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 セクハラ、わいせつ、児童ポルノなど多くの性暴力がはびこる日本社会で、これまで見過ごされてきた性暴力がある。障がい者へのそれだ。

【写真】自民党議員の勉強会の様子

 障がい者の性暴力被害について研究を続けている東洋大学の岩田千亜紀助教は、

「障がいを持った人たちが性暴力に遭っている統計はまったくなかった状況でした。障がいがある人は性被害に遭うことはないと思われていた」

 と勝手な思い込みの存在を示したうえで、

「一般的に性被害の場合、明らかに加害者のほうが悪いのに“あなたにも落ち度があったんでしょ”と言われてしまう。公にされたくない、恥ずかしいなどといった背景もあり、声を上げにくいんです。障がいのある人も同じです」

 と指摘する。

発達障がいの人たちはだまされやすい

 岩田氏は性暴力撲滅を啓発するNPO法人『しあわせなみだ』とともに『大人の発達障害当事者のためのピアサポートNecco』(東京都新宿区)の協力のもと今年3月、発達障がい者への性暴力調査を実施した。

「望まない人に性的な部分を触られる」「望まない人にキスされる」などという性暴力を、32人中23人が経験していたこと、そのうち11人は複数の性暴力を経験していたことが明らかになった。

 Neccoの金子麿矢子さんは、

「発達障がいの人たちはまじめで疑うことを知らない人が多いため、だまされやすいんです。もともと自己肯定感が低い傾向があるので、被害に遭っても“私が悪かった”と泣き寝入りする人が少なくない」

 言葉を額面どおりに受け取るタイプが多く、うちにいらっしゃいと誘われれば行く。何もしないからね、と言われればされないと思う。結果、何かあったとしても、加害者側は“相手からうちに来た”と言い逃れができる。“絶対にこのことは内緒だよ”と言われると、本当に言わない。

 前出・金子さんは、発達障がい者の傾向をこのように明かす。

 障がい者への性犯罪に詳しい弁護士の杉浦ひとみ氏は、

「障がいのある方は被害に遭いやすい」

 と指摘し、その理由を、

「抵抗ができないことや、被害を伝えられなかったり、周囲に信じてもらえなかったり。裁判でもうまく証言ができないため、検察が加害者を起訴するのが難しい現実がある」

 さらに卑劣なことが障がい者の周囲では起きることがあるという。前出・杉浦氏は、

「障がいの特性を踏まえたうえで、子どもと親の苦労をわかっていて性暴力に及ぶ人がいます。例えば、医療・福祉関係者、教員らです。20年ほど前、病院の男性看護師から“性教育を教えてあげる”と知的障がいのある当時16歳の少女が関係を迫られたケースがあります」

 とおぞましい現実を伝える。

 少女は看護師から1年以上も身体や陰部を触られたり、セックスを強要されていた。

「“誰にも言っちゃだめ”と口止めされたそうです。障がい者は健常者に比べ子どものころから1対1で人と付き合うことが、ほとんどありません。そこで“自分と対等に付き合ってくれる”と思うようになり、行為が嫌でも誰にも相談することができなかったそうです」(前出・同)

 事件は少女が母親に被害を訴えたことで発覚した。しかし、世間は「恋愛関係だったのでは」「優しくしてもらってたんでしょ」などと心ない陰口をたたいた。

 少女はその後、統合失調症を併発、母親は“娘を助けられなかった”と自らを責め、家族関係が悪くなったという。

表ざたにならない性暴力がはびこっている

 福祉関係者がそんなことをするはずがないという思い込みは、根拠のない先入観にすぎない。身体障がい者、脳性まひの人も泣き寝入りに追い込まれるケースがあるという。

「身体が不自由な人は、例えば胸を触られて嫌な思いをしても、抵抗できないですよね。視覚障がいの場合、触られても逃げられてしまったりする。加害者がヘルパーだったりする場合、訴えた後に福祉サービスが受けられなくなるのでは、と考えて言い出せない。知的障がいの場合は、被害の認識があいまいなことも」(前出・同)

 表ざたにならない性暴力がはびこり、連鎖が止まらなくなる。

 自民党は、障がい者に対する性暴力問題を考えるプロジェクトチーム(会長=赤澤亮正衆院議員)を発足。党本部で7日に第1回勉強会を開いた。司会進行を務めた同党衆院議員の宮路拓馬座長は、

「それが性犯罪だと理解できても、そこから逃れるための知識や手段は圧倒的に少なく不利な状況にあります」

 と障がい者の置かれた立場に寄り添う姿勢を示し、

「これは超党派で考える問題です。刑法の見直しや法改正となれば超党派で取り組み、全会一致を目指したいと思っている。同時に世論への訴えかけも重要だと思っています」

 アダルトビデオなど性産業問題に詳しい同党の渡嘉敷奈緒美衆院議員は、

「言葉巧みに誘い、障がい者を性風俗やアダルトビデオなどで働かせるケースはあります。中には障がい者を雇用して信頼関係を作り、障がい者が“いいところに就職できてよかった”と喜んだところで性的な関係を強要したり、性産業に入れたり、という話も聞いたことがあります」

 と悪党が仕掛ける手口を明らかにした。

社会として取り組む課題は山積み

 被害を食い止めるためには、加害者はきちんと裁かれることが、とりもなおさず必要だ。

 しあわせなみだの中野宏美理事長は現状の問題点を、

「障がい者の相談窓口が限られており、相談につながったとしても事件化は困難」

 と端的にとらえ、

「刑法の性犯罪被害者の概念に障がい者を入れることを求めています。性被害は障がいのあるなしにかかわらず誰にでも起こりうること。“自分事”として受け止めてほしい」

 と世論の広がりを期待する。

 前出・岩田助教も、刑法の見直しと同時に、性教育の徹底を訴える。

「諸外国の調査では、正しい性知識を持っている障がい者が性被害に遭う割合は少なくなっている。日本は健常者を含めて性教育が遅れているので世界的なスタンダードにそって子どものころから性教育をきちんとすることが必要。

 もうひとつは、障がい者を孤立させない社会をつくること。孤立しなければ、(甘い言葉の異性に)ついていかなくなる。障がい者が被害に遭った場合に、的確な支援ができるよう整備も必要です」

 NPO法人『ファザーリング・ジャパン』の障がい児を支援する「メインマンプロジェクト」のリーダーで、発達障がいの娘を持つ橋謙太氏は、

「こういう行為は恥ずかしいこと、いけないこと、などとひとつひとつ知識を増やしていくことで被害を減らしていきます。嫌なことをされたときにNOと言えることを学べば繰り返される被害を防ぐことにもつながります」

 と当事者の学びに期待し、

「同時に地域に障がいをオープンにすることも大切。見守る環境をつくってもらうと同時に、理解をしてもらえるように働きかけることです」

 と積極的な公開姿勢を提案する。

 障がい者の性暴力被害をなくすために、社会として取り組むべき課題は山積している。まず、実態を知るべきだ。