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昨年、マンガの違法配信サイト「漫画村」が閲覧不能になったことは記憶に新しい。検索サイトで表示されるキーワード予測からは、その“代わり”を探す人がいまだに多いことがわかる。世間がマンガを読みたいとする熱量が、そんな事実からわかるというのもアイロニックなことだ。

マンガアプリで読む派、紙で読む派、コミックを全巻丸ごと電子書籍リーダーで読める「全巻一冊」にトライする派。マンガの楽しみ方は実にさまざまである。

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気軽に読めるマンガは閉塞感から抜け出させてくれることもあれば、ときとして登場人物が放ったひと言が強烈に心に突き刺さり、あなたの人生を変えてしまうことさえあるかもしれない。新たな年を迎えたが、振り返ってみてどうだろう。

無意識のうちに、人生の舵取りを忘れてしまってはいなかっただろうか。かつて没頭していたこと、これまでずっと蓋をしてきた気持ち、いまなら答えが出せるかもしれない問題……。これらにもう一度向き合う機会を与えてくれる、そんな個性が光る連載中のマンガ5作品を、ここで紹介する。

PHOTO: ©岩明均・室井大資/秋田書店

『レイリ』:戦国時代に数奇な運命を生きる少女

アラレちゃんからナウシカまでジャンルはさまざまではあるが、強くたくましい女の子には、いつの時代も心惹かれる何かを感じる。岩明均(原作)×室井大資(マンガ)が描く、黄昏ゆく武田帝国と勃興する織田軍のはざまで生きる少女レイリも、そのひとりになるはずだ。

父・母・弟を雑兵に惨殺されたレイリが望むことはただひとつ、自分の盾となり死んでいった家族のように、命の恩人である岡部丹波守のために戦って死ぬこと。強くなるために誰よりもひたむきに努力するレイリは、土屋惣三に導かれ武田家の希望である武田信勝の影武者となる。一日もはやく死んだ家族のもとへと逝くことを願う「死にたがり」の彼女は、時の流れや出会いを通じて何を思うのか。

あとにひくようなリアルな描写と、傷つき壊れつつもどこまでもまっすぐなレイリの生きざまに引き込まれ、シヴィアな内容があなたの気を引き締めるだろう。歴史好きにはもちろんのこと、何をやるにもなかなかエンジンがかからないという人にも読んでほしい作品だ。

PHOTO: ©小学館/大童澄瞳

『映像研には手をだすな!』:女子高生たちがアニメ制作に挑む

自分の好きなことをいきいきと語る人物は輝いて見え、一緒にいるこちらまで楽しい気分になることはないだろうか。そんな気分を味わわせてくれる登場人物に出会える、女子高生×アニメ制作のストーリー。

浅草みどりは、得意のイマジネーションと設定画でアニメ制作がしたいと思いつつ、小心者がゆえひとりで行動に移せずにいた。そんなとき、カリスマ読者モデルの水崎ツバメに出会う。彼女は両親から俳優になるように言われていたが、アニメーターになるという情熱を捨てられずにいた。そこにしっかりものでお金に目がない金森さやかも加わり、芝浜高校映像研のアニメ制作が始まる。

アニメ制作は「設定が命」と捉え、自分の考える「最強の世界」で大冒険することを夢見る浅草。彼女の設定画はとにかくマニアックで、その細かいこだわりに読んでいてわくわくすること間違いなしだ。多島海国家群・大アトランティス連合を例に挙げてみても、国家のブロック図から強国の衰退と文明の流れ、交通インフラの変化、さまざまな潜水艦などが見開きにビッシりと描かれている。最後に好きなことに没頭したのがいつだったか思い出せないという人に、特に読んでほしい作品だ。

PHOTO: ©雨瀬シオリ/集英社

『ここは今から倫理です』:考えることで救われる、新時代の教師物語

倫理教師の高柳の言葉をもってすれば、「倫理」とは学ばずとも困ることのない学問である。しかしこの作品を読めば、そこには人生の真実が詰まっていることに気づかされるだろう。

理想の教師と言えば、3年B組の金八先生や『ごくせん』のヤンクミを思い浮かべるかもしれない。高柳はそんなふたりのような熱血教師であるかと問われればそうとも言い切れず、あくまで冷静である。決して押し付けがましい態度をとることなく、多感な高校生たちが抱える問題に真摯に向き合う高柳のような存在こそ、この時代に本当に求められている教師なのではないかと考えさせられる。

そして、高柳自身が抱える闇にも注目だ。彼が引用する哲学者の言葉は、学生だけでなくきっと多くの読者の心に突き刺さることだろう。あなたの心に最も深く刻まれた言葉は何か、またその理由が何であるかを考えながら読み進めるのもよいかもしれない。学生時代、先生に質問しても納得のゆく答えをもらえることが少なかったという人にこそ、読んでほしい作品だ。

PHOTO: ©入江亜季/KADOKAWA

『北北西に曇と往け』:極北の大地が舞台のエブリデイ・ワンダー

ジャンルづけが難しく、結末がまったく読めない作品を好む人は少なくないだろう。それなら、まるで美しい風景が並ぶ写真集を見ているようであり、ミステリーかつファンタジーとも言えるような、定義づけの難しさが魅力の物語がある。

17歳の御山慧は両親を亡くし、北緯64度の島国、アイスランドで生活する祖父ジャックのもとで暮らし始めた。御山家の男性にはそれぞれ隠された能力がある。慧は「電気の通うもの」を通じて、その仕組みや故障箇所、使用者の情報を“聞き取る”ことができる。このため、その能力を活かして人探しなどの探偵稼業をしている。

クールな慧とは違って愛らしい顔をした弟の三知嵩からは、見た目とは裏腹になにやら不穏な空気を感じる。三知嵩の能力とは何か、また慧が親友の清と日本ではどんな暮らしをしていたのか、読めば読むほどその展開が気になるだろう。同時にアイスランドの大自然、名所、食べ物といった鮮やかな描写に魅了され、きっとこの氷の島のとりこになるはずだ。

マンガを読むときにヴィジュアルを重視するというタイプにもお薦めできる。冒険好きならすぐに触発され、いますぐクルマで遠くへ飛び出したくなるかもしれない。昨年どこかへ旅に出かけるはずが、気づけばいつの間にか年が明けていたという人に、ぜひ手にとって読んでみてほしい作品だ。

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観光客が押し寄せすぎて、美しいアイスランドの風景が「激変」──その様子をカメラが捉えたまるで異空間のような“景色”は、アイスランドの美しい風景を再構築してつくられている氷の島と音の巡礼:アイスランドの音楽エコシステムを巡る ーSounds of Iceland Pt.1

PHOTO: ©南勝久/講談社

『ザ・ファブル』:平和に暮らすミッションを与えられた殺しのプロ

こんなに最強で、美学を感じて、とんでもなく面白いやつを久々に見たと人に言いたくなる作品だ。

伝説の殺し屋“ファブル”は、ボスから1年間誰も殺さずに一般人として普通に生活するよう指令を受けた。素性を隠し、アキラ(佐藤明)として、偽りの妹ヨウコ(佐藤洋子)とともに大阪へ引っ越す。古くからボスと付き合いのあった暴力団「真黒組」の庇護の下、果たして彼は誰も殺すことなく普通に仕事をしたり恋をしたりして、平和に暮らすことができるのか。

プライヴェートでの性格こそ非常に穏やかなアキラだが、6秒以内に相手を殺すよう訓練されたその身体能力は著しく高く、プロとして抜かりなく仕事をこなすというそのギャップがまたシビレる。裏社会の厳しさとコミカルな面の双方を兼ね備えたストーリーで、“殺すことが当たり前”のアキラが考える「普通」の生活から目が離せなくなる。

この作品は2019年、岡田准一主演での実写映画化も決定している。1年を振り返ってみて、パっとすることが何もなかったというスリル不足の人に読んでほしい作品だ。