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ムダ遣いをしてしまう、行動がのろい、片づけられない……。そんな苦手を克服するにはどうすればいいのか。今回、9つのテーマに応じて、各界のプロにアドバイスをもとめた。第3回は「人前で緊張しやすい」について――。(第3回、全9回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年7月16日号)の掲載記事を再編集したものです。

■アガり対策をすれば、失敗も怖くない

初めての体験に緊張するのは自然な反応だ。例えば、未知の森に立ち入るとしよう。何かあったとき、すぐに反応して逃げ出せるように、人の体は体温や心拍数を上げて準備する。そのように、太古から人類の体内に刻み込まれているのだ。

さらに、人間の感情は、砂山にたらされた水のようなところがある。最初はどの道をたどって流れるかわからないが、1度水が流れると、2度目以降も同じ道筋を流れる。同様に、初めて人前でスピーチをしたときに緊張すると、2回目以降のスピーチでも緊張してしまう。

しかし、「緊張する」と「興奮する」は、心拍数が上がって体が震えるという同じ生理現象。本人の解釈が違うだけだ。だから、ドキドキしているのは、「緊張しているから」ではなく「ワクワクして興奮しているから」という、ポジティブなラベルに貼りかえるとよい。

また、緊張の克服には、慣れが効果的だ。ただ、必ずしも実体験を積む必要はない。脳は、実体験と想像の区別がつかないからだ。例えば、スピーチを行う場合、台本を作り、何度も練習してイメージトレーニングをすれば、実体験を重ねるのと同じ効果がある。私も人前で講演することが多いが、台本を作り何度も練習する。予期せぬ質問をされたり、パソコンの調子が悪くてプレゼン資料が使えなかったりという失敗するケースもイメージする。

高い服を着るのも効果がある。人間は、身に着けるものも含めて自己という認識を持つので、安い服を着ていると、自分がつまらない人間のように感じられておどおどしてしまう。一方、高級なものを身に着ければ、それに見合う人間になろうという意識が強められ、堂々とふるまうことができるようになるのだ。

香りの効果もあなどれない。嗅覚が脳に与える影響は生理反応なので非常に強い。ローズマリーやラベンダーなどの香りをお守りにしみこませておき、舞台に上がる前や、スピーチ中に動揺してしまったときなどに香りを嗅ぐと、一発で気分を落ち着かせることができる。

そしてスピーチが始まったら、最前列にいる誰か1人だけに向けて話すとよい。人は大勢から見つめられると、脅威を感じて緊張してしまう。まずは誰か1人に向かって話し出し、少し落ち着いてきたらその両脇にいる人も含めた3人に向かって話す。さらに緊張が解けてきたら、会場全体にまでスピーチを聞かせる相手を広げていく。もし緊張が解けなければ、最初から最後まで最前列の1人に向けて話せばいい。

それでも、もしスピーチ中に何か失敗してしまったら……。失敗を脳内で実況中継すると、パニックに陥らず、落ち着いて対処するのに役立つ。幽体離脱したつもりで自分の状況を観察し、「焦っているようです。また時計に目をやっています」など、情景を頭の中で言葉にしてみる。自分を客観視すると、冷静になることができる。

▼人前で緊張しなくなる6つの対策
「緊張は自然な現象。事前に対策を立て繰り返し実践し、慣れるのみ!」
(1)緊張ではなく興奮と自分に言い聞かせる
(2)台本を作り、イメトレする
(3)高い服を着る
(4)“香り”をお守りにしみこませて嗅ぐ
(5)最前列の1人に向けて話す
(6)失敗を実況中継する
※内藤氏への取材をもとに編集部作成

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内藤誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
立正大学客員教授。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了。『人前で緊張しない人はウラで「ズルいこと」やっていた』など、心理学を応用したビジネススキルに関する著書多数。

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(心理学者 内藤 誼人 構成=大井明子 写真=iStock.com)