家電から戦闘機まで、コピー大国と見られることも多い中国ですが、ことUAV(無人機、ドローン)に関しては事情が異なってきているようです。同国の無人機市場はいま、百花繚乱の様を見せつつあります。

無人機大国となった中国

 2018年11月に中国の珠海市で開催された、「中国国際航空宇宙博覧会」。飛行機ファンからは「エアショーチャイナ」や「珠海エアショー」とも呼ばれるこのイベントは、2年に1度開催され、中国の宇宙・航空関係の企業が参加し、会場にはそれら企業の製品である航空機などが数多く展示されます。


「エアショーチャイナ」ロンテックブースにて、XY-280ステルス無人航空機。尾翼に「Blue Falcon」というニックネームらしき文字とロゴマークが見られた(布留川 司撮影)。

 そのなかには、当然ながら中国軍が使う軍用機も含まれており、今回は中国が独自に開発したステルス戦闘機J-20が会場上空で展示飛行を実施。最終日には、パブリックな場では世界初となるウェポン・ベイの開閉まで行って、世界中の軍事関係者を沸かせました。

 しかし、そのような戦闘機よりも筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)が個人的に注目したのは、会場に無数に展示された無人航空機(UAV)の姿です。実は、中国は世界的に見ても無人機の分野では先進国であり、軍用に限らず民間分野でも同国企業の製品がシェアを伸ばしています。空撮用ドローンで有名なDJIは民生品の分野で世界シェアの7割(同社ウェブサイトより)を担っています。また、軍用ではAVICの無人航空機「Wing Loong」が、中東地域を中心に輸出実績を重ね、累計の引き渡し機数が100機を超えたことがニュースとなりました。

 今回の「エアショーチャイナ」でも、UAVは今後の成長分野として扱われているようで、軍や行政機関に配備されたものから、メーカーが開発中のコンセプトモデルまで多数展示されていました。

ステルス無人航空機を自社プロジェクトで開発

 2018年の「エアショーチャイナ」が初展示となったのが、ロンテックのステルス無人航空機「XY-280」です。翼と胴体が一体になったブレンデッド・ウィング・ボディに、レーダー反射を低減するため内側に角度を付けて取り付けられた2枚の垂直尾翼、尾部のエンジンノズルは排熱温度を下げるためか左右に広く横長になっています。これらは、いずれもがアメリカ製のステルス機にも見られる特徴であり、その能力は不明ですが、XY-280も高いステルス性を考慮した機体設計になっていることが分かります。


XY-280の胴体下部にはエンジン用の空気取り入れ口と、開いた状態のウェポン・ベイが見える(布留川 司撮影)。

機体後部の垂直尾翼のあいだには、ステルス機によく見られる横長のエンジンノズルが取り付けられていた(布留川 司撮影)。

すでに中国人民解放軍への納入実績があるというロンテックのXY-180D UAV。F-16戦闘機などの飛行が模擬できるという(布留川 司撮影)。

 ロンテックは、対空ミサイルなどの射撃訓練で標的となる無人航空機を製造している会社で、このXY-280もステルス性を持つ標的を演じるための機体と見られます(現地のスタッフは具体的な用途についての明言をせず)。ただ、攻撃用の無人航空機としての運用も想定しているのか、胴体下部には開閉式のウェポン・ベイがあり、ご丁寧にダミーのミサイル弾頭まで一緒に展示されていました。

 機体は、最大で6Gまでの加重に耐えられるように設計されているとのことで、それが事実ならば戦闘機並みの機動も可能なことになります。また、ロンテックのスタッフがアピールしていたのは、この機体の低コスト性でした。機体は最大で25回のフライトまでしか想定していない使い捨てが前提で、その割り切った運用方法によって、機体構造は簡略化されて価格も低く抑えることができるのでしょう。

 XY-280は、現状ではロンテックが独自に開発を進める自社プロジェクトで、この機体が軍などで使われるかはまだ分かりません。展示されていた機体はイベント用のモックアップではなく、開発中の実物の機体で、今後は1年ほどの期間を掛けてエンジンなどの内部機構を組み込んでいき、2020年以降の初飛行を予定しているそうです。

注目すべきは「機体」ではなく中国の「業界」全体?

 いかにもステルス機っぽい外見のXY-280ですが、それを開発しているロンテックは、もともとはUAVとはまったく関係ない業種の会社でした。同社は2003(平成15)年に創設された、比較的新しい新興系企業で、航空機の翼やテニスラケットなど様々な分野で使用される「複合材料」を成形するための「オートクレーブ」といった工作機械や、軍用のディスプレイ機器を開発製造していました。


「エアショーチャイナ」ロンテックブース(布留川 司撮影)。

 そのような会社が、自社プロジェクトでステルスUAVを開発できる会社となれたのは、同社のスタッフによれば、いくつかの理由があるといいます。まず、無人機の機体に使われる複合材料に関するノウハウが、工作機械を開発製造していたためにあったこと。そして、開発に必要な新しい技術者などの人材を、中国国内から集めることができたことだそうです。

 新規事業への参入は、同社にとっても大変な苦労があったらしいですが、社員の平均年齢が30代と若く、そして中国企業全般に言えることですがスピード重視で勢いがあったためか、ロンテックは標的機用UAVの開発に成功。同社の標的無人航空機「XY-180D」は、アメリカ製のF-16戦闘機やフランス製のミラージュ2000戦闘機、そして低空を飛ぶトマホーク巡航ミサイルなどの飛行を模擬することができ、実際に中国人民解放軍にも採用されているとのことです。

 また、筆者が一番、驚いたのは、「エアショーチャイナ」にはロンテックのように、自社プロジェクトで開発中の無人機航空機が多数展示されていたことです。前述のXY-280も、そのなかのひとつにしかすぎません。

 これらの多くは実機どころか、その前の企画段階のものも多く、実際に機体が作られるかどうかも分かりません。しかし、それだけ多くの会社が異なるプロジェクトを進められること自体が、中国におけるUAV市場の大きさを表わしているともいえます。

 中国製品に関しては、「コピー製品ばかり」という批判的な見方もあり、軍事の分野でも他国の兵器と類似したものが多いのは事実です。しかし、「エアショーチャイナ」で筆者が見た限りでは、UAVに関してはメーカーが独自のコンセプトを構想して、これまでに無い新しい機体が開発されていました。

【写真】東シナ海ではすでに飛んでいる、中国機と見られる無人機


2018年4月10日、東シナ海にて航空自衛隊が撮影した、中国のものと見られる無人機。中国海軍のBZK-005無人偵察機と推定される(画像:防衛省)。