東横線を走る西武の電車(右)。相互直通運転で便利になった一方、遅れが他社線にまで影響しやすくなった(筆者撮影)

首都圏では近年、新たな直通ルートが続々と開業し、乗り換えなしで長距離移動ができると、利便性が向上したかに喧伝されている。

しかし、本当のところはどうなのだろうか?

電車が以前にも増して混雑する、始発駅だったものが中間駅となってしまったので、確実に座れなくなった、縁もゆかりもなかった路線の事故の影響を受ける、などなど否定的な意見が述べられることもある。今回は利便性向上の一方で、「残念な状況」となっている事項を利用者の立場から見ていきたい。

直通で便利にはなったけれど…

1)東武東上線・西武池袋線―東京メトロ副都心線―東急東横線―みなとみらい線

2013年に東京メトロ副都心線を介して東武東上線、西武池袋線、東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線の5社が乗り入れ運転を始めるという複雑極まりない直通ルートが開業した。東武・西武沿線から渋谷や横浜へ、東急東横線沿線からダイレクトに新宿、池袋へ行けるという利便性向上が図られたものの、不満の声もよく耳にする。


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そのひとつは、渋谷駅が不便でわかりにくくなったというものだ。かつては地上2階にあった東横線ホームは、地下深くに移設された。その結果、東横線から山手線、銀座線への乗り換えは以前よりも時間がかかり、かえって不便になった。

また、始発駅から中間駅へと変わったため、わずかな始発電車をのぞいて渋谷駅からの着席が困難になったとも聞いている。渋谷駅での乗り換えを極力させないようにとの意図が見え隠れするのだが、渋谷駅での乗り換えを避けようとする人は多いわけではない。列車ダイヤの乱れが多く、電車の行き先にも慣れない人も増えて、混乱に拍車をかけているのではないだろうか。

また直通列車ができたとはいえ、ほとんどがロングシートの通勤型車両なので、長時間の乗車は苦痛に思う人が多いと思われる。土休日には、有料座席指定の「Sトレイン」が、西武線―副都心線―東横線―みなとみらい線と駆け抜け、クロスシート車での旅は保証されるけれど、やはり特急形車両には及ばない。4社直通運転のため料金は割高でその面でも魅力的とは言い難い。「残念なルート」との表現に賛同する人は結構いるようだ。

2)東急東横線―東京メトロ日比谷線

東急東横線と東京メトロ日比谷線の直通運転は、1964年に始まった。長らく東横線日吉駅まで15分間隔で運転されていたが、2001年の東横特急運転開始時に30分間隔となり、近年は東横線の菊名駅まで直通運転を行っていた。東横沿線から六本木や銀座へ向かう時に重宝する電車だったが、2013年の東横線と副都心線の直通運転開始と引き換えに日比谷線との直通運転は廃止された。ほぼ半世紀続いた歴史に終止符を打ったのである。


日比谷線南千住駅の中目黒行き車両(筆者撮影)

副都心線直通を優先したために、日比谷線直通列車が入りこむ余裕がなくなったこと、日比谷線の車両は18mの3扉車(一部5扉車)だったので、ホームドアを設置するとドアの位置がずれてしまい妨げとなるといった理由からであった。

しかし、日比谷線用の車両も20mの4扉車に移行しつつあるので、置き換えが完了した暁には、直通運転を再開してもよさそうなものである。特に銀座など日比谷線沿線から東横線沿線に向かう時には、中目黒駅から混んだ電車に乗り換えなければならず、ラッシュ時でなくても苦痛である。

現状では、残念な状況と思っている人も少なくないのではあるまいか。

あと1駅行ってほしい…

3)東京メトロ半蔵門線―東武伊勢崎線

東京メトロ半蔵門線は、渋谷駅で東急田園都市線、押上駅で東武伊勢崎線とつながり、相互直通運転をしている。このうち今回取り上げたいのは、押上駅での接続である。


曳舟駅で折り返す半蔵門線の電車はない(筆者撮影)

もともと押上駅止まりの電車が多いうえ、事故などで直通運転を中止する場合、半蔵門線の電車は同駅で折り返すので、押上駅と曳舟駅の間は電車が走らないことになる。東武線へ直通したい乗客は、押上駅から近くのとうきょうスカイツリー駅まで数分以上かけて歩くしか方法がない。

こうした場合、東京メトロでは、大手町駅で千代田線に乗り換えて北千住駅に向かい、そこで東武線に乗り継ぐよう案内している。三越前駅や清澄白河駅で直通運転中止に遭遇した場合は、いったん、大手町駅へ戻ることになる。事故などで直通運転中止となる事例は意外に多く、利用客はその都度不便を強いられる。何とか改善できないものだろうか?

4)都営浅草線―京成線―北総線 

都営浅草線は、泉岳寺駅で京急線、押上駅で京成線とつながって直通運転を実施している。押上駅から千葉方面へ向かうと、京成高砂駅からは北総鉄道に乗り入れ、千葉ニュータウンへと続いている。

日本橋駅から千葉ニュータウン中央駅まで距離は36kmで、ほぼ同じ距離の神保町駅―新宿駅―京王多摩センター駅(都営新宿線&京王電鉄)と比較してみよう。所要時間もほぼ同じなのに運賃がはなはだしく異なる。


京急の品川駅から地下に入る北総鉄道直通電車(左)(筆者撮影)

すなわち、神保町駅から京王多摩センター駅まではIC運賃なら535円(現金540円)なのに、日本橋駅から千葉ニュータウン中央駅までは、倍以上の1120円(現金1130円)もかかるのである。往復すれば、2000円以上となり、勤め先から通勤手当が全額支給されるならともかく自腹で往復するには相当な負担となる。3社にまたがるという事実以上に、北総鉄道の運賃が高すぎるのである。

5)京急線―都営浅草線

京急線はターミナルの品川駅から北へ1駅延伸して泉岳寺駅で都営浅草線に乗り入れている。昼間は快特の半数、羽田空港からのアクセス列車が都営線に直通して便利な状況にある。

しかし、頻繁に利用してみると、時間帯にもよるけれど、意外に品川駅止まりが多いことに気づく。泉岳寺駅の折り返し用の引き上げ線は、京急ではなくて都営地下鉄の管轄であるので、京急は品川駅折り返しを意外に多く設定しているようだ。あるいは品川駅始発を増やしたいのかもしれない。いずれにせよ、ちょっと不便さを感じることがある直通ルートである。

直通は朝夕ラッシュ時だけ

6)東京メトロ東西線―東葉高速線・JR総武線

東京メトロ東西線は中野駅でJR中央線、西船橋駅で東葉高速鉄道とJR総武線との直通運転を行っている。西船橋駅での直通ルートは東葉高速鉄道がメインであり、JR総武線津田沼駅への直通運転は、歴史はあるもののおまけみたいなものだ。

現在、東西線との直通は、朝夕のラッシュ時に限られる。津田沼駅や船橋駅から日本橋駅や大手町駅に直通で行けるメリットは計り知れないのに、諸般の事情があるとはいえ、ちょっと残念な気もする。

7)東京メトロ千代田線―JR常磐線

常磐線を複々線にするにあたり、当時の国鉄は緩行線を地下鉄千代田線と直通運転とすることとした。快速電車と緩行線との乗換駅である北千住駅を御茶ノ水駅のような同一ホームでの乗り換えとしないで、緩行線は千代田線直通のため地下ホームとなり、乗り換えは大変不便な状況となった。快速の止まらない駅から上野方面へ向かうのは、従来と比べて甚だしく面倒になったので、当時「迷惑乗り入れ」と糾弾され社会問題ともなった。

国鉄時代の複々線化は利用者の利便性を考えた方向別複々線としなかったことが、後年さまざまな不便さを生みだしている。いまだ改善されない「負の遺産」ともいえる。

8)JR上野東京ライン(東海道本線―宇都宮・高崎・常磐線、東京駅・上野駅経由の直通ルート)

2015年3月開業のルートで、それまで上野駅が起点だった宇都宮・高崎・常磐線の電車と東京駅が起点だった東海道本線の電車が直通運転を行うようになった。これにより、たとえば宇都宮・高崎・常磐線沿線に住んでいる人が東京駅や新橋駅周辺に通勤する場合、上野駅で乗り換えることなしにダイレクトで勤務地に行けるようになったメリットがある。


上野東京ラインの開業で乗り換えの手間が減った一方、「座れなくなった」との声も(T2 / PIXTA)

並走する山手線、京浜東北線の車内も多少混雑が緩和されたようでもある。さらに、常磐線特急が東京駅を経由して品川駅まで行くようになったため、上野駅始発の頃に比べて便利になったと言える。

けれども、便利になれば乗客は増え、常時車内は混雑している。にもかかわらず、昼間は15両編成ではなく10両編成のこともあり、混雑に拍車をかけている。また、帰宅時に東京駅や上野駅から電車を1、2本待てば確実に座れたであろう通勤客にとっては、中間駅となったことは残念な結果でしかない。わずかに始発電車があるものの、本数はごくわずかだ。

湘南ライナーは東京駅始発で残っているけれど、途中停車駅は限られるし、別途ライナー料金がかかる。グリーン車は、グリーン料金がかかるうえに、東海道本線は、グリーン車利用客が多く、確実に座れる保証はない。上野東京ライン開業を疎ましく思っている人は少なくなく、その人たちにとっては「残念な直通運転」なのだ。

9)JR湘南新宿ライン(東海道本線―高崎線、横須賀線―宇都宮線、渋谷駅・新宿駅・池袋駅経由の直通ルート)

2001年12月運転開始と、すでに20年近い歴史があり、すっかり定着した感がある。それまで、必ず乗り換えが必要だった新宿から横浜方面へダイレクトに行けるようになったメリットは計り知れない。

しかし、便利になったことで利用者が増え、常時混みあい、グリーン車も満席に近い状況が続いている。決して快適とは言えないのは悲しむべきか喜ぶべきか。そのうえ、長距離直通運転のデメリットである列車ダイヤの乱れも少なからず発生する。できれば利用したくないルートだと思っている人もいるのではないだろうか?

線路はつながっているのに…

10)りんかい線、JR京葉線

りんかい線は大崎駅で埼京線と接続し、直通電車が川越駅から新木場駅まで運転されている。新木場駅では京葉線と接続し、実は線路がつながっている。まれにイベント列車が通り抜けることもあるのだ。

しかし、りんかい線と京葉線は直通運転を始める気配がない。メリットはあるのに、運賃計算をどうするのか、埼京線からそのまま直通で舞浜方面へ向かう場合、りんかい線区間の運賃を徴収できなくなるといった鉄道会社側の事情が壁となっているのだ。

りんかい線は運賃も高く、そのあたりも問題視されている。もともとは国鉄時代に貨物線として計画された路線なので、いっそのことJRが買収しても不自然ではないのだが、簡単にはいかない事情も見え隠れしている。何とかならないものだろうか?

以上、首都圏の直通ルートに関して、陰の部分を取り上げてみた。利用者にとってハッピーとなるような改善を期待したいものだ。