弾んでいた。自分のふんどしで相撲を取っているんだ。

野球界とサッカー界の問題について議論したんだけど、おもしろかったのは、問題の根本がまったく同じだったということ。それは日本という国の構造的な問題で、野球、サッカー以外のほかのスポーツも同じなのかもしれない。

これまでもこのコラムで何度も述べてきたとおり、「学校体育、企業スポーツ」というあり方が引き起こす弊害は言うに及ばず。江本さんにしてみれば、「サッカーはまだマシだと思っていたよ」ということだった。

もっと根本的なことを言うと、日本は厳然とした学歴社会だ。政治には、二世三世がはびこっている。勉強ができるのは偉いし、政治家の子どもとして英才教育を受けてきたのもすごいけど、その裏には“狭い”という事実もあるよね。

国家システムや企業が外国に比べて進んでいる部分ももちろんたくさんあるけど、どこかで行き詰まっているのは確かだと思う。右に風が吹いたら、みんが右に行く社会に見える。要するに自分で考える力が弱いんだ。何のために学校へ行っているのか。何のための学歴社会なのかと思うよ。

笛が吹かれたら一生懸命スタートを切るけど、その先はどこかで行き詰まる。行き詰まったときに答えを見つけ出せない。新しいことにチャレンジできない。これが日本の社会であり、スポーツにも同じことが言える。そういう意味で、野球もサッカーも、他の競技も、問題の根本は共通しているんだ。

サッカーはたかだか17年で行き詰まった。大きくなって曲がっている木は、もう元に戻らない。でもまだ17年だから、今から添え木をすれば、まっすぐ直るかもしれない。サッカーより歴史のある野球界の中で、絶望的なまでの大きな問題を前にしてもなお、情熱を絶やさない江本さんと話していて、やらなきゃいけないこと、言っていかなければならないことはまだまだたくさんあるというのを、改めて感じたよ。(了)
 

セルジオ越後 (サッカー解説者) 

18歳でサンパウロの名門クラブ「コリンチャンス」とプロ契約。ブラジル代表候補にも選ばれる。1972年来日。藤和(とうわ)不動産サッカー部(現:湘南ベルマーレ)でゲームメーカーとして貢献。魔術師のようなテクニックと戦術眼で日本のサッカーファンを魅了。1978年より(財)日本サッカー協会公認「さわやかサッカー教室」(現在:アクエリアスサッカークリニック)認定指導員として全国各地青少年のサッカー指導。現在までに1000回以上の教室で延べ60万人以上の 人々にサッカーの魅力を伝えてきた。辛辣で辛口な内容のユニークな話しぶり にファンも多く、各地の講演活動も好評。現在は日光アイスバックス シニアディレクターとしても精力的に活動中

●主な活動 テレビ朝日:サッカー日本代表戦解説出演「やべっちF.C.」「Get Sports」  日本テレビ:「ズームイン!!SUPER」出演中 日刊スポーツ:「ちゃんとサッカーしなさい」連載中 週刊サッカーダイジェスト:「天国と地獄」毎週火曜日発売 連 載中 週刊プレイボーイ:「一蹴両断!」連載中 モバイルサイト FOOTBALL@NIPPON:「越後録」連載中