車両基地に運び込まれた事故車両の一部。連結面がへこんでいる(記者撮影)

今年で開業30年、無事故で走り続けてきた新交通システムに想定外の事態が起きた。

6月1日、横浜市の新交通システム「金沢シーサイドライン」の新杉田駅(同市磯子区)で自動運転の列車が逆走し車止めに衝突、15人の負傷者を出した。

高い安全性を誇ってきた自動運転の新交通システムが突然逆走するという、運行会社側も「まったく想定していなかった」事故。全国にあるほかの自動運転路線の信頼性にも影響を与えかねない事故に、国の運輸安全委員会も調査に乗り出したが、原因究明は長引くとみられる。運行再開のメドはたっていない。

逆走は「想定外」

シーサイドラインは、横浜市南部の新杉田―金沢八景間約11kmを結ぶ新交通システム。1989年7月5日に開業し、1994年から無人の自動運転を行っている。2018年3月期の事業報告書によると、2017年度の1日当たり平均利用者数は約5万2400人だ。


衝突時の衝撃でめくれ上がったとみられる連結部分(記者撮影)

事故が起きたのは6月1日の夜。新杉田駅20時15分発並木中央行きの電車(5両編成)が発車する際、本来の進行方向とは逆側に向かって動きだし、停車位置から26.5m離れた車止めに衝突した。

衝突した最後尾の車両は、正面の窓下にあるライト部分のガラスなども割れておらず、それほど目立った損傷はないようにも見える。だが、反対側の連結面に目を移すと、隣の車両へ渡る貫通路の部分は床板がめくれ上がっている。中間車両は連結面の一部がへこんでいる様子も見られ、衝突時の衝撃がうかがえた。

同線の列車はATO(自動列車運転装置)によって自動運転され、ATC(自動列車制御装置)が速度オーバーや先行列車への接近などを監視して安全を守る仕組み。車両に搭載したATO装置は次の駅までの距離や速度など路線の全データを記憶しており、このデータや地上側からの制御指令、車両の走行距離や速度情報などに基づいてATO装置が走行を制御する。

終点では、発車時間になると駅の地上装置(継電連動装置)がポイントの切り替えなど出発ルートを確保し、列車に進行方向の切り替えと出発の合図を出す。列車側に異常があれば発車できないシステムだ。逆走は想定されていないため、万が一逆向きに走り出した際に停止させる装置はないといい、列車は車止めに衝突したことで止まった。

オーバーランもなかった無事故車両

今後の事故調査で焦点になるとみられるのは、あり得ないはずの逆走に至った原因が車両側の異常なのか、あるいは地上側だったのかという点だ。


車止めに衝突した車両。一見すると目立った破損はないが、連結器はロープで固定されている(記者撮影)

現在シーサイドラインを走る車両は、2010〜14年に導入された「2000形」。16編成あるが、会社によると、いずれも駅でのオーバーランを起こしたこともない。今回事故を起こした編成は、2000形の「41編成」。5月30日に行った目視での「列車検査」で異常は見られず、2017年に実施した走行部分などを分解整備する「重要部検査」でも異常はなかったという。

事故当日は、始発列車として新杉田を5時13分に出発。新杉田―金沢八景間を15往復し、事故を起こした新杉田20時15分発の並木中央行きで運行を終える予定だった。会社によると、事故発生前の運行中にトラブルは一切なかった。

一方、会社によると、車止めに衝突した最後尾車両は列車の後部を示す赤いテールライトを点灯した状態だったという。この点から推測すると、システム自体は進行方向を切り替えて列車が進む方向を正しく認識していたものの、何らかの理由でシステムの指示する方向に進まず逆走したと考えることもできそうだ。


ほかの車両の牽引で車両基地に運ばれる事故車両の一部(記者撮影)

シーサイドラインの自動運転システムにはさまざまなメーカーの装置が使われているが、車両に搭載している「ATC/ATO車上装置」は日立製作所製。同社は「シーサイドラインと共同で原因究明に努めたい」としている。地上側から信号を受ける「ATC/TD装置」のメーカーである日本信号も「国の運輸安全委員会の調査に積極的に協力している」と話す。

会社によると、運行システムは保守点検や部品の交換は行っているものの、近年は車両の入れ替え以外に大きな変更はしていない。シーサイドラインは今年3月31日、金沢八景駅を京急線の駅と直結する位置へ約150m移設し、合わせてダイヤも改正したが、この際にもシステムの変更はしていない。

原因究明には長時間?

無人運転の新交通システムでは、1993年10月に大阪市交通局(当時)の「ニュートラム」住之江公園駅で、停止位置を行きすぎた列車が車止めに衝突、194人が重軽傷を負う事故が発生した。

【2019年6月4日10時20分追記】初出時、大阪市交通局(当時)の新交通システム路線名に誤りがありましたので、上記のように修正しました。


事故による運転見合わせで閉鎖された新杉田駅の入口(記者撮影)

この際は係員を添乗させる形での運行再開までに約1カ月を要し、無人運転を再開したのは事故から6年以上が経過した2000年だった。事故原因はATCの減速指令をブレーキに伝える継電器(リレー)の導通不良とされたが、導通不良が発生した理由は究明できず、回路の二重化やブレーキの信頼性向上などで事故を防ぐ対策が施された。

これまで事故のなかったシーサイドラインのシステムに何があったのか。安全の根底に関わる部分だけに原因究明は長引きそうで、今のところ運転再開のメドは立たない。沿線在住で頻繁に利用するという60代の男性は「普通の電車より安全だと思っていたくらいなのでびっくり。運休になると便利な乗り物だったんだなとわかりますね」と漏らした。

無人運転の新交通システムはシーサイドラインのほかにも全国に複数存在し、地域の足として定着している。自動運転技術そのものへの信頼が揺らぐことがないよう、原因の究明が待たれる。