「コーヒー1杯200円」のベローチェが、顧客満足度調査で5年ぶりの1位となった。高評価の理由は価格の安さだけではない。リピート志向を表す「ロイヤルティ」で初の1位を記録し、「愛される店」に変わっているからだ。なにが変わったのか。日本生産性本部の小倉高宏氏が解説する――。

■5年ぶりに顧客満足1位

日本生産性本部・サービス産業生産性協議会(SPRNIG)は、主要なサービス業約400社を対象とした、顧客満足度に関する消費者評価の総合調査「日本版顧客満足度指数(JCSI:Japanese Customer Satisfaction Index)」を毎年、実施している。2018年4月から5月にかけて、カフェ7社について、1社当たり約300人の実利用者(半年以内に2回以上利用)に回答を求めた。

調査では「顧客期待」「知覚品質」「知覚価値」「顧客満足」「推奨意向」「ロイヤルティ」という6つの指標について順位を出している。このうち金額と手間暇のコストパフォーマンスを意味する指標「知覚価値」では、カフェ・ベローチェ(以下:ベローチェ)が2013年度から6年連続で1位となっている。

また「顧客満足」(以下:満足度)では、ドトールが2015〜2017年度に3連覇していたが、2018年度はベローチェが5年ぶりに1位となった。

ベローチェの満足度は5年ぶりに1位(画像=小倉高宏)

■「リピートしたい」カフェになった

満足度だけではない。ベローチェはリピート意向をあらわす「ロイヤルティ」で、初めて1位となった。満足度が1位だった2013年度でさえ、ベローチェのロイヤルティは4位にとどまっていた。“過去”の利用経験に基づく満足度と“未来”の利用意向をあらわすロイヤルティで、ベローチェが同時に1位になったのは今回が初めてである。

ベローチェはロイヤルティで初の1位に(画像=小倉高宏)

このロイヤルティを点数化する際、JCSIでは「関連購買」「第一候補」「頻度拡大」「持続期間」という4つの評価を合成して点数を算出している。ベローチェの4設問での評価を分析してみると、「これまでよりも幅広い目的で利用したい」という「関連購買」と「今までより頻繁に利用したい」という「頻度拡大」で1位となっている。また、「次回のカフェ利用では第一候補にしたい」という「第一候補」と、「これからも利用し続けたい」という「持続期間」が2位である。これらロイヤルティの4設問すべてで1〜2位にランクインしているのはベローチェのみだ。

ベローチェはロイヤルティで1〜2位の高評価(画像=小倉高宏)

■「利便性」が高く評価

合計で約2000人のカフェ利用客にサービス品質について聞いた結果から、特徴的な傾向をみてみよう(7段階評価)。「交通の便」と「金銭的魅力」の両面で優れているのがベローチェである。ホットのブレンドコーヒーを200円から提供していて、アクセス至便な立地にある点が評価されているのだ。

また「会計」が速やかで、店舗の居心地が良いことも評価されている。レジ精算が迅速なので、早く座席に座ることができ、混雑レベルや近隣客との距離感も気にならない。店舗にアクセスしやすく、財布に優しく、レジ精算がスムーズで、座席ではゆっくりできる。ベローチェにはそうした「利便性」があるのだ。

(左)交通の便と金銭的魅力、(右)会計の速やかさと店舗の快適性(画像=小倉高宏)

■「分煙がしっかりできている」

カフェの「利用理由」や「優れている点、良くなっていると感じた点」に関して、自由コメントで「タバコ」「喫煙」「分煙」「におい」といったキーワードを記入した人数は、7社のなかでベローチェが最も多い。

喫煙者は「タバコを吸えること」が、非喫煙者は「煙や臭いを気にしなくてよいこと」が、ベローチェの重要な利用動機になっているといえる。自由意見には「喫煙スペースがある程度広く確保されている」「喫煙席があり、その席数が多い」「喫煙者に優しい」 といった喫煙者のコメントと、「分煙がしっかりできている」「全面禁煙の店舗があること」「喫煙コーナーが完全に仕切られているのでニオイも全く感じない」「喫煙コーナーが完全に分離したのが気に入ってます」といった非喫煙者のコメントが寄せられた。喫煙者・非喫煙者の意見がトレードオフになっている。

「タバコ」「喫煙」などと記入した人数はベローチェが最も多い(画像=小倉高宏)

■喫煙者と非喫煙者のすみ分けに成功

健康志向の高まりや、タバコ増税などにより、喫煙率は長期的に下落の一途で、2018年度はついに男性は3割、女性は1割を下回った。特に2000年以降は5年単位で10%近い減少率である。

非喫煙者が増加すれば、飲食店には完全禁煙または分煙の徹底が求められる。一方、愛煙家にとってカフェは貴重な喫煙スペースであり、一部の飲食店にとっても喫煙客は重要な顧客である。

このような環境変化のなか、ベローチェの回答者のコメントからは、気兼ねなく吸える喫煙者層と、分煙の徹底により煙や臭いを気にせず利用できる非喫煙者層のすみ分けができていることが読みとれる。ベローチェの満足度やロイヤルティが大きく向上した理由には、「喫煙」「分煙」という“タバコ”に関する要因が影響しているようである。

■フード類を強化した成果が出ている

ベローチェのサービス品質設問を前年度評価と比較すると、商品やサービスで評価を上げたものが多い。最も向上した項目は「店舗の快適性(混雑)」で、次いで「新しいメニューやサービスの取り入れ」「セールやイベント、キャンペーンの魅力」である。

ベローチェの「商品力」といえば「コーヒーの安さ」というイメージがあるが、ベローチェが強化しているホットドッグやモーニングセットといったフード類が好評なのだ。

回答者の自由コメントには「メニューが増えている」「新しいメニューが美味しかった」「フードメニューが以前より美味しい」「以前より食べ物の種類が増えて良い」「朝のメニューが増えたので、モーニング利用にもいい」「サンドイッチが値段の割に美味しい」「ホットチキンサンドやパスタがある店舗ができた」「チェダーのホットドックが食べたい」といった、メニューの拡充を称賛する声が多数寄せられている。

ロイヤルティが初の1位になったベローチェが「幅広い目的で利用したい」という「関連購買」で高く評価された要因として、こうしたフードの充実が奏功していると考えられる。

■ドリンク3杯でネコのフィギュア

ベローチェは「セールやイベント、キャンペーンが魅力的」の評価が向上している。回答者からは「ネコのおまけがかわいいです」「黒猫のフィギュアのプレゼントがあった」「ドリンク3杯分のレシートでふちねこのプレゼントは良い」「ふちねこ、集めるために、毎日、通った」「ふちねこにつられました」「ネコのかわいいおまけがあれば、また利用します!」といったコメントが散見される。これらの回答者はいずれも女性である。

2018年2月1日〜3月下旬に行われた「ふちねこキャンペーン2018」(画像=シャノアールプレスリリースより)

同社のプレスリリースには「ふちねことは、社名の『シャノアール」(フランス語で“黒猫”の意味)にちなんだ黒猫をモチーフにしたコップのふちにかけるフィギュアで、第3弾となる今年のふちねこは個性溢れる5種類』」「シャノアールグループのドリンク3杯分のレシートのご提示で、ふちねこ1匹をプレゼントいたします」と記載されている。

ふちねこ1匹をドリンク3杯で交換ということは、5種類すべてを受け取るには15杯分のリピート利用が必要になる。ベローチェのロイヤルティの「頻度拡大」が1位になっている要因には、女性心理をくすぐり、足しげく通わせるキャンペーンの効果も大きいと考えられる。

■顧客参加型の「チョコボールコラボ」

2018年1月9日〜3月31日に販売された「ホットチョコレートwithチョコボール」(画像=シャノアールプレスリリースより)

また「チョコボールとのコラボが良かった」「チョコボールのタイアップドリンクはおもしろかったし、美味しかった」といったコメントも寄せられている。

同社のプレスリリースには「クーベルチュールチョコレートを使用し、店内で抽出したコーヒーを隠し味に加えたチョコレートドリンクです。横に添えたチョコボールとチョコフレークを入れて溶かして頂くと、より美味しくお楽しみいただけます。お客様に最後の仕上げ(チョコボールを溶かす)をして味わいを完成して頂く商品です」と説明されている。

顧客が足を運んでネコのフィギュアを集めたり、チョコボールやチョコフレークを溶かしたりといったオリジナリティーある企画には、顧客参加型の“遊び心”も感じさせる。ベローチェの「ふちねこ」や「チョコボール」をSNSでキーワード検索すると、大量の画像が投稿されており、クチコミの効果も大きそうである。

■フリーWi‐Fiの登録が簡単

カフェ7社の自由意見で「Wi−Fi」のキーワードが最も多く記入されたのがベローチェである。記入内容をみると「無料のWi−Fiが利用できるようになった」「Wi−Fiが使える。静か」「Wi−Fiあり。充電できる店だった」といったコメントが並ぶ。ベローチェは、2017年11月から、Free Wi−Fiサービスを開始している。

ベローチェのWi−Fiで驚くべきは、その手続きの簡単さである。登録時にメール送信の必要がなく、しかも登録すべき項目は言語・性別・生年月日だけ。「velocewifi」というパスワードを入力すれば、1接続で最長60分、1日あたり6回まで利用が可能であり、ベローチェの他の店舗でも再登録を行わずに利用できる。

また、約170店舗のうち、約100店舗を東京都内にドミナント出店するベローチェは、2020年の東京オリンピック開催による訪日外国人の利用増加を想定し、12言語の登録画面も設けている。鉄道・バス・飛行機・空港などの交通機関や、コンビニ等の商業施設では、利用するたびに、メールアドレスの入力が必要なフリーWi−Fiが多いなか、ベローチェのような手間いらずのWi−Fiは便利である。

多目的の「関連購買」や「頻度拡大」といったロイヤルティ評価の向上は、ドリンク・フードといった「モノ」のみならず、Wi−Fi利用といった「コト」も一因となっている。

■「低価格コーヒー+モノ+コト」が奏功

「飲み物がリーズナブル、Wi−Fiが使える、黒猫のキャラクターの小物がレシートで引き換えられるなど、飽きさせない工夫をしている、たまに新しいメニューも出てくる(埼玉在住・50代・女性)」という利用者コメントがある。

これまでの強みであったコーヒーの安さや完全分煙の強化に加え、フードメニューの充実、オリジナリティーある販促企画、使い勝手の良いフリーWi−Fiといった、商品(モノ)とサービス(コト)の両面での取り組みがベローチェは評価されているのだ。

30業種以上を調査しているJCSIのなかで、上位から下位までの得点差が極めて小さいのがカフェである。顧客満足とロイヤルティの1位を連覇できるか、今後のベローチェに注目したい。

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小倉 高宏(こくら・たかひろ)
日本生産性本部 主任経営コンサルタント
コープこうべに入社1年目で営業所トップ成績、2年目で全営業所およそ1000人中トップ成績を誇ったカリスマ営業マン。2008年から現職。小売・サービス業の現場に明るく、市場分析や経営指導、従業員育成を行っている。関西大学社会学部卒、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(経営管理修士:MBA)。著書に『経営コンサルティング・ノウハウ 5 マーケティング』(中央経済社)。

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(日本生産性本部 主任経営コンサルタント 小倉 高宏 写真=iStock.com)