ZOZOの前澤友作社長は2018年度決算説明会で「ブランド様からの信頼を失ってしまった」と反省の弁を述べた(写真は2018年7月の新生ZOZOビジョン発表会のもの、撮影:梅谷秀司)

「価格勝負をしてしまい、ブランド様からの信頼を失ってしまった。今後は価格ではない価値を提供していかないといけない」

国内最大のファッション通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するZOZO。4月25日に開催した決算説明会で前澤友作社長はこう釈明し、昨年12月25日から始めた有料会員向けの割引サービス「ZOZOARIGATOメンバーシップ」を5月末で終了することを明らかにした。

複数の出店ブランドが反発

同サービスでは、月額500円か年額3000円を支払う有料会員となると、ゾゾタウン上での商品購入金額から10%が割引される。割引分はZOZO側が負担し、割引された額を指定する団体への寄付などに使うこともできる「社会貢献型サービス」をうたっていた。

だが、ゾゾタウンでは定価商品も常時1割引で買えるという価格政策に、ブランド価値を重要視するオンワードホールディングスなど複数の出店ブランドが反発。加えて、サービス内容など詳細に関する事前説明の乏しさも、ブランド側の不信を招いた。ブランド価値の毀損や自社サイトなどからの顧客流出を恐れたブランドが、相次ぎゾゾタウンから撤退する事態となった。

「ゾゾ離れ」をめぐる報道が過熱した今年1月時点で、前澤社長は「これもビジネスなので、(出店ブランド側と)会社の方針が違うこともあると割り切って考えている。自信を持って引き続きやっていきたい」と、強気の姿勢を見せていた。それがなぜ、数カ月の間でサービス終了へと方向転換するに至ったのか。

最大の要因は、想定していたほど売り上げが伸びなかったことだ。会社側はARIGATOサービス導入により、前2019年3月期の第4四半期のゾゾタウン事業の商品取扱高が前年同期比で約26%伸びると試算していたが、実際の伸び率は約19%にとどまった。売り上げが想定以下の一方で、割引分の原資の負担が重くのしかかり、「費用対効果が悪かった」(前澤社長)。

また、これまで順調に伸びてきたゾゾタウンへの出店ショップ数は、サービスに反発した複数のブランドの離脱の影響で、3月末には1245店(18年12月末から10店減)に減少。早期のサービス終了でブランドとの共存を重視する姿勢を見せ、出店各社からの信頼回復を図ることが急務と判断したようだ。前澤社長は「サービス終了はブランド様からも非常に前向きに受け取っていただいている」と話し、今後「ゾゾ離れ」は収束していくとの見通しを示した。

PBの赤字が足を引っ張る結果に

ARIGATOサービスを終了するゾゾタウン事業と同様、大きな方向転換を打ち出したのが前期に本格始動したPB(プライベートブランド)事業だ。4月25日に発表したZOZOの前2019年3月期決算は売上高1184億円(前期比20.3%増)、営業利益256億円(同21.5%減)と、増収ながら上場以来初の減益に。ARIGATOサービス開始に伴う粗利益率の悪化以上に、PBの赤字が足を大きく引っ張る結果となった。


PBは無料配布している自動採寸スーツ「ゾゾスーツ」での計測データを基に、オーダーメードに近い形で顧客一人ひとりにぴったりのサイズの商品を届けることがウリ。ジーパンやビジネススーツなど品ぞろえは順調に拡充してきたが、生産面では発送遅延などのトラブルが続出した。

さらに計測の煩わしさや予約から配送まで時間を要したことから、ゾゾスーツが届いてもPBを注文する人の数が少なく、前期のPB事業売上高は27.6億円と期初計画の200億円を大きく下回った。

昨年4月に発表した中期経営計画では2021年3月期にPB事業を2000億円に伸ばして第2の収益柱とする超強気の目標を掲げたが、この計画も1年であえなく撤回。ゾゾスーツの配布を大幅に減らし、中期的な拡大をもくろんでいたPBの海外事業からも撤退する。

今期の事業売上高の計画は17億円(前期比38.5%減)。PBは事実上、「事業縮小する」と見てよいだろう。「(新規投入は)極めてベーシックなアイテムにとどめて、在庫のあるアイテムの消化に尽力する。派手な展開は予定せず、細々と継続していきたい」(前澤社長)。

一方で、ゾゾは新規事業を打ち出した。PBの不振について前澤社長は「新しいことを盛り込み過ぎた」と反省する一方、「(PBで打ち出したS・M・Lよりもさらに細かなピッチでサイズを用意する)『マルチサイズ』に大きな需要があることは明らか」と、大きな方向性は間違っていないことを強調。そこで、今秋から「マルチサイズプラットフォーム(MSP)事業」を始めると発表した。

同事業では、出店ブランドと共同で20〜50程度のサイズを展開する商品を作り、ゾゾタウン上で販売する。ビームスやリーバイス、アーバン・リサーチなど複数のブランドの参画が決定しているという。前期のPB事業などの大幅な計画未達を教訓に、MSP事業の今期商品取扱高の計画は10億円と控えめに設定。さらに今期は、かつて失敗したゾゾタウン事業の中国進出に再挑戦する意向も明らかにした。

いずれの新事業も、前期に大赤字を計上したPBほどの投資はないとはいえ、矢継ぎ早に施策を打ち出しては方向転換する会社の姿勢に不安がくすぶる。ゾゾタウン事業ではARIGATOサービスだけでなく、顧客の好みに合わせたコーディネートを定期配送する「おまかせ定期便」もわずか1年で終了することが決まった。

ゾゾタウンは出店ブランドが約7000、年間購入者数が800万人を超す巨大サイトに成長した半面、度重なる方向転換が出店ブランドや顧客にどのように映るのか気になるところだ。

疑問視される「見通しの甘さ」

ARIGATOにせよPBにせよ、疑問視されているのは事前の見通しの甘さだ。今回の決算説明会では、証券アナリストから新規施策の決定プロセスの妥当性を指摘される場面もあった。ゾゾの澤田宏太郎取締役は「新しいサービスの事業化が決まったときには、現場を含めて綿密なシミュレーションを行っている。前澤が1人で決めて1人でやっているわけでは決してない」と強調した。

本業に集中するとして休止していたツイッターを4月25日に、2カ月半ぶりに再開した前澤社長は「皆様からの信頼を取り戻せるよう今期も集中して頑張ります」と宣言した。

会社側は今2020年3月期業績について、ゾゾスーツの配布費用やPBの評価損が減ると見たうえで、売上高1360億円(前期比14.9%増)、営業利益320億円(同24.7%増)の利益回復を見込む。

ただ、今回の施策でブランドの離脱は一部にとどまっても、アパレル各社が自社サイトでの集客に注力する中、ゾゾタウン事業だけでこれまでのような高成長を維持することは容易ではない。PBは事業縮小し、第2の収益柱の構築に向けた先行きも視界不良が続く。もくろみどおりの挽回を図れるのか、今期はまさに真価が問われることになる。