女性客を中心に、店内はあたかも「海外のお洒落な市場」のような賑わいを常時見せているカルディコーヒーファーム。その人気の秘密はどこにあるのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんは今回、顧客を呼び込む同社の独自の工夫や今後を見据えた新しい取り組みを紹介しています。

急成長中の「カルディ」は、グロサリー業態を世に広めたパイオニア

カルディコーヒーファーム」(以下、カルディ)は、国内に421店舗(2018年8月現在)を駅ビル、ショッピングセンター、駅前の路面に展開。コーヒー豆と輸入食品を主に販売し、グロサリー業態を世に広めたパイオニアとも言うべき急成長中のチェーンである。

カルディでは40〜60坪のさほど広くない店舗内で、約1万点というおびただしい数の商品が販売されている。しかも他店ではまず売っていない、独自性が強いこだわりの商品ばかりが売られている。商品の面白さ、珍しさのためインターネットが普及した今日、熱心なユーザーから、SNSで連日のように購入して食べてみた体験談が投稿されている。そうしたファンの口コミが、人気に拍車をかけている。

店舗数は2010年代に入って急増しており、10年に200店を突破して以来、12年に300店、17年に400店を達成している。1年で50店近く増えた10〜12年頃の勢いからはやや鈍化しているものの、8年間で2倍を超える店舗数に増えた、成長率の高さは特筆される。

カルディの店舗は基本として女性スタッフによって運営されており、男性スタッフは非常に珍しい。女性活用によって伸びてきた会社で、従業員数8600人のうち7200人はパートタイマー(18年8月期)であって84%を占める。

女性スタッフを多く採用(カルディHPより)

顧客も20代後半から40代くらいまでの感度の高い女性が多い印象だ。週に2、3度足を運ぶ常連も多い。また、カルディのファンがスタッフに応募して採用されているので、ファッションビルのアパレル店員と同様に、店員が消費者目線で買いたい商品を感覚的に理解している。そこにデータ分析を加味することにより、目を引く売場ができるのだ。各店の仕入れは女性の店長に任されている。

カルディは、キャメル珈琲(本社・東京都世田谷区)という会社が経営しており、創業は1977年。尾田信夫社長が世田谷区代田にて、コーヒー豆を喫茶店に卸す焙煎業として事業を始めた。年商は17年8月期で893億円となっている。

1986年、世田谷区内の京王線下高井戸駅前にある市場の一角で、小売店舗の運営を開始。様々な商品が所狭しと並び、商品を眺めているだけで好奇心が沸いてくるような活気のある店を目指した。しばしば、「路地裏の宝探し」と称される店の特徴は、当初より目標としていたものだ。

コーヒーサービス誕生秘話

カルディの店名は、アフリカ大陸東部のエチオピアの高地で、飼っていたヤギが興奮して走り回っているのをいぶかしく思ったヤギ使いのカルディが原因を調べたところ、赤い木の実を食べたことを発見した。この赤い木の実こそがコーヒーの豆の原料であり、コーヒー産業の起源となったという、伝承に由来する。カルディの手提げ紙袋のデザインは、かかる伝承を表現したものである。

伝承を元にしたデザインの紙袋(カルディHPより)

80年代は従来のスーパー、家電量販など量販店による画一的で無機質な売場のあり方に異議を唱えた、全く新しいタイプの複合型チェーン店が相次いで生まれている。たとえば、80年にはドン・キホーテが東京都府中市に誕生、86年にはヴィレッジヴァンガードが名古屋で創業、87年にはロフトの前身であるシブヤ西武ロフト館が開業している。カルディはそういった高度成長期以降のモノが行き渡り成熟した日本の消費者に、これまでになかった考え方、品揃えでライフスタイル提案を行ってきた企業の1つだ。

92年にオープンした下北沢店では、営業不振を打開するため、夏の盛りに来店した顧客におもてなしの気持ちを込めてアイスコーヒー無料サービスをスタート。これが好評を博し、1日の売上が2ヶ月で2倍以上に急増。店頭で顧客に各コップに注いだコーヒーを渡して店内に勧誘する、「コーヒーサービス」というカルディ独特のサービスが生まれた。

コーヒーサービス(カルディHPより)

顧客は紙コップを持っている間は店内をぶらついているので、滞留時間が長くなる。そこで1品買うつもりが、2品、3品とついつい買い足してしまう人も多い。目当ての商品を買ったらレジに直行する顧客は極めてまれだ。コーヒーが無料で飲めるため、喫茶代を得した気分になり、財布の紐が緩んで何か買ってしまう人も多い。つまり潜在的な顧客を真の顧客に変え、客単価を上げる効果を持っている。自社で販売するコーヒー豆の試飲にも当然なっており、常時約30種類と豊富に揃ったコーヒー豆の販売促進にも役立っている。

コーヒーサービスと共に目を引くのは、西洋の図書館をイメージした木工の店舗インテリアである。照明を抑えた、落ち着いた雰囲気で商品が選べるようになっている。取って置きの目玉商品をわざと奥のほうのわかりにくい場所に陳列したり、人の目線に触れにくい棚の上のほうや下のほうに置いたりすることもあるようだ。頻繁に陳列を変更し、商品を入れ替えて常に店の鮮度を保っている。

カルディのインテリア例(三立木工HPより)

冷蔵・冷凍のケースは最低限にとどめ、常温で陳列、保存できる商品を意識的に出しているのもユニークだ。今日のスーパー、コンビニ、ドラッグストアの食品売場がこぞってチルドや冷凍の食品比率を高めているのに対して、独自の路線を貫いている。鮮度管理の技術を要する生鮮食品も置かない。それで電気代を節約でき、商品管理が楽で、経験の少ない従業員でも現場が回せて、スピーディな出店が可能となるメリットがある。

カルディ店舗の一例(撮影:長浜淳之介)

駅ビルのテナントとして入居したのは、97年のマルイファミリー溝口(川崎市高津区)が初進出でカルディ快進撃の切っ掛けとなった。2003年には、初の大型ショッピングモールへの出店を、イオンモール熱田(名古屋市熱田区)にて果たしている。

商品の仕入れに関しては、96年に幅広い輸入商品を扱えるよう、オーバーシーズという食品輸入商社を設立。99年には、オーバーシーズ・ヴィナルテを設立して酒類の直輸入を始めた。さらには、2006年には日本国内の食品を取り扱う、もへじを設立。もへじでは、伝統のおいしさと製法、お手頃価格の実現に努めている。国内外のメーカーと提携したオリジナルの商品も多く、カルディらしさが表現されている。

客を引き寄せる巧みな商品展開

カルディでは、世界を小旅行するようなワクワク感のある店づくりを目指しており、季節を意識した企画によって投入される商品も多い。

現在は11月1日から12月25日までの予定で、「クリスマスマーケット」をテーマとした約250種もの限定商品を随時投入中だ。商品例としては、ヨーロッパで楽しまれている温めて飲む、ワインにフルーツやスパイスを加えたほんのり甘いホットカクテルである「グリューワイン」を、オリジナルデザインのカップとセットで企画。11月6日には赤ワインとネイビーの陶器のセット、12月1日からは白ワインと白の陶器のセット(各250ml、753円税込〜以下同〜)を、それぞれ販売している。

クリスマスギフトティン(カルディHPより)

また、八角形のメルヘンチックな缶箱に入った「クリスマスギフトティン」(1,998円)を11月下旬より発売。缶の中には8つの小箱が入っており、チョコレート、クッキー、マシュマロなど7種類の菓子が楽しめるというものだ。大切な人へのギフトだけでなく、自分へのご褒美の用途での購入も多い。

また、19年の新春初売り日には、コーヒー、食品、ワインの福袋を発売する。価格は1,700〜6,000円。

この他、12月中はパーティーシーズンに向けた「チーズ&ミート特集」や、年越しそばや我が家流の年末年始を過ごしたい人向けの和の食品を集めた「歳末 おいしいものに目がない特集」が同時並行で行われている。

力を入れているチーズ、ハム・ソーセージ

「チーズ&ミート特集」では、七面鳥の肉厚な下もも肉を骨付きのままスモークした、自然解凍で食べられる冷凍食品「スモークターキーレッグ」や、カマンベールチーズにリンゴのお酒カルヴァドスを混ぜ込んで製造した「プティ・カマンベール・オ・カルヴァドス」などを販売。

一方の「歳末 おいしいものに目がない特集」では、八丁味噌の老舗・カクキューと讃岐うどんの老舗・石丸製麺がタッグを組んだ「もへじ 半生味噌煮込みうどん」、秋田の燻製漬物いぶりがっこをマヨネーズで和えた素朴で懐かしい味わい「オリジナル いぶりがっこマヨ ポテトチップス」などを販売している。

鍋に使う、鍋つゆも一味違う商品が売られている。一番人気は昨年約40万袋を販売したという「もへじ 塩レモン鍋つゆ」2〜3人前で、昨年はテレビ番組でも取り上げられ、非常に売れた商品だ。これは、さわやかなレモンの酸味と香りが素材の味を引き立てる、チキンベースの鍋つゆで、薄切りの豚肉または鶏もも肉などと、お好みの野菜などの具材を煮込んで食べる。さっぱりしているので量が食べられ、忘年会、新年会の定番鍋に飽きた時などに使ってみたいといった、実際に購入した人の感想が多いようだ。

ハリッサ風鍋の素(カルディHPより)

新商品としては、19年1月には、今年のトレンド鍋である激辛“しびれ鍋”に対応して、「オリジナル ハリッサ風鍋の素」と「オリジナル 八角シナモン香る胡麻坦々鍋の素」(共に213円)を販売。

「ハリッサ風鍋の素」は、地中海沿岸生まれの唐辛子をベースにした調味料ハリッサの風味で、エキゾチックなタジン鍋がイメージされている。好きな具材と水を加えて煮込むだけの簡便さをアピール。

「八角シナモン香る胡麻坦々鍋の素」は、味噌、練り胡麻、ピーナッツのクリーミーな味をベースに、豆板醤、山椒で辛味を付けた坦々鍋スープだが、八角とシナモンのほのかな香りが差別化のポイントである。

この他、既存の商品では火鍋の素、付属のイサーンソースを付けると激辛になるタイ風ハーブ鍋セットなども、手軽に本場の味を再現できる商品とのことだ。

冷凍食品では、近年進化が目覚ましい冷凍チャーハンも、カルディではトムヤムチャーハン、ガパオチャーハン、ルーローチャーハンと、タイや台湾といったアジアンテイストに振った独自の展開を行っている。

カルディの「新たな挑戦」

このようにユニークな商品を連発しているカルディであるが、キャメル珈琲は新たな挑戦として、ぶどうの栽培からワインの醸造、販売までを一貫して行う事業を目指し、2014年4月に北海道余市町にて、農業法人「株式会社キャメルファーム」を設立した。余市はニッカウヰスキー創業の地として知られるが、フランスのシャンパーニュ地方とほぼ同じ緯度、日照時間でワイン用のぶどうの栽培地にも適している。11年には国から「北のフルーツ王国よいちワイン特区」に認定されている。

北海道余市町、キャメルファームのワイナリー(カルディHPより)

キャメルファームは、30年にわたりワイン用ぶどうの栽培を行い、高い評価を受けてきた藤本農園の技術を受け継いでスタート。17年9月にはワイナリーの竣工式を行い、国際エノログ(ワイン醸造技術者)連盟のリカルド・コタレッラ会長に全面協力を仰いで醸造を開始した。

同社ホームページには現在、750mlのロゼ「レジェント・ロゼ」2,600本と、白スパークリング「ケルナー スパークリング」7,000本が商品リストに掲載されているが、今後充実していくだろう。チーズやハムの製造との連携も含めて、どのように展開していくのか。とても楽しみだ。

このように順調に発展しているカルディではあるが、死角はないのだろうか。

キャメル珈琲は尾田社長の思いが強く反映された会社で、今の水準を保って商品などの企画のジャッジができる後継者が果たしているのだろうかという不安がある。

カルディは成長力ある競合も少ない業態だが、無限に出し続けるわけにもいかない。同社では2000年以降、飲食店にチャレンジしており、カフェ、ワインバーなど国内12店を展開しているが、もう1つブレイクしきれていない。飲食店でなくてもいいが、もう1本太い柱となる事業を育てるか、海外出店にも注力するか。新たな成長モデルが提示できればベストなのではないだろうか。

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