セダンとしては圧倒的な売れ行きを見せる新型「クラウン」(写真:風間 仁一郎)

トヨタ自動車が6月26日に発売した新型「クラウン」。15代目に当たる伝統の高級セダンは、自動車業界内外の予想どおりにスタートダッシュを決めた。

クラウンの人気は根強い

トヨタは新型クラウンの発売から1カ月にあたる7月25日時点で、累計受注台数が約3万台になったと発表した。月販目標4500台の約7倍となる出足だ。日本自動車販売協会連合会(自販連)によると、クラウンは今年7月に前年同月比2.3倍の7225台、8月は同2.1倍の5674台を販売。いずれも乗用車通称ブランド別ランキング(軽自動車除く)で上位(7月は10位、8月は11位)に食い込んだ。


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クラウンに続くセダン専用車は価格帯こそ違えど、同じくトヨタ「カムリ」が8月に957台で41位。セダン離れが鮮明な日本の新車市場においても、クラウンの人気は根強く、ブランド力とともにトヨタの営業力の強さも見せつけている。

15代目に当たる新型クラウンの月販目標台数4500台に対し、先代の14代目クラウンは同4000台だった。クラウンは個人・法人ともに乗り換え需要の強い車種ながら、トヨタは15代目クラウンで、新規ユーザーの開拓を最重要課題としている。

トヨタの販売戦略を見ると、「一見客」、つまり「ファーストクラウン」となるお客の獲得に向けたような、販促キャンペーンが目立っているのを強く感じている。デビュー時にはある地域では「歴代クラウン展示会」を展開。「購入資金50万円プレゼントキャンペーン」「購入時用品プレゼント」などまで展開するディーラーまであった。

先代の14代目クラウンは2012年12月25日に正式デビュー。そこから約1カ月後にあたる2013年1月29日時点で累計受注台数は約2万5000台だったため、15代目クラウンのほうが初期受注実績は明らかに多い。

ただ、新車販売の事情に詳しい関係者の間では、「実はトヨタが発表した受注台数の差ほど、15代目と14代目の差はないかもしれない」という意外な声も聞こえてくる。真偽のほどは定かではない。ただ、14代目クラウンの発売から1カ月は年末年始を挟んでおり、14代目の発売初期の営業日は数日単位で15代目よりも少なかったことが、彼らの話の根拠になっているようだ。

ちょっと気になるのは、新型クラウンのウェブサイトにある「工場出荷時期目処のご案内」でわかる大体の納期である。8月30日時点で、3.5Lハイブリッド車が2カ月程度、2.5Lハイブリッドが3〜4カ月程度となっているが、それ以外、つまり2Lターボなどは1カ月以内となっている。

登録車で工場出荷メドが1カ月以内というのはほぼ通常スケジュールで、「即納状態」といってもいい状況となっている。メーカーによっては一部仕様については販売店在庫を持っていてもおかしくはないだろう。

ハイブリッド車は納期がかかっているように見えるが、これもユニット供給の問題なども絡んでいることもあるので、納期の遅れをもって「人気のバロメーター」と言い切れない部分もある。

外観の一本化、「意欲的」それとも「らしくない」?

新型クラウンはこれまでのスポーティな「アスリート」、トラディショナルな「ロイヤル」の区分けをやめて一本化した。流麗な6ライトウインドウのファストバックスタイルを採用したセダンが世界的なトレンドとなり、新型クラウンもそれを採用した。

これが「意欲的」という見方もある一方で、「いままでのようなクラウンらしい重厚さをあまり感じない」といった自動車業界内の意見はある。TNGA思想に基づき、レクサスLSと共通とされるプラットフォームを採用し、メディアの評価も上々なのだが、「あえてクラウンと名乗る必要があったのか?」といった声も聞かれている。個人タクシーやハイヤー、社用&公用車としては、かつての「ロイヤル」のほうがニーズに合いやすい面もある。

とはいえ、クラウンの販売水準がセダンとして群を抜いていることは間違いない。14代目も、モデル末期であった2017暦年(2017年1〜12月)ですら2万9085台と月販平均約2400台を売っている。

トヨタがクラウンを販売していくうえで、強みでもあり、ある意味で拡販にはネックだという見方もあるのは、クラウンの販売チャネルが「トヨタ店」に限られることだ。高級車ブランドの「レクサス店」を除き、トヨタ系の「カローラ店」「ネッツ店」「トヨペット店」という3系列では、クラウンを扱っていない。

トヨタ店は高級車販売に強く、顧客基盤も富裕層をガッチリとつかまえている。だからこそ、新型クラウンが発売になればトヨタ店の上得意客に対してアプローチができ、乗り換えを促進できるのが強みである。

扱いチャネルと販売台数

とはいえ、ここ数年のトヨタは「プリウス」「アクア」「シエンタ」「C-HR」などなど、4系列のすべてにチャネルを広げて拡販を進めているモデルも多い。昨年、フルモデルチェンジした「カムリ」も、かつてのカローラ店専売だった先代では月販目標台数500台に対し、現行モデルはトヨタ全店扱いにすることで月販目標を2400台に高めた。

残念ながらその販売目標こそ達成していないものの、自販連によればカムリの2018年1月から6月までの累計販売台数は1万2057台となり、月販平均ベースでは約2009台となっている。カムリ自体の魅力も上がったが、取り扱いチャネルが増えたことも販売台数増と無関係ではあるまい。

そして、カローラ店やネッツ店は大衆車寄りながら、トヨペット店はトヨタ店ほどではないにしても、高級車を扱っている販売チャネルだ。たとえば、トヨペット店はハイエースを専売車種として取り扱っている。ハイエースを社有車としている中小企業社長は、クラウンのような高級セダンを好む向きもあるかもしれない。トヨペット店は、クラウンと同じ後輪駆動の上級セダンである「マークX」を扱っている。これらの点では、トヨペット店がクラウンを取り扱っても、売っていく先はありそうだ。

そんなことを妄想しつつも、15代目クラウンのうちにトヨタ店以外での併売が始まる可能性はほぼないだろう。ただ、近年、トヨタが少しずつ販売系列を崩していく動きもある中で、各販売店の専売車種をどこまで残せるか。歴史の長さの分だけ、さまざまなしがらみもあり、実行の難しさは十分に承知しているが、クラウンの将来を見ていくうえで、トヨタがこの点について何も考えていないワケもないだろう。