5月25日、JFAハウスにて、キリンカップサッカー来日審判員講演会が行われた。講師はポルトガル人のパウロ・コスタ氏。参加者は、審判資格を持っている人たちで、募集人員40名いっぱいになった。

 キリンカップに来日する審判は、実は非常にレベルが高い。今年のヨーロッパチャンピオンズリーグ(以下CL)決勝の主審、リュボシュ・ミシェル氏は2005年のキリンカップに招聘された主審だ。今回招聘されたポルトガルの審判団4名も、CLなどでの経験を持つ。

 講演では、ポルトガルの審判団のトレーニングなど様々な試みが、通訳を介して説明された。トレーニング自体はスペシャルレフェリー(JFAと契約するプロの審判、以下SR)が開幕前に宮崎で行った合宿のトレーニングと同じもので、個人的に目新しいものはなかった。ただ、違いがないわけでもない。
 大きな違いは、そこに副審がいるか、いないかだ。

 ポルトガルでは、副審も主審と同じように日々トレーニングを受けているという。しかしJリーグでは残念ながら、副審はSRたちと同じようなトレーニングは受けていない。もちろん、JFAトップレフェリーインストラクターの上川徹氏は、副審もSRトレーニングに参加させたい意向を持っているが、副審それぞれの本職を考えると困難なのが現状だ。

 しかし、副審のレベルアップは必須だと思う。たとえば今季、J1第11節、浦和対千葉戦で柏原丈二氏があきらかなファウルを見逃したシーンがあった。しかし、私は柏原氏だけのミスではないと思う。

 というのも、審判には対角線審判法というのがある。副審の逆側、つまりピッチを斜めに走るというレフェリング法だ。副審と協力することにより、より細かいレフェリングをするために生まれたという。柏原氏は、まさにこのポジショニングをしていた。だからこそ、その後起こったファウルには素早く対処できていた。つまり、見逃してしまったファウルをとらなければいけなかったのは、副審だったと思う。

 開幕前に上川氏は「審判も一つのチームに」と語っていたが、残念ながらまだチームとして機能していない。

 J1第13節浦和対G大阪戦もそうだ。G大阪の2点目に繋がってしまったスローインをするチームの間違い。4人いる審判全員が、バレーが勝手にマイボールと偽りスローインしたことにおかしいと思わなかったのだろうか。思わなかったのであれば問題だし、わかっていたのであれば、すぐに岡田正義主審に伝えるべきだった。なぜならば、「8つの目で見えないことをなくしていく」(上川氏)ために審判は4人いるからだ。そして、それをすぐに伝えるために、コミュニケーションシステム(欧州チャンピオンズリーグなどで審判がつけているマイク)の導入も必須ではないだろうか。

 逆にこのままでいいのだと思うこともある。ビデオ判定の導入だ。ビデオ判定は、10年前にアメリカで試験導入された。しかしそれにより、試合が数多く止まってしまったという。

 レフェリングとは主審がどう見えたかが基本となる。選手は当然納得がいかない。選手が異議を唱えるたびにビデオ判定が行われる。そうなれば、当然試合は止まってしまう。重要なポイントだけという対応策もあるだろうが、どこを重要とするかというので問題が起きそうな気もする。

 さらに、わざとビデオ判定をさせるために倒れる時間稼ぎも起こるかもしれない。流れが何度も止まるサッカーなどおもしろくない。やはり判定はリアルタイムで、人間の目によって行われるべきだろう。
 
 パウロ・コスタ氏は講演の中でこうも言った。

 「サッカーは難しいスポーツです。選手、監督、そして審判。すべての人に失敗が起こる」

 審判だってミスはする。これは受け入れなければサッカーは成り立たない。ただし、審判も監督や選手と同じようにミスをなくす努力をしなければいけない。日本の審判が努力をしていないとは思わないが、まだまだ改善できることはある。これから始まるJリーグ後半戦。まずは“審判チーム”でのレフェリングに期待したい。(了)

著者プロフィール
石井紘人(いしい はやと)
某大手ホテルに就職するもサッカーが忘れられず退社し、審判・コーチの資格を取得。現場の視点で書き、Jリーグの「楽しさ」を伝えていくことを信条とする。週刊サッカーダイジェスト、Football Weeklyなどに寄稿している。
<石井紘人コラム>
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