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3メガバンクが危機に直面している。マイナス金利政策による副作用が経営を直撃し、事業モデルが立ち行かなくなっている。この非常事態に「人員・店舗削減」「新卒採用縮小」「ベアなし」のトリプルリストラを断行する。人気企業ランキングでもメガバンクは急降下で、就活学生にも見放された格好だ。メガバンクは構造転換、業務革新で再生できるのか――。

■「人員・店舗削減」「新卒採用縮小」「ベアなし」

3メガバンクが事業モデルの大転換を迫られている。いまだ「出口」すらみえないマイナス金利政策による副作用が国内事業を直撃し、伝統的な事業モデルが立ち行かなくなってきた。

この非常事態に、3メガバンクは「人員・店舗削減」「新卒採用縮小」「ベアなし」のリストラである“トリプル・ダイエット”に踏み込み、国内事業立て直しを急ぐ。3メガバンクをめぐる事業環境が一段と厳しさを増している。とりわけ国内事業の苦境は鮮明で、5月半ばに出揃った2018年3月期連結決算をみれば一目瞭然だ。

本業での儲けを表す実質業務純益は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループのメガバンク3グループがそろって前期から2桁の大幅減益に陥った。日銀のマイナス金利政策により傘下銀行の収益力が劣化したことが大きな要因であるのはいうまでもない。確かに、潤沢な内部留保を抱える企業に借り入れニーズは乏しい。そのうえに、ゼロ金利、マイナス金利と続く超低金利の長期化により利ざやで稼ぐモデルは崩れ、メガバンクの収益力は低下する一方だ。実際、8月はじめにまとまった4〜6月期決算でもMUFG、三井住友FGが実質業務純益で減益となった。

その意味で、大量採用した人員を全国や大都市圏に張り巡らせた店舗に配置してきた伝統的な国内事業モデルは、限界にぶち当たったともいえる。この点について、三菱UFJ銀行の三毛兼承頭取は「伝統的な銀行のビジネスモデルは構造不況化している」と危機感を隠さない。完全失業率が2%台に張り付き完全雇用状態にある日本経済にあって、深刻な人手不足に苦しむ業種は多いが、金融機関は人余りが顕在化し、まさに別世界だ。再編に次ぐ再編で巨大化したメガバンクはそれが一段と鮮明になってきた。

しかし、事業モデルの転換を迫られる要素はそれだけで終わらない。人工知能(AI)や金融とIT(情報技術)が融合するフィンテック、さらにコンピューターでオフィスの定型業務を自動化するソフトウエア、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の導入といった技術革新が、否応なしに伝統的な事業モデルに「NO」を突きつける。さらに、人材に対するニーズも様変わりし、大量採用時代が生んだ文系を主体とするホワイトカラーの存在感は薄れる一方だ。この流れはメガバンクを勢い国内で人員削減・店舗削減といったダウンサイジングに走らせる。

■「業務量削減」で店舗リストラを断行

実際、18年3月期に3グループで唯一、最終利益が減益となり、実質業務純益で前期比34%減と3グループで最も減益幅が大きかったみずほFGは、先々とはいえ、26年度末までにグループ従業員を1万9000人減らし、6万人に絞り込む。店舗網も統廃合に取り組み、現在の約500拠点から24年度までに100拠点削減する。メガバンクが中長期的に取り組む「業務量削減」と呼ぶ実質的な人員、店舗のリストラに対しては、三菱UFJ銀行、三井住友銀行も足並みを揃え、今後の事業環境変化に身構える。

MUFGは三菱UFJ銀行などが展開する窓口で接客する従来型の約515店舗を23年度までに半減する一方、自動化でセルフ型などを進める新型店舗を増やし、全体の店舗数を2割程度まで削減する。このほか約9800人分の業務量削減を目指す。三井住友銀行は店舗数で現状を維持するものの、「顧客の行動変化を踏まえ、リアル店舗を見直す」(国部毅三井住友FG社長)とデジタル技術を備えた店舗を想定し、20年度までに4000人分の業務量を減らす。

しかし、メガバンクのダイエットはこの先々の話しだけで終わらない。足下で3メガバンクは4月末までにこの春の賃金交渉でそろってベースアップ(ベア)要求を2年ぶりに見送った。三菱UFJ銀行とみずほFGに至っては、年間一時金(ボーナス)の増額も断念し、前年並みとすることで労使が妥結したほどだ。安倍晋三首相はデフレ経済脱却への道筋を完全にするため、今春闘で経済界に3%という具体的な水準を上げて賃上げを強要した。しかし、いまのメガバンクの低下する体力で首相要請には応じられないのが偽らざる事実だ。

目先で賃金は足踏みし、先行きの昇進、さらに先々の雇用も危ういとなれば、「寄らば大樹」だったメガバンクの中堅行員にも転職が視野に入る。人材サービス企業の求職にはここにきて中堅銀行員の転職希望者が急増しているとされるのも、構造不況に陥ったいまのメガバンクの姿を象徴している。こうした動きは、毎年1000人を超える規模で続けてきた新卒の採用にもストレートに反映された。2019年採用はみずほFGが前年を665人下回る700人と半減する。三菱UFJ、三井住友銀行も1、2割削減し、3メガバンクの19年新卒採用計画は前年の3200人から3割減り、大量採用時代は幕を閉じる。

■人気企業ランキングでもメガバンクの凋落

こうした凋落ぶりを見限るように、多くの調査で学生のメガバンクへの人気はガタ落ちした。一例に19年卒を対象にした日本経済新聞社とマイナビによる就職希望企業調査を挙げると、文系のランキング上位10社から3メガバンクがすべて消えた。前年に4位に着けた三菱UFJ銀行、6位だった三井住友銀行、8位のみずほFGがそれぞれ11位、19位、26位と急落し、常に人気上位の常連だったメガバンクの地位は一気に崩れてしまった。

半面、メガバンク側の採用ニーズもフィンテックへの対応加速などもあり、様変わりした。メガバンクに限らず生損保大手も含め金融界全体は手薄だったデジタル人材を獲得する方向にシフトしており、19年の新卒採用でデジタル専門の採用枠を新増設する動きが目立つ。これまでならメガバンクは幹部候補となるいわゆるゼネラリストを大量に採用してきた。学生側、特に文系男子にとって安定した就職先として人気は不動だった。

メガバンクがいま着手しようとしている構造転換と業務革新は、学生側にも意識変革を迫る。米欧の中央銀行と異なり、日銀による異次元金融緩和策は「出口」が実質的に封印されたも同然で、「基礎的な収益力の強化に課題が残る」(坂井辰史・みずほFG社長)メガバンクは身を切るダイエットによって事業モデルを転換し、苦境を乗り切るよりない。

(経済ジャーナリスト 水月 仁史 写真=iStock.com)