金正日氏(左)と金正恩氏

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北朝鮮の平壌で6、7の両日、朝鮮労働党の第2回党初級宣伝活動家大会が行われた。初級宣伝活動家とは、行政機関や工場など末端の職場単位で置かれた党組織で、思想教育やプロパガンダを担当する人々だ。

金正恩党委員長はこの大会に「斬新な宣伝・鼓舞によって革命の前進原動力を倍加していこう」というタイトルの書簡を送っているのだが、その中に、実に衝撃的な内容が含まれている。何と、父である故金正日総書記を、婉曲な表現ながらも否定しているのだ。

金正恩氏は、父の「異常な女性遍歴」を忌み嫌っていたとの説は以前からあるが、このような形で父親批判が出てくるとは思わなかった。

(参考記事:夜な夜な金正日の「個人指導」に呼び出された天才美女の運命

書簡には、次のように書かれている。

「偉大性教育で重要なのは、首領は人民とかけ離れた存在ではなく、人民と生死苦楽をともにし、人民の幸福のために献身する、人民の領導者であるということを、深く認識させることです。もし、偉大性を強調するために、首領の革命活動と風貌を神秘化するならば、真実を隠してしまうことになります」

これは、金正日氏に対する「強烈な皮肉」だ。金正日氏は、自らの父(正恩氏には祖父)である故金日成主席の神格化を主導し、体制の基盤を固めた。また、自分自身は容易に外部に姿をさらさず、謎めいた雰囲気を身にまとい続けていた。

金正恩氏が否定した「神秘化された首領」とは、金正日氏に他ならないのだ。

金正恩氏の最高指導者としての正統性は、祖父から父、そして自分へと流れる「白頭(ペクトゥ)の血統」に全面的に依拠している。それにもかかわらず先代の指導者を(婉曲にとはいえ)批判するとは、まさに前代未聞のことだ。

金正恩氏が以前から父親を嫌っていたとすれば、その原因のひとつは、前述したとおり金正日氏の女性遍歴だ。金正恩氏の母である高ヨンヒ氏は、金正日氏から最も寵愛を受けた女性と言われているが、だからと言って、金正日氏の「女好き」がピタリと止まったわけではなかった。

そんな父親の歪んだ本性を目にしつつ、金正恩氏は幼少の頃から反発を感じていたのかもしれない。

もっとも、今回の書簡で示された方針は、それだけが理由ではなかろう。金正恩氏は、ハノイでの米朝首脳会談が物別れに終わったことで、全世界が注視する中で「赤っ恥」をかいた。しかし見ようによっては、世界最強の米国大統領を向こうに回し、果敢に挑んだ若き指導者の「奮戦記」の一場面と捉えることも出来る。

早い話、金正恩氏はこれ以上、無謬の指導者であることに疲れてしまったのではないか。書簡はつまり、「最高指導者はつらいよ」という、嘆きでもあるのかもしれない。