プラセボ効果に関わる脳領域。(画像:理化学研究所発表資料より)

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 偽薬(プラセボ)効果というものがある。その詳細は後述するが、この現象の発現機序に、前頭前皮質のミューオピオイド受容体が関与しているという事実が解明された。

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理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター生体機能動態イメージング研究ユニットのジェン・イン リサーチアソシエイト、崔翼龍ユニットリーダーと健康・病態科学研究チームの渡辺恭良チームリーダーらの国際共同研究グループが研究に携わった。

 さて、プラセボ効果というのは、薬理作用が本来ないはずの物質(ものは何でも良い。塩でも砂糖でもただの水でもプラセボ効果を発現させることはできる)が、薬と似たような効果を現すという現象の総称である。

 また近年の研究で、脳のどの部分、あるいはどの伝達物質がプラセボ効果に関与しているかは多少分かるようになってきてはいる。意識を伴う「期待感」や、あるいはパブロフ条件付けによって発生すると考えられているが、その真の活性機序や生理学的基盤は謎に包まれている。

 さて、今回の研究では、慢性的な神経障害性疼痛のモデルラットによってプラセボ鎮静効果の際限が試みられた。

 ラットに4日間鎮痛薬を与え、5日目にはプラセボとして生理食塩水を与えたところ、個体によっては鎮痛効果が生じたものがあった。これはパブロフの条件付けによってプラセボ効果が活性化したことを示している。

 さて次に、プラセボ効果を示した個体と示さなかった個体双方の脳をPETという技法で撮影し、脳の活動領域を比較した。すると、プラセボ効果を示したラットは、前頭前皮質内側部(mPFC)において神経活動が認められた。

 そこでmPFCを薬剤によって局所的に破壊して同じ条件付けを行ったところ、プラセボ効果は生じなくなった。また、ミューオピオイド受容体の拮抗阻害薬の投与によっても、プラセボ効果の遮断が起こった。

 こうして初めて、プラセボ効果にmPFCのミューオピオイド受容体が関与していることが実証されたのである。

 研究の詳細は、米国の科学雑誌『NeuroImage』のオンライン版に掲載されている。