ミキさん(仮名)は理想のタイプを「仕事を頑張る男性」と語る(筆者撮影)

ひと昔前の30歳というと、男性ならば働き盛り、女性ならば結婚して家に入る、というのが一般的なイメージだった。しかし、今は結婚しても事実婚を選んだり、独身生活を謳歌していたり、働き方も会社員やフリーランスなどさまざまだ。
今の30歳は1987年、1988年生まれ。彼ら、彼女らは昭和生まれ最後の世代。物心ついたときにはバブルが崩壊し、その後は長い不況にさらされる。また、「ゆとり世代」のはしりでもある。就職活動を始める時期にはリーマンショックが起こり、高学歴なのに内定がないまま卒業した人もいる。
景気の良い時代を知らない現在の30歳は、お金に関してどんな価値観を抱いているのか。大成功をしていたり、特異な人ばかりが注目されがちだが、等身大の人にこそ共感が集まる時代でもある。30歳とお金の向き合い方について洗い出す連載、第2回。

お小遣いに関しては甘い家庭だった

千葉県出身のミキさん(仮名)は父、母、3歳上の姉の4人家族。父は銀行員、母は専業主婦の家庭に育った。現在は東京都内でひとり暮らしをしながら保険会社で働いている。小さい頃のことを振り返ると、親はお小遣いに関して甘かったと語る。


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「小学生の頃から、数百円程度のお小遣いをもらっていて、コンビニで良い香りのコロンや色つきリップなどを買ってオシャレを楽しんでいました。中学生の頃は毎月5000円、高校の頃は1万円もらっていました。

でも、周りの友達はそんなにお小遣いをもらっていなかったので、毎月1万円をもらっているなんて言わないようにはしていました。姉も同じくらいお小遣いをもらっていたけど、父が特に趣味のない人なので、ほかにお金を使うところがなかったのだと思います。

また、アルバイトをするようになってからもお小遣いをくれると言われて、さすがにそれは悪いので断りました。でも、千葉から都内の大学まで1時間半ほどかかっていたので、通学定期券代は親が出してくれていました」

お小遣いに関しては甘かったが、食事のマナーや門限などのしつけは厳しかった。中学生の頃、周りのクラスメートたちが塾に通い始めたので、流されるようにミキさんも塾に通った。そこで、大学生のアルバイトの塾の先生を好きになった。授業が終わった後も、長々と先生とおしゃべりをしていたら門限に遅れてしまい、親からきつく怒られた。

恋愛以外の趣味は旅行

高校では2年の頃から勉強を頑張った結果、指定校推薦枠を取れるくらいまで成績が上がった。大学受験をしたくないという思いから、指定校推薦で某有名女子大学の文学部に入学した。

「この大学を選んだことに特別な理由はなかったけど、ほかの有名大学の指定校枠を自分よりも成績の良い子に取られちゃったのと、自分が興味のある文学部の講義が充実していたので。ただ一点、女子大ということで、赤文字系ファッション誌から飛び出したようなキラキラ女子ばかりなのかなと不安もありましたが、入学してみるとそうでもなくて安心しました」

入学後、サークルには入らなかった。インカレサークルでは他大の学生と触れ合えるが、大学生特有のおちゃらけたノリが怖かったのと、終電が早いことがいちばんの理由だった。大学1年のうちは必修科目が多いので、そのすき間にコンビニでのアルバイトを入れた。


学生時代は恋愛に明け暮れていた(筆者撮影)

周りの友達はみんな彼氏がいた。友達との約束よりも恋愛を優先する子が多かったため、講義の後に友達と遊ぶということもあまりなかった。また、ミキさん自身も学生時代は恋愛しかしていなかったと語る。バイト先の人や、当時SNSのmixi(ミクシィ)全盛期だったため、mixiで出会った社会人と付き合った。

「恋愛ばかりでしたが、大学1年か2年の頃、タイに旅行に行ったことをきっかけに旅行が趣味になりました。就活が終わってからはインドやベトナムなど、東南アジアを中心に旅行していました」

「今も、特にお金を使う趣味はありませんが、強いて言うと1年に1回ほどの旅行だと思います。旅行でドカンと使う感じです。化粧品も好きで、ワンシーズンに1つ程度デパートコスメを買いますが、服はユニクロやZOZOTOWN(ゾゾタウン)で適当に買っています。デパートで何万円もするワンピースを買うことなんてないです」

冒頭でもお伝えしたよう、この世代はリーマンショックにより就活が思うようにいかなかった世代だ。ミキさんも就活で苦しんだ。

「幼稚園の卒園アルバムの“将来の夢”の欄には『立派な大人になること』と書いていたほど、将来就きたい仕事がありませんでした。でも、親も銀行員だから、とりあえず銀行いっとけばいいか〜くらいのノリで金融系に絞って就活をしていたのですが、とにかく内定が出ない。興味のない会社に、さも興味があるように面接で振る舞うのが精神的にきつかったです。でも、なんとか大学3年の秋に某銀行の内定が出て就活を終えました。シフト制の勤務という点が嫌でしたが、そこしか内定が出なかったので……」

転職後、給料がアップ ひとり暮らしを開始

就職後も千葉の実家から都内の職場に通った。最初は経理部に配属され、初任給は手取りで15万円ほど。ボーナスも出て年収は300万円ほどだった。1年目は1万円、2年目からは3万円を家に入れた。ここでも親は甘く、「家にお金を入れなくていい」と言ったが、その後もなんとなくお金を入れ続けた。

初めは経理部で勤務をしていたミキさんだったが、ある日営業部に異動になった。しかし、口座を欲しくもない人に勧めたり、裕福そうな顧客のリスト順に営業電話を入れたりするのが苦痛でたまらなかった。営業は向いていないと思った。そして、3年近く勤めてから転職を決意した。

「転職活動は新卒での就活に比べてとても楽でした。窮屈なリクルートスーツを着る必要もないし、威圧的な面接もありませんでした。5〜6社面接を受け、保険会社の内定が出て、今もそこで5年ほど働いています。やっている仕事の内容は保険金の支払いなど、主に事務です。職場の人間関係もそれなりに良いです。でも、同じくらいの年齢の女性が多いので『私のほうがあの人より仕事が多くて大変だ』みたいな小言はたまに聞きます(笑)。銀行勤めだったときは、パートの中年女性などもいたので、やりやすいといえばやりやすい部分もありました」

転職して1年ほど経った頃、都内でひとり暮らしを始めた。月給がひとり暮らしできるほどの手取り額になったのと、実家から職場までが遠いこと、そして良い年齢だから家を出ようと思ったからだ。初めてのひとり暮らし。大学時代の友達が物件探しを手伝ってくれた。保証人は親ではなく保証会社に頼んだ。家具も全部そろえると、引っ越しで60万円ほど使った。転職後の手取りは25万円ほどで、現在は28万円に上がった。先日、夏のボーナスも50万円ほど出た。

ミキさんは学生時代からちょこちょこと貯金をし、今も毎月3万円ずつ貯金をしている。ボーナスの時期は一気に20万円以上貯金をする。現在の貯金額は450万円。本当は毎月5万円貯金をしたいがそれはさすがにきついと語る。

「家賃は7万円。入浴はシャワーで済ますのでガス代がとても安くて1500円、電気代は2500円、携帯電話利用料が8000円。毎月現金を8万円下ろして食費に3万円くらい使います。料理はまったくしないので、外食、または買ってきたり。自由に使えるお金は5万〜6万円ほどです。趣味は旅行だけど、1年に1回だし、休日は調べ物をして過ごしています。最近だとオウム真理教の事件についてネットでずっと調べていました」

月額制のマッチングアプリで婚活中

今回の取材がお金に関するテーマだと言うと、お金が原因で彼氏と別れてしまったエピソードを教えてくれた。

「新卒で働いた会社で同期入社の男性と付き合っていましたが、当時はお互いワーキングプア状態。ところが、お互い転職したら2人とも収入が上がりました。そしたら、お金を手にした途端、彼の態度が変わったんです。タクシーの運転手さんに強い口調でものを言ったり、店員さんに横柄な振る舞いをしたり……。3年ほど付き合いましたが、あっ、これはDVの予兆だな、ヤバイと思って別れました」

お金は人の心に余裕を与えると言われているが、マイナスな方面に変わってしまう人もいるようだ。

そんなミキさんが今、お金を使い始めたのが婚活のマッチングアプリ。実は、2〜3カ月前に彼氏と別れたばかりなのだ。合コンで知り合った彼と1年半付き合ったが、彼に結婚願望がないことが判明。出産できる年齢を逆算すると、結婚願望のない人と一緒にいられないと思い別れを告げた。両親はそろそろ結婚話が上がると思い込んでいるらしく、元カレと別れたことをまだ言えないでいる。

最初は無料のマッチングアプリを使用していたが、なかなか好みの男性と出会えない。そこで、より真剣度の高い月額制の婚活アプリを今月から試すことにした。多くのマッチングアプリは、男性が有料、女性は無料のところが多いが、このアプリは女性も月額5000円かかる。ミキさんはお金と引き換えに結婚相手を探そうとしている。

彼女は有料のマッチングアプリを使うのは初めてだという。まずは1カ月間試してみて様子をうかがうとのことだった。それまでは顔で恋人を選んだこともあったが、今、相手に望むのは「お金が目的ではなく、仕事自体を頑張っている人」だそうだ。前に付き合った彼はお金を手にした途端に豹変した。その傷跡が、彼女の理想のタイプを固めたのかもしれない。