「“復活”したWithingsのスマートウォッチ「Move」は美しいが、精度などに弱点もある:製品レヴュー」の写真・リンク付きの記事はこちら

フランスの電子機器メーカーであるウィジングズ(Withings)が2014年、スマートウォッチ「Withings Activité(アクティヴィテ)」シリーズの販売を開始した。昔ながらの上品な見た目のアナログ腕時計でありながら、ちょっとしたフィットネストラッカーとしても使えるものだった。

ウィジングズのヘルスケア製品はデザインが美しく、つくりもよかった。そこに目を付けたノキアが、同社を2016年に買収した。買収からの2年間、ノキアはあらゆる製品に「Nokia」のブランドネームを付けて世間を惑わせることとなった。たとえば、「Withings Activité Steel」は「Nokia Steel」という名称になったのだ。

紆余曲折を経て元のブランドで“復活”

そして、ノキアは興味を失ってしまった。そこでウィジングズの創業者であるエリック・カレルは、2018年にノキアのデジタルヘルス部門を買い戻した。それから間もなくラスヴェガスで開催された家電見本市「CES 2019」で、「Withings Move」と「Withings Move ECG」というふたつの新製品を発表したのである。

価格が70ドル(日本では税別9,380円)の「Move」は、「Activité」と同じく落ち着いた魅力をもったアナログ腕時計のようなフィットネストラッカーだ。驚くほどの手ごろな価格でありながら、連動するスマホアプリ「Health Mate」を利用することで、歩数計測やインドアサイクリングなどのアクティヴィティを記録したり、GPSと接続して走行距離やペース、標高を計測したりできる。また、シンプルなヴァイブレーションによる目覚まし機能や、睡眠のトラッキング機能も付いている。

「Move ECG」と異なるのは、ECG(心電図)機能を搭載しておらず、脈拍の計測もできない点だ。悲しいことにプラスチック製の表面ケースには擦り傷が付きやすい。1週間ほど試用してみたが、すでにケースの表面にひどい擦り傷が付いてしまっている。これは残念だ。

充電不要のボタン電池仕様

これまでのウィジングズ製品同様に、「Move」もデザインが素晴らしい。手元にある試用機は文字盤が白く、明るい青の柔らかいシリコンストラップが付いている。

ほかにもコーラルカラーの「White & Coral」、ミントグリーンの「Iced Blue」、黒の「Modern」などが選べる。カラーヴァリエーションは近日中に追加の予定もある。多くのアナログ腕時計と同じように、ストラップは付け替えることができる。

大きな文字盤の内側にその日の歩数を計測してくれる小さな文字盤があり、サイドについている銀色の小さなボタンでアクティヴィティを記録できる。バッテリーにはボタン電池を採用するというシンプルさで、充電の必要はない。

18カ月たって電池が切れたら、メーカーに電池を取り替えてもらうか、本体ごと買い替えればいい。毎週毎週「Garmin」や「Fitbit」といったフィットネス・トラッカーを充電するのに慣れ切ってしまっているせいで、カバンに充電器を入れて持ち歩く必要がない状況に、ひどく落ち着かない気持ちになった。

シンプルがゆえに心地よい感覚

ウィジングズのアプリ「Health Mate」と同期させれば、アクティヴィティや歩数、睡眠の記録を見ることができる。機能はこれだけだ。基本的には、ただの時計なのである。

通知に驚かされることなく、キッチンで落ち着いて紅茶をいれることができたのは数年ぶりのことだ。突然手首が静かになったので逆に気になってしまったが、心地よい感覚だった。

ちなみに、iPhoneの「Screen Time」機能が面白いことを教えてくれた。スマートウォッチでメッセージや天気予報を確認したり、ストップウォッチやタイマーを使ったりしなくなった代わりに、スマートフォンの使用時間が週に1時間増えていたのである。なんということだ……。

Health Mateの機能はシンプルだ。1日ごとの歩数目標を設定して達成状況を確かめ、睡眠時間(と1日ごとの睡眠スコア)をチェックし、アクティヴィティーの記録をとる。それだけである。

ただし、記録できるアクティヴィティは驚くほど多岐にわたる。一般的なハイキングやランニング、サイクリング以外にも、ダンス、クライミング、卓球など、実にさまざまなアクティヴィティをトラッキングすることができる。

本体は防水なので、水泳やサーフィン、ウィンドサーフィンも使える。また、例えば「週に3回ランニングをする」といった目標をアクティヴィティごとに設定することもできる。スマート睡眠パッド「Sleep」や、Wi-Fi対応体重計「Body+」など、ほかのウィジングズ製品からデータを取り込む機能があるのも便利だ。

途切れがちだったGPSの記録

実際に使ってあとにHealth Mateアプリをチェックしてみると、すべてが能書き通りにはいかないことがわかった。なかでも、睡眠のトラッキングが正確ではなかったのだ。就寝時間と起床時間を記録してくれるのだが、本当に眠っているのか、眠れずにただ横になって悶々としているのかを判別できないのである。

うちの子どもたちは5時半には一日が始まると思っているので、朝は早く目覚めてしまう。子どもたちに付き合って起きるのは夫とのローテーションで1日おきなのだが、目は覚める。ところが、覚醒していても、枕で耳を塞いでベッドに横になっていればMoveには眠っていると判断される。

GPSを搭載しているのは、ここまでシンプルな腕時計にしては予想外だが、これも信頼には足らない。ハイキングや犬の散歩、ランニングをしていると、頻繁に接続が切れてしまうのだ。例えば、ルートのマッピングが、自宅から60mほどの距離にある公園の真ん中で突然途切れてしまったりする。歩行距離がそれよりもずっと長いとわかっていたとしてもである。

記録中には時間がわからない弱点も

また、日課のランニングは木の茂る公園の小道をぐるぐる回るルートなのだが、走行時間と高低差について記録してくれても、2周目以降の距離についてはうまくいかない。実際には3マイル(約5km)走った時間で1マイル(約1.6km)しか走っていないような記録になるわけだ。この食い違いによって、ペース計算が大幅にずれることになる。

ヨガのクラスで使用してみたときには、計測できたのは持続時間とカロリー消費量のみだった。静かに振動する小さなボタンを押し続ける動作は、大きめの電子音が鳴る「Suunto」や「Garmin」に比べれば、ずいぶんと控えめで目立たない気がする。

ところが、アクティヴィティを記録しているときは、記録中であることを示すために分針が早めに回転する仕様になっている。つまり、そのアクティヴィティーの間は時間がわからないのだ。このことに気づいたのは、いわゆる「屍のポーズ」をしながらこっそり腕時計をのぞき見したときだった。

プラスティックのケースが傷つきやすい

フィットネストラッカーのように見えないフィットネストラッカーというコンセプトは、大いに気に入った。しかし、本当に魅力的な一方で、プラスチック製のケースは1週間ぶんのアクティヴィティでしっかりと擦り傷が付いてしまった。

プラスチックのケースは、個人的にこの1年愛用していてアクセサリーとして着用しても問題ない「Steel」と比べると、質感も見た目もずっとチープだ。プラスティックだとコストが抑えられるのだろうが、耐久性や汎用性まで損なってしまっている。

手ごろな価格ではあるが、ひと月ごとに買い換えることになるかと思うとそこまでの買い得感はない。保証から擦り傷の項目ははっきりと除外されていた。

アナログスマートウォッチにも、よい製品は少なからずある。残念ながら「Move」を勧めることができるのは、アスリートを自認しない人か、優雅なライフスタイルを送っている人だけだ。

これ以外の人に勧めるとすれば、「Withings Steel」が妥当なところだろう。GPSのような“派手”な複雑な機能は備えていないが、腕時計には余計な機能を詰め込まないほうが粗が出にくいものである。

◎「WIRED」な点

なんと言っても充電が不要なところ。シンプルな機能、手ごろな価格、魅力的なデザイン。わずらわしい電子音は優しいヴァイブレーションに置き換えられた。歩行や睡眠はもちろん、驚くほど多様なアクティヴィティを記録できる。ストラップは付け替えが可能である。いろいろあるが、やはり充電が不要なのは大きい。

△「TIRED」な点

「Move」では心拍数が計測できない。睡眠とGPSのトラッキングが正確ではない。ケースがプラスチックなので傷つきやすい。

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