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会社の経理部員や人事部員たちは、何を考え、どこを見ているのか。お金の問題を甘く見ていると、「想定外」の落とし穴に落ちることもある。「プレジデント」(2018年3月19日号)では、11のテーマについて識者にポイントを聞いた。第5回は「インサイダー最新事情」について――。

■1回程度なら証券取引等監視委員会は見逃してくれるか?

事前に入手できるなら、投資家がノドから手が出るほど欲しい株の情報がある。内部者しか知りえない企業のM&A(合併・買収)やTOB(株式公開買い付け)、業績の上方修正だ。無論、そうした重要事実を事前に知る関係者が株式等を売買することは、インサイダー取引として法律で禁じられており、露見すれば5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方を科せられる。

ただ、1回手を出した程度なら、証券取引等監視委員会(SESC)は見逃してくれるか?

「SESCが世間が注目するような事案を狙っているという側面は否定できません。一罰百戒、つまり1つの犯罪を罰することで次に起きそうな百の犯罪を戒めるわけです」と、SESC在籍歴のある公認会計士の野村宜弘氏は語る。「結果的に弁護士や会計士、会社役員、政治家、公務員、マスコミ関係者といった社会的地位の高い方々は、比較的念入りにチェックされている気がします」(同)。

TMI総合法律事務所の石井輝久氏は、「取引額が小さかったり、SESCの手が回らずにたまたま発覚しなかったとしても、取引は記録されています」。

すぐにはバレなくても、記録が積み重なると捕捉の可能性は上がるし、億単位で一気に儲けるには相当のタネ銭が必要。市場ですぐ目をつけられてしまう。

「手を出す人の大半は、1度だけでなく何回も取引を繰り返しますし、最初はバレないよう細心の注意を払っていても、だんだん雑になっていく」(石井氏)

非常に強力な捜査権限があるので、証券口座のお金の増減や振込先といった調査に必要な情報はだいたい取れる、と野村氏。

■インサイダー取引がバレたら自分は解雇か?

「タレコミも多いですね。SESCには通報窓口がありますが、仲間割れや、口座名義を借りた飲み屋の女性による『ほかに女ができた』のが契機と思われるものとか」(石井氏)、「本人が守る価値がある男か否かが焦点ですが、彼女たちに法律上の守秘義務はないし、わが身可愛さで全部話しますよ」(野村氏)

実際、バレるとどうなる?

「サラリーマンの場合、バレたら会社にガサ入れが入って、本人は社会的制裁を受けます。もちろん、就業規則上、解雇になるでしょうね」(石井氏)

「多くは仕事絡みで得た情報で株取引を行っているので、重要情報の決定時期と嫌疑者の関係等がわかるありとあらゆることを調べるため、勤務先にガサ入れが入るのは当然」(野村氏)

自分が原因で、社長室や総務部、ひいては取引先に捜査員が入ったときの心理的ダメージは計り知れない。

「SESCは本気になるとコスト度外視で、口座開設時からすべての期間の取引を調べ上げ、本人が忘れた頃にやってきます」(野村氏)――目をつけられたら終わり、のようだ。

▼インサイダーがバレる「3つの穴」
(1)回数を重ねるうち、やり方が雑になる
・取引金額が大きくなって目立つ
・取引に時間差をつけなくなる
・他人名義・休眠会社名→自分の名義で取引するようになる
・海外を経由させず国内の口座で取引するようになる
(2)密告される
・裏切りやその報復など仲間割れ
・女性の裏切り(名義を借りた愛人、飲み屋の女性、妻)(ほかに愛人ができた、守る価値がないetc)
(3)怪しい複数銘柄の共通項から絞り込める
・TOB、M&A等は情報を持つ人が限られるため(主幹事、弁護士、監査法人、ファイナンシャルアドバイザーetc)

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野村宜弘

公認会計士
金融庁証券取引等監視委員会事務局等を経て2011年野村宜弘公認会計士事務所設立。

 

石井輝久

弁護士
金融庁証券取引等監視委員会事務局等を経て2018年TMI総合法律事務所。

 

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(坂本 晃一 撮影=初沢亜利 写真=Getty Images)